実際の性能とその影響
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/28 10:16 UTC 版)
「CDC STAR-100」の記事における「実際の性能とその影響」の解説
STAR-100のアーキテクチャは、実世界の性能がピーク性能より低いことを意味している。いくつか理由があるが、第一の理由はベクター命令がメモリからメモリへの命令であるためで、メモリから演算ユニットまでのパイプラインが非常に長く、処理を開始するまでに相対的に長い時間がかかるためである。7600のパイプライン演算ユニットはレジスタベースであり、STARのパイプラインはそれよりも深い。さらにサイクルタイムが7600よりも遅いことで問題が悪化した(7600は27.5ns、STARは40ns)。そのために7600よりも高性能を発揮するにはベクターを50要素以上に長くする必要が生じた。データの要素数が少ないループの場合、ベクターの設定をするためのコストがベクター命令(群)の効果を上回ってしまう。 1974年にリリースされたとき、通常の性能が期待していたよりずっと低いことがすぐ明らかになった。効果的にベクター化できるプログラムはごく少数で、ほとんどのプログラムでは命令はその直前の命令の結果に依存しているために、前の命令の結果が出るまでパイプラインを止めなくてはならなかったのである。このためプログラムはベクターの設定に大きなコストを払わされた。問題を悪化させたのはベクター性能を向上させるためにスカラー性能が犠牲にされたことである。基本的な命令を実行しようとすると、全体の性能は劇的に低下した(アムダールの法則参照)。 STAR-100システムは、ローレンス・リバモア国立研究所 (LLNL) とNASAのラングレー研究所に納入される。LLNLではその納入前の準備としてSTARのベクター処理を7600上でエミュレートし、そこでSTACKLIBと名付けたサブルーチン群のライブラリを開発した。STACKLIB開発の過程で、STACKLIBを使ったアプリケーションを実行したとき、ベクターライブラリを統合したときよりも通常の7600上の方がむしろ高速であることが判明した。このためSTARの性能問題にさらなる圧力がかかることになった。 STAR-100 は関係者を失望させた。チーフデザイナーの Jim Thornton はCDCをやめ、Network Systems Corporation を設立した。改良版は CDC Cyber 203としてリリースされ、さらに性能を向上させた1980年の Cyber 205 に引き継がれていく。しかし、市場ではクレイ・リサーチのシステムの高性能にかなわなかった。STARの失敗によりCDCはスーパーコンピュータ市場での独占状態を失い、1982年にETAシステムズで再挑戦することにつながるのであった。
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