渡り鳥としての表象
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/10 15:58 UTC 版)
ウクライナはクロヅルなどのツルが越冬地としているため、ウクライナにおいてはツルは夏鳥である。ツルがウクライナに来ることは春の知らせであり、クリスマスの3週間後にツルがやってくるとされる。ツルが南に戻っていくと、その年の暖かい時期が終わったことがもっともはっきり分かる。「ツルが高く飛ぶと冬はまだ遠く、低く飛ぶと冬が近い」という言い伝えがある。 渡り鳥が戻る南は、スラヴ神話に由来する民俗信仰ではuk:Вирій(スラヴ神話のあの世)とされている。ウクライナでは春のツル"журавель"の別名として"веселий"がある。民間伝承によれば、春にツルが「クルーックルーッ(кру-кру)」と幸せそうに鳴くのは、その春から夏にかけて生まれてくる赤ん坊の魂をвиріюから運んで戻ってきたからである。そのため、春のツルは幸せな(宇語:веселим)気分でいるから"веселики"と呼ばないといけない。もし春のツルを"журавлі"と呼んでしまうと、一年中悲しみ(宇語:журба)が訪れてしまう。秋にツルが「クルーックルーッ(кру-кру)」と悲しそうに鳴くのは、罪深い死者の魂をвиріюに運んでいくからである。 ただし、ウクライナ文学における動物名の単語の登場頻度を調べた研究Чорненький 2009によれば、"веселик"という単語は、実際にはウクライナ文学にほとんど登場していなかったという。また、他の伝承には、春に死者の魂は(ツルに限らず)鳥の姿でВирійから地上に来て、秋に地上からВирійに戻るとするものもある。 Хомік 2019によれば、ツル、コウノトリ、ハヤブサ、タカといった鳥はかつてのスラヴの伝統文化の中では、天上と地下、聖と邪の両面性を持つ生き物で、ツルの"веселик"という別名は、そのうちの「死」という一面から身を守るための魔術的な婉曲表現であるという。 死者の魂については、プルィルークィ(英語版) 市の戦没者モニュメントには鶴の絵が描かれており、作者によれば、空に飛んで行った戦士たちの魂を象徴しているという。
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