ラグビーワールドカップ2015日本対南アフリカ
(ブライトンの奇跡 から転送)
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大会名 | ラグビーワールドカップ2015 | ||||||
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開催日 | 2015年9月19日 | ||||||
会場 | ブライトン・コミュニティスタジアム(![]() |
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最優秀選手 | 田中史朗 | ||||||
主審 | ジェローム・ガルセス | ||||||
観客数 | 29,290 |
ラグビーワールドカップ2015日本対南アフリカ(ラグビーワールドカップ2015 にほん たい みなみアフリカ)は、2015年9月19日にイングランド・ブライトンで行われたラグビーワールドカップ2015の試合である。
これまでワールドカップで通算1勝、2引き分けを挟んで16連敗中だったワールドラグビーランキング13位の日本が、過去2回の優勝経験を持つ同ランキング3位の南アフリカ共和国を34-32で破る番狂わせが起こった。世界中に「ブライトンの奇跡」(The Brighton Miracle)と報じられた[1]。2019年10月に『ブライトン・ミラクル』というタイトルで映画化された。
これまでの経緯
日本は過去7大会全てに出場していたが、通算成績は1勝2引き分け21敗であり当然すべての大会でグループリーグ敗退であった。1995年大会ではニュージーランドに17-145という歴史的大敗を喫していた。一方の南アフリカ共和国はアパルトヘイトによる制裁から復帰後は出場5大会で全て決勝トーナメントに進出し優勝2回、グループリーグでの敗戦も1度しかなく当時ワールドカップの最高勝率を保持していた。ウィリアムヒルによる試合前のオッズは南アフリカ共和国の1倍(元返し)に対し、日本は34倍であった。
試合展開
試合前々日の発表では日本の背番号12番はクレイグ・ウィングだったが、前日の負傷により22番の立川理道が12番、メンバー外の田村優が22番と変更された[2]。
試合開始直後は、南アフリカ共和国がボールキープして攻め込み、日本もブレイクダウンからターンオーバーを繰り返して対抗する、という展開が続いたが、前半8分、日本がファーストスクラム後にペナルティを獲得し、五郎丸歩のペナルティゴールで先制した。
前半17分には、南アフリカ共和国がモールで攻撃を仕掛け、フランソワ・ロウがトライを決め逆転するが、前半29分には日本もラインアウトからモールを組み、キャプテンのリーチマイケルがトライ。得点を10対7とし、再度逆転した。しかし前半32分にビスマルク・デュプレッシーがトライを決めたことで、前半は10対12と、南アフリカ共和国優勢で終了した。
後半戦が始まると、3分にルード・デ・ヤハーが、21分にはアドリアン・ストラウスがトライを決めるが、日本も五郎丸がペナルティゴールを着実に重ね、28分には自らトライしたことで、29対29の同点に持ち込んだ[3]。
スクラム選択からの逆転トライ
南アフリカ共和国は後半32分にペナルティゴールを成功させ、得点を29対32としたが、チーム内で連続して反則があり、コーニー・ウーストハイゼンがイエローカードを提示され、一時退場処分となったため、日本は数的優位となっていた[3]。
そして試合終了間際、日本は敵陣深くでペナルティを獲得。ペナルティキックかスクラムが選択でき、比較的確率の高いペナルティゴールの3点で引き分けを狙うか5点のトライによる逆転勝ちを狙うためスクラムを組むかの判断に迫られた。ヘッドコーチのエディー・ジョーンズは、安全に引き分けに持ち込めるペナルティゴールを狙うよう選手たちに指示した。しかし、リーチは同級生でフッカーの木津武士に「スクラム、行けるか?」と相談した後[4]、最終的に自身の判断でスクラムを選択。最後はアマナキ・レレイ・マフィからのパスを受けたカーン・ヘスケスがトライを決め、34対32[5]で歴史的な勝利を挙げた[6]。
試合終了後、リーチは自身の選択について「同点じゃなく、勝ちに行くという気持ちだった。みんなもそうだった」と話した[3]。エディー・ジョーンズも「今日の選手たちは勇敢なんてもんじゃない。最後まで相手に向かって行った。引き分けを選ばずに最後のPGで蹴らないことを選択したリーチの勇気をたたえたい」と、リーチを始めとした選手たちを称賛した[6]。
なお、上述のようにペナルティを獲得した際、エディー・ジョーンズはペナルティゴールを指示しており、選手たちが自分の指示に従わずスクラムを選択したため、激昂したエディー・ジョーンズは着けていた無線のヘッドセットを外して投げつけ、叩き壊してしまった[7]。ヘッドセットを投げつけた映像は残っていないが、着けていたヘッドセットをスクラム選択の後では装着していない姿が確認できる。
試合結果
2015年9月19日 16:45 |
南アフリカ共和国 ![]() |
32–34 | 日本 ![]() |
