例 IV: 分岐切断
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/06/30 22:43 UTC 版)
実関数積分 ∫ 0 ∞ x x 2 + 6 x + 8 d x . {\displaystyle \int _{0}^{\infty }{{\sqrt {x}} \over x^{2}+6x+8}\,dx.} を考える。次のように複素積分として書き直すところから始める。 ∫ C z z 2 + 6 z + 8 d z = I . {\displaystyle \int _{C}{{\sqrt {z}} \over z^{2}+6z+8}\,dz=I.} 問題となる留数の値を得るため、再びコーシーの積分公式もしくは留数定理を用いることができる。しかしここで注意すべき重要なことは、z1/2 = e(1/2)Log(z) であり、z1/2 には分岐切断があるということである。このことは、積分路 C の選び方に影響してくる。 対数関数の分岐切断は、普通は実軸のうち負の部分と定めることが多いが、こうすると計算がやや面倒になる。そこでここでは、実軸の正の部分と定めることにする。 ここで、次のような経路を順にたどって得られる、いわゆる「鍵穴積分路(keyhole contour)」を用いる。 原点を中心として時計回りにほぼ1周する半径 ε の小さな円 実軸に上半平面側から接近して(接触はしていない)平行な線分 反時計回りにほぼ1周する半径 R の大きな円 実軸に下半平面側から接近し平行な線分 z = −2 と z = −4 は大円が囲む内部にあることに注意する。被積分関数の分母を因数分解すれば、これらが2個の極だとがわかる。分岐点は z = 0 だが、これは原点を迂回したことによって避けられている。 γ を半径 ε の小円、Γ を半径 R の大円とする。このとき積分路は ∫ C = ∫ ε R + ∫ Γ + ∫ R ε + ∫ γ {\displaystyle \int _{C}=\int _{\varepsilon }^{R}+\int _{\Gamma }+\int _{R}^{\varepsilon }+\int _{\gamma }} と分解できる。 Γ と γ に沿う積分は、先に行ったのと同様の議論で ε → 0, R → ∞ のときにいずれも 0 に収束することが示せて、積分は2項のみが残る。ここで z1/2 = e(1/2)Log(z) であり、分岐切断の外側で γ に沿って動くとき、偏角は 2π だけ変わる。よって ∫ R ε z z 2 + 6 z + 8 d z = ∫ R ε e 1 2 L o g ( z ) z 2 + 6 z + 8 d z = ∫ R ε e 1 2 ( log | z | + i arg z ) z 2 + 6 z + 8 d z = ∫ R ε e 1 2 log | z | e ( 1 / 2 ) ( 2 π i ) z 2 + 6 z + 8 d z = ∫ R ε e 1 2 log | z | e π i z 2 + 6 z + 8 d z = ∫ R ε − z z 2 + 6 z + 8 d z = ∫ ε R z z 2 + 6 z + 8 d z . {\displaystyle {\begin{aligned}\int _{R}^{\varepsilon }{{\sqrt {z}} \over z^{2}+6z+8}\,dz&=\int _{R}^{\varepsilon }{e^{{1 \over 2}\mathrm {Log} (z)} \over z^{2}+6z+8}\,dz\\&=\int _{R}^{\varepsilon }{e^{{1 \over 2}(\log {|z|}+i\arg {z})} \over z^{2}+6z+8}\,dz\\&=\int _{R}^{\varepsilon }{e^{{1 \over 2}\log {|z|}}e^{(1/2)(2\pi i)} \over z^{2}+6z+8}\,dz\\&=\int _{R}^{\varepsilon }{e^{{1 \over 2}\log {|z|}}e^{\pi i} \over z^{2}+6z+8}\,dz\\&=\int _{R}^{\varepsilon }{-{\sqrt {z}} \over z^{2}+6z+8}\,dz\\&=\int _{\varepsilon }^{R}{{\sqrt {z}} \over z^{2}+6z+8}\,dz.\end{aligned}}} ゆえに ∫ C z z 2 + 6 z + 8 d z = 2 ∫ 0 ∞ x x 2 + 6 x + 8 d x {\displaystyle \int _{C}{{\sqrt {z}} \over z^{2}+6z+8}\,dz=2\int _{0}^{\infty }{{\sqrt {x}} \over x^{2}+6x+8}\,dx} 留数定理を使うか、もしくはコーシーの積分公式を使う(まず被積分関数を部分分数分解して、2個の単純な円の周りの積分に書き直してから和をとる)かして、 π i ( i 2 − i ) = ∫ 0 ∞ x x 2 + 6 x + 8 d x = π ( 1 − 1 2 ) . ◻ {\displaystyle \pi i\left({i \over {\sqrt {2}}}-i\right)=\int _{0}^{\infty }{{\sqrt {x}} \over x^{2}+6x+8}\,dx=\pi \left(1-{1 \over {\sqrt {2}}}\right).\quad \square } を得る。
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