別府秘湯女性看護師強盗殺人事件
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/31 03:52 UTC 版)
別府秘湯女性看護師強盗殺人事件 | |
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場所 | ![]() |
標的 | 女性看護師(当時28歳)[1] |
日付 | 2010年(平成22年)8月31日[1] (UTC+9) |
概要 | 男が女性看護師に「車に乗っていきませんか」と声を掛けたが断られたため、強盗を思いついた上で女性看護師の服を脱がすなどのわいせつ行為に及び、現金及び財布や携帯電話などが入った高級ショルダーバッグを奪った[2][3]。その後、首を絞めた後にレンチで頭部などを殴打して殺害し、遺体を現場近くの雑木林に遺棄した[2][3]。 |
攻撃手段 | 首を絞める・レンチで殴打[2] |
攻撃側人数 | 1人[1] |
武器 | レンチ[2] |
死亡者 | 1人[1] |
損害 | |
犯人 | 男(逮捕当時33歳)[1] |
容疑 | 強盗殺人・強制わいせつ致死・死体遺棄[2] |
動機 | わいせつと強盗目的[2] |
対処 | 男を別府警察署捜査本部が逮捕・大分地方検察庁が起訴[1] |
謝罪 | あり |
刑事訴訟 | 無期懲役(第一審判決・控訴せず確定[2][3]) |
管轄 |
別府秘湯女性看護師強盗殺人事件(べっぷひとうじょせいかんごしごうとうさつじんじけん)は、2010年(平成22年)9月に大分県別府市で、秘湯めぐりをしていた女性看護師が他殺体で見つかった事件である。
事件の発生
2010年(平成22年)9月4日、大分県別府市明礬の秘湯「鍋山の湯」に通じる市道脇の雑木林で、旅行中だった女性看護師(当時28歳)が他殺体となって遺棄されているのが発見された[4]。
発見時、首が骨折し、後頭部も陥没骨折しており、近くに血のようなものが付いた石があった[4]。また、被害者の携帯電話などが入った高級ショルダーバッグや3万数千円入りの財布がなくなっていた[4]。
被害者は事件前、母親に「8月28日から九州を1人で旅行する」と連絡した後、九州内の秘湯を軽自動車で巡っていた[4]。現場は温泉に向かう人以外が通ることはほとんどなく、照明もないため、夜は真っ暗で見通しの悪い場所だという[4]。
事件後、「鍋山の湯」に通じる市道は通行止めとなっていたが、防犯カメラ、街灯、注意看板の設置等の防犯対策を実施した上で、2011年2月14日に通行止めが解除され、市道の先にある秘湯「へびん湯」は営業を再開した[5][6][7]。
捜査
大分県警は殺人事件と断定し別府警察署に捜査本部を設置した[4]。司法解剖の結果から、死亡したのは8月31日で、死因は窒息死と判明した[4]。また、8月31日午後6時20分ごろ、被害者の軽乗用車とみられる車が現場から約3km離れた市街地の防犯カメラに映っていたことが分かった[8]。しかし、ナンバーや運転者の確認や特定が困難な上、犯人像が絞り込めなかったこともあって捜査は難航した[8]。
被疑者の逮捕
2011年(平成23年)8月31日、別件の傷害罪などで公判中だった男(当時33歳)が死体遺棄容疑で逮捕された[9][10]。男は2009年3月まで福岡県北九州市小倉北区に本拠を置く指定暴力団・工藤會系組員だった。逮捕にあたって、被害者の携帯電話の使用履歴から男が捜査線上に浮上[9]。現場からは服に付着していた微量の唾液のDNAが検出されていて、これが男のものと一致したため、横浜拘置支所から別府警察署に移送して逮捕に至った[9]。
また、被害者のものと見られる財布と高級ショルダーバッグが男の供述した場所から発見されたため、殺害後、男が持ち去って捨てたと見て強盗殺人容疑での立件を進めた[11]。
