乗り上がり脱線の場合
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/10 21:27 UTC 版)
乗り上がり脱線において、車輪のフランジがレールに対して上昇し出す限界脱線係数(Q/P)limitとして下記のナダルの式 (Nadal formula)が用いられる。 Q / P ≤ ( Q / P ) l i m i t = tan θ − μ 1 + μ tan θ {\displaystyle Q/P\leq (Q/P)_{limit}={\frac {\tan \theta -\mu }{1+\mu \tan \theta }}} … (1) ここで、θ:車輪・レールの接触角、μ:車輪・レール間の摩擦係数である。図のような車輪のフランジがレールに乗り上げようとする乗り上がり脱線を考慮するときは、θはフランジ角度にほぼ等しいと考えられる。この式から、フランジ・レール間の摩擦係数が低いほど、フランジ角度が大きいほど、限界脱線係数が大きくなり、乗り上がり脱線に対して余裕を持つことが分かる。 式(1)は1908年にフランスの技術者ナダル(M. J. Nadal)により考案された。ナダルの式は準静的な力のつり合いに基づく簡易な式だが、その後多くの研究者が、アタック角や前後クリープ力などのより現実的な他の条件も考慮して限界脱線係数の値を求める試みを行ってきた。しかし、摩擦係数が同じ場合には、これらの限界脱線係数値はナダルの式による値を下回ることはなく、ナダルの式が安全側の指標を与えることから現在でも有用な指標となっている。 式(1)の導出は以下の通りである。フランジがレールに乗り上がろうとするとき、車輪・レール間の接触点において、右の図のように車輪はレールから接線力Fと垂直力Nを受ける。これらと輪重Pと横圧Qとの関係は Q = N sin θ − F cos θ {\displaystyle Q=N\sin \theta -F\cos \theta } … (2) P = N cos θ + F sin θ {\displaystyle P=N\cos \theta +F\sin \theta } … (3) 式(2)を式で(3)で除すると脱線係数が得られる。 Q / P = N sin θ − F cos θ N cos θ + F sin θ = tan θ − F / N 1 + F / N tan θ {\displaystyle Q/P={\frac {N\sin \theta -F\cos \theta }{N\cos \theta +F\sin \theta }}={\frac {\tan \theta -F/N}{1+F/N\tan \theta }}} … (4) 上式は車輪の平衡状態から計算されたものであるが、車輪の乗り上がりが発生しないためには、車輪に作用する左右方向の外力Lが車輪・レール接触部で作用する左右力よりも小さい必要があり、次の式を満たす必要がある。 L ≤ N sin θ − F cos θ {\displaystyle L\leq N\sin \theta -F\cos \theta } … (5) 式(5)を式(3)で除すると L / P ≤ N sin θ − F cos θ N cos θ + F sin θ = tan θ − F / N 1 + F / N tan θ {\displaystyle L/P\leq {\frac {N\sin \theta -F\cos \theta }{N\cos \theta +F\sin \theta }}={\frac {\tan \theta -F/N}{1+F/N\tan \theta }}} … (6) となり、さらに外力Lは横圧Qと等しいと考え、 Q / P ≤ tan θ − F / N 1 + F / N tan θ {\displaystyle Q/P\leq {\frac {\tan \theta -F/N}{1+F/N\tan \theta }}} … (7) という条件が得られる。式(7)によると、接線力Fが最大のときに限界脱線係数は最も小さくなる。つまり、最大接線力Fを使用して脱線係数の評価をすることで安全側の評価が得られる。車輪とレール間の接線力Fにはクリープ力と呼ばれる力が働く(詳細は粘着式鉄道の粘着現象を参照)。クリープ力の粘着限界時の最大値はクーロン摩擦力で飽和すると見なし、 F = μ N {\displaystyle F=\mu N} を式(7)に代入すると式(1)となる。
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