溶液の標準状態
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/06 17:12 UTC 版)
溶媒の標準状態は、純溶媒の標準状態に等しい。 溶質の標準状態は、質量モル濃度 1 mol/kg の仮想的な理想希薄溶液である。 この仮想溶液は、溶質と溶媒の相互作用が現実の溶液と全く同じで、溶質同士の相互作用が全く存在しない溶液である。現実の溶液では、濃度ゼロの極限で溶質同士の相互作用がゼロになる。よって、溶液反応の標準反応エンタルピー ΔrH° と標準反応エントロピー ΔrS°、および標準溶解エンタルピー ΔsolH° は、いずれも無限希釈状態への外挿値として得られる。例えば標準中和エンタルピー ΔnH°(25 °C) = −55.8 kJ/mol は、強酸と強塩基の中和エンタルピーを濃度を変えていくつか測定し、測定結果を濃度ゼロの極限に外挿することにより得られた値である。 溶質成分 B の部分モル体積 VB や部分モル熱容量 Cp, B のような部分モル量(英語版)もまた、無限希釈の極限で VB° や Cp, B° に収束する。それに対して、部分モルギブズエネルギーすなわち化学ポテンシャルは無限希釈の極限で負の無限大に発散する。そのため、温度 T の溶質成分 B の標準化学ポテンシャル μB°(T) は、SSPの下にある質量モル濃度 1 mol/kg の仮想的な理想希薄溶液における化学ポテンシャルとして次式で定義する。 μ B ∘ ( T ) = lim all m i → 0 [ μ B ( T , p ∘ , m 1 , m 2 , . . . ) − R T ln ( m B / m ∘ ) ] {\displaystyle \mu _{\text{B}}^{\circ }(T)=\lim _{{\text{all}}\,m_{i}\rightarrow 0}[\mu _{\text{B}}(T,p^{\circ },m_{1},m_{2},...)-RT\ln(m_{\text{B}}/m^{\circ })]} ここで p° はSSP、mi は i 番目の溶質成分の質量モル濃度、R は気体定数、m° は 1 mol/kg であり、μB(T, p°, m1, m2, ...) は実在溶液における成分 B の化学ポテンシャルである。この定義により、溶質成分 B の標準化学ポテンシャル μB°(T) は VB° や Cp, B° と同様に、溶液の濃度 m = (m1, m2, ...) には依らない値となる。SSPの下での実在溶液の成分 B の化学ポテンシャルは μB°(T) を使うと μ B ( T , p ∘ , m ) = μ B ∘ ( T ) + R T ln ( m B / m ∘ ) + R T ln γ B ( T , p ∘ , m ) {\displaystyle \mu _{\text{B}}(T,p^{\circ },{\boldsymbol {m}})=\mu _{\text{B}}^{\circ }(T)+RT\ln(m_{\text{B}}/m^{\circ })+RT\ln \gamma _{\text{B}}(T,p^{\circ },{\boldsymbol {m}})} と表される。ここで γB(T, p°, m) は成分 B の活量係数であり、温度、圧力、濃度の関数である。 溶質の標準状態の定義は、溶媒の標準状態の定義と比べて複雑である。しかし、標準状態をこのように定義すると、溶質成分間の相互作用による理想溶液からのずれをすべて活量係数 γB に押し込めることができる。溶液の非理想性が標準状態に取り込まれずに済む、というのがこの定義のポイントである。
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