世界制作論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/26 21:42 UTC 版)
「ネルソン・グッドマン」の記事における「世界制作論」の解説
1975年の『世界制作の方法』において、グッドマンは「人間はヴァージョンを制作することによって世界を制作する」という主張を行った。「ヴァージョン」とは記号システムのことである。例えば、日常的知覚、言語的表現、絵画作品、音楽、表情、身振りなどはいずれも「記号システム」であるが、世界制作とのかかわりで認識論的に重要なのは当然ながら「科学理論」にほかならない。 世界制作論のいくつかの重要な含意のうち最も問題をかもすのは、その複数主義であろう。すなわち、論理的に両立し得ないが「正しい」複数のヴァージョンがありうる、という主張である。それゆえ世界は数的に複数存在することになる。これをどのように解釈すべきだろうか。 彼のこの見地は一種の構成主義であるが、ヴァージョンの背後に何かしら実在する世界なるものを認めるわけではない。この意味で世界制作論はある種の反実在論、いや非実在論(irrealisim)を主張している。この思想は古代東アジアに発祥したブッディズムとりわけ「唯識論」に酷似する点に注意が必要かもしれない。 「緑」と「グルー」のどちらを選ぶかという選択に見られるように、われわれがどういう述語を使って世界を切り分けるかで、世界を構成する基本的なカテゴリー、すなわち世界の存在論は全く変わってくる。同等に「正しい」複数の存在論が存立する結果になる。しかしグッドマンはカント的な「物自体」を是認しない。グッドマンのこうした考え方はヒラリー・パトナムに影響を与え、パトナムが内的実在論を展開する一つの起因となった。
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