真正不作為犯と不真正不作為犯
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/17 08:02 UTC 版)
「不作為犯」の記事における「真正不作為犯と不真正不作為犯」の解説
不作為犯は、真正不作為犯と不真正不作為犯の2つに分類されて論じられることが多い。 真正不作為犯(独:echte Unterlassungsdelikt) 現在の日本の通説的な見解によれば、真正不作為犯とは、刑罰法規の文言上、実行行為が不作為によって遂行されることを予定している犯罪をいう。文言上は「○○しなかったときは…」などと規定される。刑法典上の罪としては、例えば、多衆不解散罪(b:刑法第107条)、不退去罪(b:刑法第130条)、保護責任者遺棄罪(b:刑法第218条後段)などが真正不作為犯であると解されている。 他方で、ドイツ語法圏においては、犯罪構成要件が不作為という実行行為に尽きており、結果発生の有無を問わずに成立する不作為犯のことを真正不作為犯と称する理解も有力である(特にオーストリア)。これは、真正不作為犯という概念を(作為犯における)単純挙動犯とパラレルなものと位置付ける理解である。 不真正不作為犯(独:unechte Unterlassungsdelikt) 現在の日本の通説的な見解によれば、不真正不作為犯とは、刑罰法規の文言上、通常は作為によって遂行されることを予定されている犯罪が不作為によって遂行される場合をいう。 例えば、殺人罪(刑法第199条)は、「人を殺」す行為を実行行為と規定しているところ、この構成要件要素は、典型的には、ナイフで身体の枢要部を刺突する行為や身体の枢要部めがけてピストルを発射する行為といったような積極的な作為によって充足される。もっとも、現在の日本の通説的な見解は、「人を殺」すという構成要件要素は、前述のような積極的作為によって充足されうるだけでなく、子と同居する親権者がその子を殺意をもって食事を与えず餓死させるといったような不作為によっても充足されうると解している。これが不真正不作為犯の典型例である。自動車で轢いて重傷を負わせた被害者を路上に放置し死亡させたといういわゆるひき逃げ事案について、殺人罪(b:刑法第199条)の不真正不作為犯がそもそも、また、いかなる範囲で成立しうるかについては学説上、活発な議論が存在する。現在の日本の実務上は、殺人罪のほか、放火罪、死体遺棄罪、詐欺罪について不真正不作為犯の成否が問題とされている。 ドイツ語法圏においては、前述の真正不作為犯の定義に対応して、犯罪構成要件が不作為という実行行為に加えて結果発生(具体的危険犯の場合には具体的危険の発生を含む)まで要求する不作為犯のことを不真正不作為犯と称する理解も有力である。
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