単純反応と複合反応
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/02/21 07:19 UTC 版)
反応速度の全反応次数は反応の原系の成分数と合致することが反応速度式の解釈から期待されるが、実際の反応では成分数よりも少ない反応次数の速度となることが多い。その原因の多くは目的の反応が反応式で書き表されている反応物から生成物が直接生成する単純反応(たんじゅんはんのう、simple reaction)ではなく、反応式には現れない反応中間体(はんのうちゅうかんたい、reaction intermediate, intermediate product)を介した複数の反応過程を経由する複合反応(ふくごうはんのう、complex reaction)であることによる。反応中間体は単に中間体と呼ばれることもある。 反応を考えるとき、物質変化する1つの過程を素反応(elementary reaction)と呼ぶ。この場合で、物質変化が物理変化の場合は、反応素過程(elementary process of reaction)と呼ばれ、反応中間体に相当する物理状態が遷移状態である。反応素過程も含んで素反応と言い表す場合もある。この反応で、反応物の物質の数を分子度(molecularity)という。たとえば、以下の反応の分子度は2である。 H2+Cl2→2HCl 言い換えると、単純反応の場合は単一の素反応で構成されるが、複合反応は複数の素反応と反応中間体を含んで反応が構成されることになる。素反応を介して反応物から反応中間体を経て生成物に至るので、複合反応は連続反応(れんぞくはんのう、successive reaction, consecutive reaction)、逐次反応(ちくじはんのう、consecutive reaction)、連鎖反応(れんさはんのう、chain reaction)とも呼ばれる。 ある反応中間体(あるいは反応物)から2つの素反応が分岐する場合の連続反応は平行反応(parallel reaction)と呼ばれる。平行反応はラジカル反応等ではしばしば見られる素反応構成である。 複合反応を構成する素反応のそれぞれの反応速度が同一であることは少なく、(道路の自然渋滞の先頭車両を見出すことができないことと同様で)反応進行度の変化点である反応中間体は反応系内に存在するものの観測しにくいことが多い。それ故、反応中間体の存在は直接観測されるのではなかった。 反応中間体は、各種の分光法による直接観測や立体障害などで後続の反応を妨害することによる安定化、反応中間体と選択的に反応する試薬によるトラップなどの方法を使い、反応速度や反応機構からその存在が推定される場合が多かった。しかし近年は、分析技術の向上により反応中間体を直接観測できるようになりつつあり、または計算機実験による反応経路の評価などによって存在が推定されている。
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