ボルツマン分布と熱的平衡
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/17 10:13 UTC 版)
「反転分布」の記事における「ボルツマン分布と熱的平衡」の解説
反転分布の概念を理解するためには、熱力学の一部と電磁波の物質との相互作用について理解する必要がある。レーザー媒質となるような非常に単純な原子の組み合わせについて考えてみよう。 N個の原子それぞれが、二つのエネルギー状態のうちのどちらかにいる系を考える。 エネルギー E 1 {\displaystyle E_{1}} の基底状態 エネルギー E 2 ( > E 1 ) {\displaystyle E_{2}(>E_{1})} の励起状態 基底状態にいる原子の数を N 1 {\displaystyle N_{1}} 励起状態にいる原子の数を N 2 {\displaystyle N_{2}} 、その総和を N {\displaystyle N} とする N 1 + N 2 = N {\displaystyle N_{1}+N_{2}=N} 二つの状態のエネルギーの差を Δ E 12 = E 2 − E 1 {\displaystyle \Delta E_{12}=E_{2}-E_{1}} , とし、原子と相互作用する光の固有振動数を ν 12 {\displaystyle \nu _{12}} として、次の式で与える。 E 2 − E 1 = Δ E = h ν 12 {\displaystyle E_{2}-E_{1}=\Delta E=h\nu _{12}} , ただし、 h {\displaystyle h} はプランク定数。 もし、この原子集団が熱平衡にあるとすれば、それぞれの状態に対する原子の数の比は、ボルツマン分布で与えられる。 N 2 N 1 = exp − ( E 2 − E 1 ) k T {\displaystyle {\frac {N_{2}}{N_{1}}}=\exp {\frac {-(E_{2}-E_{1})}{kT}}} ここで、原子集団の T {\displaystyle T} は熱力学的温度、 k {\displaystyle k} はボルツマン定数である。 エネルギーの差: Δ E {\displaystyle \Delta E} が室温程度( T ≈ {\displaystyle T\approx } 300K)、可視光程度の光( ν ≈ 5 × 10 14 Hz {\displaystyle \nu \approx 5\times 10^{14}{\text{Hz}}} )における二つの状態における状態密度を計算するとしよう。 より厳密に Δ E = E 2 − E 1 ≈ 2.07 eV {\displaystyle \Delta E=E_{2}-E_{1}\approx 2.07{\text{eV}}} , k T ≈ 0.026 eV {\displaystyle kT\approx 0.026{\text{eV}}} の場合について考える。したがって、 E 2 − E 1 >> k T ≈ 0.026 eV {\displaystyle E_{2}-E_{1}>>kT\approx 0.026{\text{eV}}} を満すことをいみする。このことは平衡における e {\displaystyle e} の指数部が、十分に大きな負の値になっていることを意味する。したがって、 N 2 / N 1 {\displaystyle N_{2}/N_{1}} は殆ど0となる。つまりは、原子は殆ど励起状態にいない事を意味する。 熱平衡状態において、通常は低いエネルギー状態は高いエネルギー状態と比べるとより数が多い。こういった状態は、系にとってはごく普通の事である。 温度 T {\displaystyle T} が増えると、高いエネルギー状態になる電子の数 N 2 {\displaystyle N_{2}} が増える。しかし、熱平衡状態において、 N 2 {\displaystyle N_{2}} が N 1 {\displaystyle N_{1}} より多くなるということはない。より正確には、無限に高い温度をとるとき N 1 = N 2 {\displaystyle N_{1}=N_{2}} となる。 換言すると、反転分布は普通の系では熱平衡においては起こり得ない現象といえる。系を反転分布にするためには、したがって、系を非平衡状態にする必要がある。(但し、スピン系など、例外的に負の温度の平衡分布が許される系は存在するので、必ずしも熱平衡状態において高いエネルギー状態が低いエネルギー状態より数が少なければならない訳ではないことには注意。)
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