2011年(平成23年)9月23日、大分県警は男を強盗殺人容疑で再逮捕した[12][13]。その後、強盗殺人罪及び強制わいせつ致死罪で起訴された。
起訴状では被害者に声をかけたが無視されたため、金品を奪うために「鍋山の湯」駐車場南東約180メートルの市道で被害者の首を絞め、さらにレンチで頭を殴って殺害した後に金品などを奪ったとされている[14]。頭を殴って殺害する際に使われたとされる凶器のレンチが見つかっている[12]。
裁判
公判前整理手続を見据える中で、検察官が取り調べの全過程の録画を弁護人に全て提示するという異例の対応が取られた[15]。
2012年(平成24年)3月6日、大分地方裁判所(西崎健児裁判長)で裁判員裁判の初公判が開かれ、罪状認否で被告人は「金品を奪う意図はあったが、当初からの殺意や、わいせつ目的はなかった」と述べて起訴事実を一部否認した[16]。
冒頭陳述で検察官は、事件当時、被告人は携帯電話の料金を滞納して使えなくなるほど困窮していたと指摘し「夕暮れ時に温泉に続く山道を訪れた際、歩いていた女性を発見、ナンパ目的で声を掛けたが無視され、現金を奪おうと考えた」と犯行に至る経緯を述べた[16]。一方、弁護人は「殺意の発生時期などに誤りがある」と主張した[16]。
2012年(平成24年)3月7日、被告人質問が行われたが、検察官による質問に対して被告人が興奮して証言台を手で押し倒したため、審理が中断した[17]。このため、残りの被告人質問が翌日に延期された[17]。
2012年(平成24年)3月8日、論告求刑公判が開かれ、検察官は「極めて悪質で動機にも酌量の余地はない」とした上で「行きずりの犯行で周到な計画性までは認められない。生涯刑務所に服役し一生かけて罪を償うべきだ」と述べて無期懲役を求刑した[17][18]。最終意見陳述で被告人は「被害者やご遺族の方に大変申し訳ないことをした」と被害者の遺族に謝罪して結審した[18]。
2012年(平成24年)3月14日、大分地裁(西崎健児裁判長)で判決公判が開かれ、裁判長は「残虐な犯行で刑事責任は極めて重大。自己中心的な犯行動機に酌量の余地はない」として検察官の求刑通り無期懲役の判決を言い渡した[19]。判決では、強盗とわいせつ目的で被害者を襲い、犯行の発覚を恐れて殺害したと認定[19]。また、被害者遺族の処罰感情についても「遺族が被告に対する極刑を求めるのも当然」と指摘した[19]。
その上で「被告は自分の行動を振り返り、反省することができていない。繰り返し粗暴な犯罪に及んでおり、再犯の恐れが高い」として、酌量減軽を求めた弁護人の主張を退けた[19]。
この判決に対して検察側、弁護側の双方が控訴しなかったため、控訴期限を迎えた3月29日午前0時をもって無期懲役の判決が確定した[20]。
脚注
- ^ a b c d e f g 「遺棄容疑の男逮捕 看護師殺害事件」『大分合同新聞』大分合同新聞社、2011年9月1日。オリジナルの2011年9月1日時点におけるアーカイブ。2024年12月30日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i 「別府の温泉巡り女性殺害、男に無期懲役の判決 大分地裁」『朝日新聞』朝日新聞社、2012年3月14日。オリジナルの2012年3月14日時点におけるアーカイブ。2025年8月31日閲覧。
- ^ a b c 「別府看護師の強盗殺人 無期懲役が確定」『西日本新聞』西日本新聞社、2012年3月29日。オリジナルの2012年3月30日時点におけるアーカイブ。2025年8月31日閲覧。
- ^ a b c d e f g 「別府の女性遺体は殺人 大分県警断定 首絞められ窒息死」『西日本新聞』西日本新聞社、2010年9月6日。オリジナルの2010年9月14日時点におけるアーカイブ。2024年12月30日閲覧。
