同級生への波紋
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/03 05:07 UTC 版)
結局、菊池は抗弁しないまま、退学処分を受け入れて一高を去ることになった。菊池を慕っていた同寮の成瀬正一は菊池の突然の退学事件にショックを受け、しばらくは理由や事情の分らないまま心配をする毎日であった。佐野から、菊池が大学の本科に入学できるよう高等学校検定試験を受けさせるため奔走している、と聞いていた成瀬は、「佐野の様な親切な友を持つた彼は何と幸福だらう」と勘違いして日記に綴っていた。 四月十六日 菊池は退学するかも知れないと言つて私共を驚かした。あの面白い彼がもう学校へ来ないようになるのは悲しい様な気がする。四月十七日 菊池はもう退学届を出してしまつた由だ。彼に去られるのは悲しい。彼は私の先輩の様な人であつた。私は彼にいろいろ教育された事もあつた。時には彼と共鳴を感じたこともある位だ。どんな事情があるのか知らないけども、私に出来る事なら何でもするから彼が復校できる事を切に願つてゐる。昨夜はねむくて、早く床へ入つたが夜中に眼があいて昂奮して、寝られなかつた。そうして彼を思つた。どうして彼は退校したのだらう。 — 成瀬正一「日記」 同じく同級生だった長崎太郎は、その頃は寮生でなかったので菊池の退学の噂を学校で知った。長崎が佐野に問うと、「菊池はマントを盗み、退学になる筈だ」と答えたため、驚いて詳細や経緯の説明をさらに佐野に求めるが、菊池が破廉恥なことをしたので退学になったと言うだけで、菊池の居場所を訊ねても教えてくれなかった。
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