ブライトン・コミュニティ・スタジアム, ブライトン 観客数: 29,290人 レフリー: ![]() |
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T: ロウ 18' c ビスマルク 33' m デ・ヤハー 44' c ストラウス 62' c G: ランビー (2/3) 19', 45' ポラード (1/1) 63' PG: ランビー (1/1) 57' ポラード (1/1) 73' |
Report | T: リーチ 30' c 五郎丸歩 69' c ヘスケス 80' m G: 五郎丸歩 (2/3) 31', 70' PG: 五郎丸歩 (5/6) 8', 43', 49', 53', 60' |
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![]() |
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マン・オブ・ザ・マッチ: |
Notes:
- 田中史朗の通算50試合目[8]。
- 両国の初対戦。
- 南アフリカ共和国の初のティア2の国への敗戦[9]。
- 日本の初の南半球3強(南アフリカ共和国、ニュージーランド、オーストラリアの3国)からの勝利[10]。
試合後の反応
- 同じくイギリスの地元紙のデイリー・テレグラフは電子版のトップで、「史上最大の番狂わせ」と伝えた[12][13]。
- 事前のブックメーカーのオッズは南アフリカ共和国勝利1倍、日本勝利34倍であった[14]。
- ラグビーワールドカップでの番狂わせとして、BBCは以下の6つを挙げている[15]。また、ワールドラグビーの公式YouTubeチャンネルでも、「Top 5 Rugby World Cup Shocks」のタイトルで紹介されている[16]。
- ハリー・ポッターシリーズの作者として知られるイギリスの作家J・K・ローリングは、試合後に「こんな話は書けない…(You couldn't write this..)」とTwitterで述べた[18][19]。
- 上述のとおりラグビー史上でも類を見ない番狂わせだったため、この結果を「奇跡」と伝える報道もあったが、勝利の立役者となった五郎丸歩が「これは奇跡じゃなく必然です。ラグビーには奇跡なんてありません。」と語るなど[20][21]、選手側からは反発も見られた。
映画化
エディー・ジョーンズがヘッドコーチに就任してからこの試合までの4年間を、ドキュメントと再現ドラマで構成したオーストラリア映画「ブライトン・ミラクル」が、2019年10月31日からオーストラリアで公開された[22]。
日本では、2019年9月11日にプレミアム試写会が行われた[23][24][25]。ワールドカップ2019開幕前日の9月19日からAmazon Prime Video、Google Play、Apple TVなどで配信され[25]、さらにイベントでの公開などを経て[26]、10月29日から劇場公開された[27]。
監督・脚本は、2015年4月から8月までエディー・ジョーンズのもとで実際に日本代表のスポットコーチを務めた[28][29][30]、マックス・マニックス[31][32]。
脚注
- ^ “【スペシャル対談】感動と共感を呼び起こしたい スポーツのチカラで日本を熱く!”. ラグビーリパブリック (2019年1月21日). 2019年3月1日閲覧。
- ^ “ウィングが南ア戦欠場で立川が先発へ ジョーンズHCが早速、本懐覗かせる!”. ラグビーリパブリック (2015年9月19日). 2025年6月16日閲覧。
- ^ a b c “日本代表「ラグビーワールドカップ2015」南アフリカ代表戦 レビュー”. 日本ラグビーフットボール協会 (2015年9月20日). 2021年9月7日閲覧。
- ^ “あの瞬間…キック指示に選手決断「スクラムいこ!」”. 日刊スポーツ (2015年9月22日). 2025年1月30日閲覧。
- ^ (日本語) [フルマッチ」RWC 2015: 日本代表対南アフリカ代表 2021年10月3日閲覧。
- ^ a b “勝利たぐり寄せた主将リーチの決断”. ワールドラグビー (2015年9月19日). 2021年9月7日閲覧。
- ^ “奇跡ではなく必然だった。ラグビー日本代表のジャイアントキリング”. web Sportiva (2019年5月6日). 2022年7月25日閲覧。
- ^ “South Africa 32-34 Japan”. Guardian (2015年9月19日). 2015年9月24日閲覧。
- ^ “Japan pull off greatest shock in World Cup history”. ESPN (2015年9月19日). 2015年9月21日閲覧。
- ^ “Rugby World Cup 2015: South Africa 32-34 Japan”. BBC Sport (2015年9月19日). 2015年9月21日閲覧。
