一意分解が成り立たないこと
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/05/09 03:44 UTC 版)
「代数的整数論」の記事における「一意分解が成り立たないこと」の解説
(有理)整数環の重要な性質は、それが算術の基本定理を満たすこと、つまり任意の(正の)整数は素数の積への分解を持ち、この分解は因子の並べ替えの違いを除いて一意的であるということである。これは代数体 K の整数環 O においては一般にはもはや正しくない。 素元とは O の元 p であって、p が積 ab を割り切るならば因子 a か b の一方を割り切るもののことである。この性質は整数の素数性と密接に関係する。なぜならばこの性質を満たす任意の正の整数は 1 か素数だからである。しかし、素元の方が真に弱い。例えば、−2 は負だから素数ではないが、素元である。素元への分解を許せば、整数においてさえ、 6 = 2 ⋅ 3 = ( − 2 ) ⋅ ( − 3 ) {\displaystyle 6=2\cdot 3=(-2)\cdot (-3)} 5 = ( 1 + 2 i ) ( 1 − 2 i ) = ( 2 + i ) ( 2 − i ) {\displaystyle 5=(1+2i)(1-2i)=(2+i)(2-i)} のような方程式が導かれ、Z[i] において分解は因子の順序を除いて一意であるということは正しくないことが証明される。そのため、一意分解整域 (unique factorization domain, UFD) において用いられる一意分解の定義を採用する。一意分解整域において、分解に現れる素元は単元と順序の違いを除いて一意であることだけ期待される。 しかしながら、この弱い定義でさえ、多くの代数体の整数環は一意分解を持たない。イデアル類群と呼ばれる代数的な障害が存在する。イデアル類群が自明であるとき、環は一意分解整域である。自明でないとき、素元と既約元の違いがある。既約元 x とは、x = yz ならば y または z が単元であるような元のことである。既約元はそれ以上分解できないような元である。O の任意の元は既約元への分解を持つが、2通り以上できるかもしれない。なぜならば、すべての素元は既約元であるが、既約元は素元とは限らないからである。例えば、環 Z[√−5] を考える。この環において、数 3, 2 + √−5, 2 − √−5 は既約である。これは数 9 が既約元への2つの分解を持つことを意味する: 9 = 3 2 = ( 2 + − 5 ) ( 2 − − 5 ) . {\displaystyle 9=3^{2}=(2+{\sqrt {-5}})(2-{\sqrt {-5}}).} この方程式は 3 が積 (2 + √−5)(2 − √−5) = 9 を割り切ることを示している。もし 3 が素元ならば、2 + √−5 あるいは 2 − √−5 を割り切るが、そうではない。3 で割り切れるすべての元は 3a + 3b√−5 の形だからである。同様に、2 + √−5 と 2 − √−5 は積 32 を割り切るが、いずれも 3 自身を割り切らないので、いずれも素元ではない。元 3, 2 + √-5, 2 - √-5 が同値にできるということに意味はないので、Z[√-5] において一意分解は成り立たない。定義を弱めて一意性を修正できた単元の状況とは異なり、この不成立を克服するには新しい観点が必要である。
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