反応速度式とは? わかりやすく解説

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反応速度式

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/12 20:44 UTC 版)

化学反応反応速度式(はんのうそくどしき、英語: rate equation)あるいは速度式(rate law)[1]とは、反応速度反応物濃度または圧力および定数パラメーター(主に反応速度定数反応次数 )の関係式である[2]。多くの反応では、反応速度rは次のような指数関数で与えられる。

AとBの濃度の、平衡に達するまでの時間変化(A0 = 0.25 mol/l)。正反応の速度定数kf = 2 min−1、逆反応の速度定数kr = 1 min−1

簡単な例

以下のように、2つの化学種の間に平衡が成立しているとする。

反応はt=0でAの初期濃度が、Bの初期濃度が0の状態から始まる。

このとき、平衡定数Kは以下のように書ける。

ここで、は平衡状態でのAとBの濃度である。

時刻tにおけるAの濃度を、Bの濃度をとすると、両者は次の平衡反応の等式を満たす。

ここで、は0であることに注意する。

これは、時刻が無限大となり、平衡に達した状態でも成立する。

これは平衡定数Kの定義より、

ゆえに、

これらの等式により、微分方程式を解かずともAの濃度を求めることができる。

反応速度式は以下のように与えられる。

微分係数が負なのは正反応がAからBに変わる反応なので、Aの濃度は減少しているからである。簡略化するため、時刻tでのAの濃度をxとおく。また平衡時のAの濃度をとする。このとき、

だから

よって反応速度

つまり、

という結果になる[7]

例の一般化

t=0での濃度が上と異なる場合、上式のような簡略化は使えず、微分方程式を解くことが必要になる。しかし、その微分方程式は解くことができ、その解は以下のように一般化したものとなる。

平衡定数が温度によらず一定に近く、反応速度がとても速い場合、例えば分子の立体配座異性体同士の平衡の分析では、反応速度を求めるのには別の方法が必要になる。それは例えば、核磁気共鳴分光法などである。

連鎖反応

反応についてそれぞれの反応の速度定数がであるとき、それぞれの物質の時間当たりの変化量は以下のようになる。

反応物A:
反応物B:
反応物C:

それぞれの濃度が反応物全体の物質量で測られる場合、これらのような線形微分方程式はマスター方程式として計算される。その微分方程式は解析的に解くことができ、解は以下のようになる。

この方程式は定常状態近似によって簡単に解けるようになっている。

並行反応・競合反応

1つの物質から2種類の生成物が生まれる場合、並行反応または競合反応が起こっている。

2つの一次反応が起こっている場合

反応の速度定数がそれぞれであるとする。この時それぞれの濃度の時間変化の式は

と表される。

したがって、積分形の反応速度式は

と表される。

この場合、 が重要な関係式となる。

一次反応と二次反応が1つずつ起こっている場合[8]

これは2分子による反応と、擬一次反応とみなせる加水分解が同時に起こっている場合に適用できる。並行反応によって反応物が一部消費されるため、加水分解の反応速度を調べるのは難しい。例えば、AとRが反応してCが生成するが、同時に加水分解が進行してAがBに変わると言った場合である。反応式で表せば、となる。 反応速度式は以下のとおりになる。

ただしは擬一次速度定数である。

主な生成物Cの濃度について積分すると、以下の式が得られる。

これは

と等価である。

[B]と[C]の濃度の関係は次のようになっている。

これは解析的に得られた解であるが、次の近似が用いられている。

そのため、前の式における[C]は[C]が[A]0に比べ非常に小さい時のみ使うことができる。

反応の量的ネットワーク

化学反応ネットワーク理論英語版の最も一般的な考え方は、個の反応に関わる異なる化学種の数を考えることである[9] [10]。一般に、番目の反応について次のように記述できる。

これは、上式と同値な下式で表されることも多い。

ここで

は1からまでの反応の番号。
番目の化学種。
番目の反応の速度定数
は反応式における反応物および生成物の係数

この反応の反応速度は化学平衡の法則英語版から推測される。

これは単位時間・単位体積あたりの物質の変化量で表される。ここで、は濃度のベクトル[要曖昧さ回避]である。ここで、この式が定義される反応は素反応である事に注意する。

