絵付けと焼き
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/03 05:28 UTC 版)
古代ギリシアの陶芸の特徴でもある金属光沢のある印象的な黒のスリップ(液状粘土)は、酸化カルシウムの含有量が少なく酸化鉄や水酸化鉄を豊富に含むイライト粘土の細かい粒のコロイド溶液で、本体に使われている粘土とはカルシウム量や鉱物組成や粒度が異なる。20世紀の研究者らによれば、アッティカの黒いスリップの化学組成を安定させるため、木や植物を燃やした灰、尿、タンニン、血などを解膠材として混ぜたと言われている。このスリップを濃縮してペースト状にし、陶器表面の装飾に使った。これを塗った部分が焼いた後に黒くなる。 黒い色は燃焼によって酸素含有量が変化することで発色する。まず窯を920から950℃程度まで加熱し、空気取り入れ口を全開にして酸素を供給すると、陶器本体もスリップを塗った部分も鉄分が酸化してヘマタイト (Fe2O3) となって赤茶色になる。次に空気取り入れ口を閉じて生木を薪に加えると一酸化炭素が発生し、赤いヘマタイトが還元され黒いマグネタイト (Fe3O4) になる。この段階で温度は不完全燃焼のために低下する。最終的な再酸化工程(約800から850℃)で空気取り入れ口を開いて酸素を再度供給すると、スリップを塗っていない部分の粘土の鉄分が再度酸化して黒からオレンジ系の赤い色に変化する。前の工程でスリップが塗られた部分の表面は化学組成が変化しており、それ以上酸化されることなく黒いままとなる。これを「鉄還元法」などと呼び、18世紀中ごろ以降の古典学者や化学者が解明した。
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