- ^ 「秘湯への道封鎖 別府市長が表明 女性殺害事件受け」『西日本新聞』西日本新聞社、2010年9月9日。オリジナルの2010年9月13日時点におけるアーカイブ。2024年12月30日閲覧。
- ^ 「別府女性殺害事件受け 市がホテル業者らと会議」『西日本新聞』西日本新聞社、2010年9月11日。オリジナルの2010年9月13日時点におけるアーカイブ。2024年12月30日閲覧。
- ^ 「防犯対策整い通行止めを解除へ 別府」『大分合同新聞』大分合同新聞社、2011年2月11日。オリジナルの2011年2月21日時点におけるアーカイブ。2014年2月15日閲覧。
- ^ a b 「別府女性殺害 防犯カメラに被害者の車? 現場から3キロ 午後6時17分ごろ」『西日本新聞』西日本新聞社、2010年9月8日。オリジナルの2010年9月13日時点におけるアーカイブ。2024年12月30日閲覧。
- ^ a b c 「別府に男を移送、逮捕へ 女性遺棄容疑」『日本経済新聞』日本経済新聞社、2011年8月31日。オリジナルの2024年12月29日時点におけるアーカイブ。2024年12月30日閲覧。
- ^ 「女性遺棄容疑で川崎の男逮捕 別府の殺害に関与か」『日本経済新聞』日本経済新聞社、2011年9月1日。オリジナルの2024年12月29日時点におけるアーカイブ。2024年12月30日閲覧。
- ^ 「供述場所からバッグや財布発見 別府秘湯殺人事件」『朝日新聞』朝日新聞社、2011年9月13日。オリジナルの2011年9月13日時点におけるアーカイブ。2024年12月30日閲覧。
- ^ a b 「強盗殺人容疑で男を再逮捕 別府の看護師殺害」『日本経済新聞』日本経済新聞社、2011年9月23日。オリジナルの2023年2月3日時点におけるアーカイブ。2024年10月8日閲覧。
- ^ 「別府秘湯巡り殺人「車で追い越し女性待ち伏せ」」『読売新聞』読売新聞社、2011年9月25日。オリジナルの2011年9月28日時点におけるアーカイブ。2011年9月26日閲覧。
- ^ 「強盗殺人の疑い元作業員再逮捕 別府秘湯殺人で大分県警」『朝日新聞』朝日新聞社、2011年9月23日。オリジナルの2011年9月24日時点におけるアーカイブ。2024年12月30日閲覧。
- ^ 「取り調べの録画を全て提示、別府女性殺害で地検 弁護側に」『日本経済新聞』日本経済新聞社、2011年11月17日。オリジナルの2024年12月29日時点におけるアーカイブ。2024年12月30日閲覧。
- ^ a b c 「別府の看護師殺害、当初の殺意否認 地裁初公判」『日本経済新聞』日本経済新聞社、2012年3月6日。オリジナルの2024年12月29日時点におけるアーカイブ。2024年12月30日閲覧。
- ^ a b c 「温泉巡りの女性殺害事件、男に無期懲役求刑 大分地裁」『朝日新聞』朝日新聞社、2012年3月8日。オリジナルの2012年3月11日時点におけるアーカイブ。2025年8月31日閲覧。
- ^ a b 「別府強殺無期求刑」『西日本新聞』西日本新聞社、2012年3月8日。オリジナルの2012年3月8日時点におけるアーカイブ。2024年12月30日閲覧。
- ^ a b c d 「別府看護師殺害で無期懲役 「残虐」と大分地裁」『日本経済新聞』日本経済新聞社、2012年3月14日。オリジナルの2022年8月11日時点におけるアーカイブ。2024年12月30日閲覧。
- ^ 「別府看護師の強盗殺人 無期懲役が確定」『47NEWS』全国新聞ネット、2012年3月29日。オリジナルの2014年3月21日時点におけるアーカイブ。2014年3月20日閲覧。
関連項目
- 比叡山女子大生殺人事件 - 一人旅の女性が山中で殺害された事件
- 裁判員制度
- 別府秘湯女性看護師強盗殺人事件のページへのリンク