売主の義務
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/17 13:33 UTC 版)
財産権移転義務売主は財産権移転義務を負う(555条)。この財産権移転義務は買主に財産権を完全に移転する義務であり、財産権が所有権のように目的物を支配する権利である場合はその目的物の引渡し義務が生じ、また、買主の対抗要件(177条、178条、第467条)の具備に協力すべき義務や証拠書類等を引き渡す必要がある。 目的物の引渡しについては、引渡しの対象が特定物である場合は、善管注意義務をもって保存する義務(第400条)を生じる。保存義務の保存とは、保存行為の保存と同義であり、自然的又は人為的作用により目的物の財産的価値が損なわれないようにすることである。善管注意義務は2017年の改正民法で「契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意」と具体化された(2020年4月1日施行)。善管注意義務は無償寄託の受寄者などの負う「自己の財産に対するのと同一の注意」よりも程度の高い注意義務である。善管注意義務違反については売主に立証責任がある。引渡しの対象が不特定物・種類物である場合は、自己の財産におけるのと同一の注意義務で足りるが、目的物が特定した後は善管注意義務を負う。 対抗要件の具備については、2017年の改正民法で、売主は、買主に対し、登記、登録その他の売買の目的である権利の移転についての対抗要件を備えさせる義務を負うことが明文化された(2020年4月1日施行)。所有権移転登記手続に協力すべき義務を所有権移転登記手続債務といい、所有権移転登記手続債権(いわゆる債権的登記請求権のこと)に対応するものである。 果実の帰属売買で所有権が買主に移転しても、引き渡されていない売買の目的物に果実を生じたときは、その果実は、売主に帰属する(575条1項)。 売主が目的物引渡義務を遅滞していても代金の支払前であれば果実を収取できる(大連判大正13年9月24日民集3巻440頁)。しかし、買主が代金全額を支払ったときは目的物の引渡しの前でも果実の権利は買主に帰属する(大判昭和7年3月3日民集11巻274頁)。 売主の担保責任売主の担保責任(第561条以下)は、2017年の改正民法で契約不適合責任に拡張され、従来の法定責任としての売主の担保責任と契約責任を融合したものとなり、債務不履行責任の性質を持つ制度として統合された(2020年4月1日施行)。
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