塩化水素の付加
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/01 21:51 UTC 版)
アルケンに塩化水素 (HCl) が求電子付加すると、ハロゲン化アルキルを与える。例えば、エチレンに塩化水素が付加すると、クロロエタンが得られる。この反応は、以下のようなカルボカチオンを中間体とする機構で進行する。 アルケンのいずれかの炭素にプロトン (H+) が付加し、もう一方の炭素を中心とするカルボカチオン 1 が発生する。 カルボカチオン 1 と、塩化水素あるいは塩化物イオンが結合して生成物 2、3 を与える。 いったんカルボカチオン 1 を経由するため、生成物の立体選択性(2 と 3 の生成比)は反応の種類によってまちまちである。一方、非対称アルケンに対する付加の位置選択性(H、Cl が左右どちらの炭素に付加するかの比)は多くの場合マルコフニコフ則に従う。すなわち、より置換度の高いカルボカチオンが中間体となるように、置換度の低い炭素にプロトンが付加する。この機構は、A-SE2 機構と呼ばれ、E1脱離機構の逆の経路をたどって進行している。IUPAC表記法では AH+AN と表される。 補足 1 の段階において、ハロゲンの付加の場合に見られるような三員環状の中間体は生成せず、類似した構造の遷移状態を経てカルボカチオン 1 まで至ることが理論計算によって予想されている。 フッ化水素 (HF)、ヨウ化水素 (HI) も塩化水素と同様な反応を起こす。一方、臭化水素 (HBr) は条件によってはラジカル付加反応が競争し、マルコフニコフ則に従わない生成物が得られる。ラジカル捕捉剤や相間移動触媒を用いることによってマルコニコフ型の付加物が、過酸化物などのラジカル開始剤の添加によって反マルコフニコフ型の付加物が、それぞれ選択的に合成できる。
※この「塩化水素の付加」の解説は、「求電子剤」の解説の一部です。
「塩化水素の付加」を含む「求電子剤」の記事については、「求電子剤」の概要を参照ください。
- 塩化水素の付加のページへのリンク