個体数推定
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/01 14:14 UTC 版)
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個体数推定(こたいすうすいてい)あるいは密度推定(みつどすいてい)は、単純にいえば生物の数を数えることであり、個体群生態学における基本的課題のひとつである。それ自体もさまざまな問題を含み、多くの研究や方法がある。
概説
生物の個体群を研究対象にする場合、その個体数はごく基本的な情報である。しかし、現実にそれを知ることは多くの場合そう簡単でなく、非常に困難な場合もある。この理由は、一つには野外においてはその生息環境がある程度以上連続しており、しかも解放されているから、生息範囲の把握そのものが簡単ではないこと、野外の自然は多くの場合に構造が複雑で見通しが効かないこと、個体数そのものが時間的に変動することなどが挙げられる。動物であれば移動すること、逃げ隠れすることでさらにその把握が難しくなる。したがって、多くの場合に個体数を直接知ることが難しく、なんらかの方法で推測することになる。これを個体数推定という。
これは生態学においては基本的な技術であると同時に、それ自身が古くから研究の対象とされてきた。一方では野外における個体群研究のあり方と結び付き、他方では生物統計学及び数理生態学の重要な部分を占めている。
なお、多くの生物では生息範囲が広く解放されているから、個体数そのものではなく単位面積当たりの個体数、つまり個体群密度として把握するやり方を取る場合もある。その意味で密度推定という言葉も使われる。
直接に数えられる場合
直接にその数を数えられるなら、その方がよい。上記のように、その数を数えるのが簡単でない場合が多いが、逆にいえば、ある条件が整っていれば、その数を数え切れる場合もある。例えばその生息範囲が非常に狭く、その場所の見通しがよければ全部数えるのはそれほど難しくない。これに相当するのは、例えば小さな島の樹木とか、身を隠すことができないほど大きい動物の場合である。
前者の例では、たとえば小笠原諸島の固有種のムニンツツジは、現在では父島の山頂部に数株を残すのみであり、そこへ行って数えれば全個体数はあっという間に数えられる。
後者の例としてジャワサイは現在50頭といわれ、最少時には1967-68年には25頭であったとされている。いずれも限られた面積に、それも少数だけが存在するからこそできることではある。大きな動物でなくても生息域の中の限られた環境に巣を作る動物の場合、非常に見通しよく個体数を数えることができる。離島に営巣するアホウドリの場合も、繁殖年齢に達した成鳥と親の世話を受けている幼鳥は、容易に全数を数えることができる。
また少々見通しが悪くても、個体識別が可能であれば、個体情報のデータを積み上げることで、個体の全数を得ることができる。霊長類の研究では個体識別を行うことで、個体間の社会的な関係を追跡するが、同時にそれによって研究対象個体群の全個体数も判明していることになる。ザトウクジラやシャチのように斑紋やプロポーションの個体差が大きなクジラでは遠くからでも個体識別が可能で、一部の個体群ではそれによって個体ごとの情報が膨大に蓄積されている。
数えるのがたやすい例の一つとして、ハンミョウの幼虫は裸地の地表に恒久的な巣穴を掘って生活するため、パッチ状に幼虫の生活に適した環境が存在する場合は巣穴をすべて数えつくせばよい。たとえばお墓の周りの裸地などにそのような生息地があり、そこでは見渡して巣穴を数えることが可能である。ただし、ある地域の個体数、となると、その地域にこのような場所がどれくらいあるか、というのが難しい問題となろう。
推定法
直接に数えられない場合は、推定を行うことになる。主要な方法は、大まかには以下のような方法が挙げられる。
- 区画法:コドラート法とも。生息域に一定の面積の方形枠を設定し、その内部の個体数を調べることで、全体の個体数や密度を推定する。移動性の少ないものには適している。特定の器具で、一定の体積から目的の生物を集めることができる場合、例えば採泥器やプランクトンネットを使う場合には、これを区画サンプルとして扱える。
- 除去法:ある個体群内の個体を一定の方法で採集する。捕獲をすれば個体数は少なくなるから、次に捕獲を行った場合、捕獲数が少なくなることが期待される。採集率が一定であれば、その減少の程度から個体数を推定する。繰り返して行うことで精度を上げる。また、その区域の外との出入りがほとんどない場合に適している。例えば、池の魚を網で捕らえる、といったやり方であろう。
- 時間単位捕獲法:罠のようなものを仕掛け、一定時間にとれる個体数から密度を推定する。移動の激しいものが対象となる。採集による個体数減少が無視できる場合と、無視できない場合があり、後者は除去法と同じ扱いになる。
- 移動数法:動物の移動経路がある程度分かっていて、要になる場所でその数を数えられることがある。例えば遡上する魚の数を、魚道のところで数える場合がこれに当たる。
- 標識再捕獲法:何らかの方法で個体群内の個体を採集し、それに標識をつけて再び放す。次に採集を行なった際に、標識のついた個体がある程度採取できれば、その比率から全体の個体数が推定できる。
- 間隔法:個体間の距離を測ることで、分布様式が分かれば密度の推定値を得ることができる。
いずれの方法も一長一短であるから、状況に応じてこれらのうちのどれかを選び、あるいは併用する。また、多くの場合、その回数を増やすことでその精度を上げられる可能性がある。
計算法
代表的でごく基本的なもののみを挙げる。
- 除去法
採集者による採集率aが常に一定であれば、ある時間tの間に採集できた個体数nとしたとき、その場所での総個体数Nであるとすれば、以下のような式が成立する。
個体数推定
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/24 23:05 UTC 版)
ある生物が、実際にどれだけの個体数があるのかを知ることは、野外では意外に困難なものである。それを行うことを個体数推定という。 全体を肉眼で確認できる場合でも、物陰に隠れる個体を探したり、移動によって同じ個体を複数回数えるなど、間違いの生じる原因は数多い。実際には見えないことの方が多いから、推定するにも特別な方法をとらなければならない。 たとえば湖のある種の魚がどれだけ生息しているかを考えてみる。一番確かなのは水を抜くなりして、間違いなく全個体を確認することである。しかし、それが可能な場所は少ないし、その場合でも、攪乱がひどくて、継続調査をすることができなくなるだろう。 比較的小さい湖で、地形が複雑でなく、条件が一様ならば、網ですくうことで、一定割合の個体を捕獲できるかもしれない。その場合、捕獲率がわかれば、そこから全個体数の推定ができる。 もし、捕獲率がわからなくても、繰り返し捕獲することで、推定が可能である。同じ網を使えば、全個体に対する捕獲率はほぼ一定のはずで、捕獲した魚を別の池にでもおいておけば、捕獲するたびに母集団が減少するから、捕獲数は減少する。この減少割合から、全個体数の推定ができる。 捕獲したものをまた湖に戻さなければならない場合、何らかの標識をつけてから湖に戻すことで、推定できる方法もある。次回の捕獲時に、標識をつけたものがどれだけ混じっているかがわかれば、前回の捕獲数から全個体数が推定できる理屈である。この方法は、標識再捕獲法と呼ばれ、様々な場面で利用される。 その他、対象に応じて、様々な推定方法があり、どれが使えるかは、慎重に判断しなければならない。標識法は、その中では重要な技法で、捕獲した全個体それぞれ別々の標識をつければ、個体識別できるので、より多くの情報が入手できる。
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