- ^ “Japan beat South Africa in greatest Rugby World Cup shock ever”. The Guardian. (2015年9月19日)
- ^ “Rugby World Cup 2015: greatest upsets of all time”. The Telegraph. (2015年9月19日)
- ^ 「W杯史上最大の衝撃」英メディア、日本の勝利を異例の扱い ― スポニチ Sponichi Annex ラグビー - スポーツニッポン 2015年9月20日 05:33
- ^ “南アの勝利「確定的」…日本勝利のオッズは「34倍」”. サンスポ. (2015年9月19日)
- ^ “Rugby World Cup 2015: South Africa 32-34 Japan”. BBC 2015年10月18日閲覧。
- ^ “Top 5 Rugby World Cup Shocks”. World Rugby. (2015年9月23日) 2019年9月22日閲覧。
- ^ “Most Memorable Moments in Rugby World Cup History | 10-1”. 2020年9月20日閲覧。
- ^ J.K. Rowling (20 September 2015). "You couldn't write this..." (英語). Twitter. 2022年2月28日閲覧。
- ^ “ハリポタ作者「こんな話書けない」、日本代表に各国称賛”. 朝日新聞デジタル (2015年9月20日). 2022年3月12日閲覧。
- ^ “五郎丸歩の名言”. Number Web (2015年10月25日). 2022年2月28日閲覧。
- ^ “五郎丸“ゴール7本”成功「ラグビーに奇跡ない」”. 日刊スポーツ (2015年9月21日). 2022年2月28日閲覧。
- ^ “ラグビー映画『ブライトン・ミラクル』の魅力に迫る – トピックス | 日豪プレス - オーストラリアの生活情報サイト (NICHIGO PRESS)”. NICHIGO PRESS. 2023年8月28日閲覧。
- ^ “映画『ブライトン ミラクル』が示した二つの奇蹟(前) - ラグビーリパブリック” (2019年9月11日). 2023年8月28日閲覧。
- ^ “映画『ブライトン ミラクル』が示した二つの奇蹟(後) - ラグビーリパブリック” (2019年9月12日). 2023年8月28日閲覧。
- ^ a b Inc, Natasha. “【イベントレポート】2015年ラグビーW杯の“奇跡”を映画化、工藤夕貴「完成したことがミラクル!」”. 映画ナタリー. 2023年8月28日閲覧。
- ^ “映画 『THE BRIGHTON MIRACLE』 上映会&トークショー 2015年W杯 日本vs南アフリカ~大逆転の舞台裏”. 日経イベント&セミナー. 2023年8月28日閲覧。
- ^ “ブライトン・ミラクル|イオンシネマ”. www.aeoncinema.com. 2023年8月28日閲覧。
- ^ JRFU. “日本代表 宮崎合宿参加メンバー|日本ラグビーフットボール協会”. www.rugby-japan.jp. 2024年11月6日閲覧。
- ^ “日本代表 6月 宮崎合宿参加メンバー 2015.5.27”. JRFU. 2023年8月28日閲覧。
- ^ “ラグビーワールドカップ2015 日本代表第四次候補選手 2015.8.07”. JRFU. 2023年8月28日閲覧。
- ^ INC, SANKEI DIGITAL (2015年4月10日). “エディーHC、映画脚本家・監督のマニックス氏にコーチ要請”. サンスポ. 2023年8月28日閲覧。
- ^ “映画『ブライトン ミラクル』が示した二つの奇蹟(後) - ラグビーリパブリック” (2019年9月12日). 2023年8月28日閲覧。
外部リンク
- RWC 2015: 日本 対 南アフリカ - ワールドラグビー 日本チャンネル
ブライトンの奇跡
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/09 09:38 UTC 版)
2015年9月19日、イギリスのブライトン・コミュニティースタジアムで行われたラグビーワールドカップ、グループリーグ・プールBの試合において、これまでW杯通算1勝、2引き分けを挟んでW杯16連敗中だったワールドラグビーランキング13位の日本代表が過去2回のW杯優勝経験を持つランキング3位の南アフリカ代表を34-32で破った。イギリスの地元紙であるガーディアンは、「W杯史上、比類のない試合。世界に波紋を広げた」と報道した。同じくデイリー・テレグラフは電子版のトップで、「史上最大の番狂わせ」と伝えた。事前のブックメーカーのオッズは南アフリカ勝利1倍、日本勝利34倍であった。
※この「ブライトンの奇跡」の解説は、「番狂わせ」の解説の一部です。
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