原子核崩壊に対する安定性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/30 03:53 UTC 版)
「質量欠損」の記事における「原子核崩壊に対する安定性」の解説
本項では、例としてある原子核がアルファ崩壊に対して安定であるかどうかと言うことを質量欠損を用いて考えてみることとする。 アルファ崩壊は、原子核がアルファ粒子(ヘリウム原子核)を放出して、原子番号が2、質量数が4だけ少ない原子核に変換する反応である。この反応が起こるためには、アルファ粒子を放出するだけのエネルギーをどこかから持ってこなければならない。通常この反応が起こるのは、元の原子核(親核などと呼ばれる)の質量欠損が、崩壊した後の核種(娘核と呼ぶ)の質量欠損とヘリウム原子核の質量欠損をたしたものよりも小さい場合に限られる。質量欠損の差により生じる余剰なエネルギーこそがアルファ崩壊を起こす源なのである。とはいっても、原子核の崩壊を引き起こすためには、通常かなり高いポテンシャル障壁を超えなければならないので、アルファ崩壊に対して不安定な核種だからと言って直ちに崩壊すると言うことは無い。ある確率によっておこるトンネル効果でポテンシャル障壁をすり抜けた場合のみ崩壊が起こるので、一般にアルファ崩壊が起こるのにはかなり長い時間がかかり、半減期が数万年から億年以上と言う核種も少なくない。 上記の議論は原子力発電や原子爆弾などで利用されている原子核分裂の場合も同様に考えることが出来る。アルファ崩壊の場合には、分裂後の片方の原子核がヘリウム原子核に固定されていたが、原子核分裂では、分裂によって生じる核がそれに限らず、またいくつかの自由な中性子なども同時に生じると言う点が異なるだけである。また、ベータ崩壊やベータプラス崩壊、軌道電子捕獲などの他の原子核崩壊の場合にも基本的には同様である。ただし、それらは原子核のほかに電子もかかわる反応であるから、電子の質量分のエネルギーも考慮に入れなければならない。 自然界に存在する原子核は、ほぼ基底状態(その核種の採りうるエネルギー状態のうちで最もエネルギーが小さい=質量欠損が大きく安定な状態)で存在する。ごく稀に放射線などの影響で励起状態(基底状態よりもエネルギーが大きい状態。外からエネルギーを加えることによって生ずる)になることがあってもガンマ崩壊(原子核がガンマ線を放出してよりエネルギーの低い状態に移行すること。)によって、直ちに基底状態に移行する。とはいっても励起状態は通常よりも原子核の持つエネルギーが大きい状態であるから、その分だけ質量欠損は減少した状態である。したがって励起状態の核が、上記のアルファ崩壊等を起こす条件を満たしていると、ある確率で原子核崩壊が起こり、核種が変換することがある。
※この「原子核崩壊に対する安定性」の解説は、「質量欠損」の解説の一部です。
「原子核崩壊に対する安定性」を含む「質量欠損」の記事については、「質量欠損」の概要を参照ください。
- 原子核崩壊に対する安定性のページへのリンク