零次反応
が全てのについて成り立つ。
一次反応
がある1つのについて成り立つ。
二次反応
2分子の反応では2つのについてが成り立つ。また二量化ではがある1つのについて成り立つ。

それぞれについて次のように議論される。この時、それぞれの反応について反応の量的関係についての行列(stoichiometric matrix)を定義することができる。

これは番目の反応について存在する正味のの物質量を表す。この時、反応速度式は以下のようなより一般的な形に書き直すことができる。

ここで、これは反応の量的関係を表す行列と反応速度の関数の積である事に注意する。

系内で起こっている反応が可逆反応のみであり、反応が平衡状態にある場合、この方程式には簡単な解が存在する。()この場合性反応と逆反応の反応速度は等しいので、詳細釣り合いが成り立っている。ただし、詳細釣り合いは反応の量的行列のみについて成り立つ性質であり、反応速度関数には依存しない。詳細釣り合いが成り立たない場合については、代謝経路を理解するために開発された流速均衡解析英語版によって研究されている。[11][12]

一般的な1分子の変換反応についての動力学

一般的に、1分子が種類の化学種に変換される反応について、時刻での化学種1 - Nの濃度を through とおくと、各時刻ごとの各化学種の濃度が分かる。ここで、からに変わる反応の速度定数をとおき、などのそれぞれの反応の速度定数を成分とする行列を作る。

また、時間の関数として濃度のベクトルをおく。

そして、ベクトルをおく。

さらに、をN次の単位行列とする。

また、を関数とする。ただしこの関数は対角行列を作り、その対角線上の成分があるベクトルの成分となっているものとする。

そして、からへの逆ラプラス変換英語版)とする。

この時

,

となる。

このようにして、初期状態と時刻での状態の関係が示される。

脚注

[脚注の使い方]
  1. ^ Peter Atkins、Loretta Jones、Leroy Laverman 『アトキンス一般化学(下)』渡辺正 訳、東京化学同人、2011年。ISBN 9784807908554 
  2. ^ IUPAC Gold Book definition of rate law IUPACCompendium of Chemical Terminology英語版も参照
  3. ^ Peter Atkins、Julio de Paula、Ronald Friedman 『アトキンス基礎物理化学(下)―分子論的アプローチ―』千原 秀昭・稲葉 章 訳、東京化学同人、2011年。ISBN 9784807907519 
  4. ^ a b 『アトキンス基礎物理化学(下)―分子論的アプローチ』p.661
  5. ^ Walsh R, Martin E, Darvesh S. A method to describe enzyme-catalyzed reactions by combining steady state and time course enzyme kinetic parameters... Biochim Biophys Acta.英語版 2010 Jan;1800:1-5
  6. ^ a b c NDRL Radiation Chemistry Data Center[リンク切れ] 。次のページも参照のこと。Christos Capellos and Bennon H. Bielski "Kinetic systems: mathematical description of chemical kinetics in solution" 1972, Wiley-Interscience (New York) Archived 2013年4月14日, at Archive.is
  7. ^ これを解いた例としては次のような文献がある。Determination of the Rotational Barrier for Kinetically Stable Conformational Isomers via NMR and 2D TLC An Introductory Organic Chemistry Experiment Gregory T. Rushton, William G. Burns, Judi M. Lavin, Yong S. Chong, Perry Pellechia, and Ken D. Shimizu J. Chem. Educ. 2007, 84, 1499. Abstract
  8. ^ José A. Manso et al."A Kinetic Approach to the Alkylating Potential of Carcinogenic Lactones" Chem. Res. Toxicol.英語版 2005, 18, (7) 1161-1166
  9. ^ Heinrich, R. and Schuster, S. (1996) The regulation of cellular systems.チャップマン・アンド・ホール英語版ニューヨーク
  10. ^ Chen, L. and Wang, R. and Li, C. and Aihara, K. (2010) Modeling biomolecular networks in cells: structures and dynamics.シュプリンガー・サイエンス・アンド・ビジネス・メディア
  11. ^ Szallasi, Z. and Stelling, J. and Periwal, V. (2006) System modeling in cell biology: from concepts to nuts and bolts. MIT Press Cambridge.
  12. ^ Iglesias, P.A. and Ingalls, B.P. (2010) Control theory and systems biology. MIT Press Cambridge.

関連項目




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