ナンヨウキクイムシ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/21 04:06 UTC 版)
ナンヨウキクイムシ | |||||||||||||||||||||||||||
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![]() 成虫のメス
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分類 | |||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||
Euwallacea fornicatus (Eichhoff, 1868) | |||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||
ナンヨウキクイムシ | |||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||
tea shot-hole borer polyphagous shot-hole borer (PSHB) |
ナンヨウキクイムシ(Euwallacea fornicatus)とは、コウチュウ目・ユーワラセア属の昆虫である。
養菌性のキクイムシ類(アンブロシアビートル)に属し、樹木に穴をあけ侵入して餌となる共生菌を育てる。
東アジア・東南アジアが起源とみられるが、近年世界各地に広がり、果樹や庭園木にフザリウム枯死病を引き起こし被害をもたらすので、 侵略的害虫として駆除対象となっている。
略称で、PSHB(polyphagous shot-hole borer)とも記述される。
分布
1868年にドイツの昆虫学者アイヒホッフ氏によってスリランカで採取され、初めて学術的に報告された。
アイヒホッフ氏が採取した元の樹木の種類は不明であるが、当時より"Tea shot-hole borer(ティー・ショットホール・ボーラー = 茶の木に弾痕を穿つもの)"と呼ばれ、スリランカやインドでトウゴマや茶の木に被害をもたらす害虫として知られていたキクイムシも、同一の種複合体(Species complex)に属している。
20世紀前半は東南アジア周辺地域のみの分布が確認されていたが、1950年代にはフィジーやハワイなどのオセアニア区でも発見され[1] 、日本では1973年に小笠原諸島父島で果樹の被害が発生している。
2000年以降はさらに分布を拡大し、北米・中南米・南米・欧州・イスラエル・南アフリカ・オーストラリア等で、果樹や庭園木・街路樹への被害が確認されている。
生態

養菌性のキクイムシの多くが衰弱した木や枯れかけた木を宿主に選ぶのに対して、ナンヨウキクイムシと同定される種複合体のうちの主要な種は、健康な木に穿孔して生活空間を形成する。
成虫は円筒形の棗かカプセル剤に似た姿形で、メスは体長2mm程度で茶褐色から黒色の体色、オスはメスよりも小さく体長1.6mm程度で薄茶色から黒色の体色をしている[2]。
受精したメスは日中に外へ飛び立ち、通常30-35m内外の枝や幹に新たに穿孔する。場合によって最大で400m程度移動することがある。オスは飛翔能力を持たず、ほとんどの場合、一生を樹木内部で過ごす。
新しい場所に穿孔を始めたメスは、木部まで坑道を掘り進め、そこに産卵のための部屋を作り、産卵する。
メスの前胸下部(うなじに見える部分)にあるミカンジアと呼ばれる小袋状の器官には、菌類(カビ)の一属であるフザリウム菌が住んでおり、 それが坑道や産卵室に着床・繁殖する。産まれた幼虫は菌の胞子を餌として育ち、1か月ほどで成虫となり、生殖をおこなう。成虫も木自体は食さず、菌を摂取し栄養とする。[3]
被害
随伴・共生するフザリウム菌が繁殖可能な100種以上の樹木を宿主とすることが確認されている[4]。
宿主とされた樹木は、浸食された部分を隔離して防御しようとするが、十分な水と養分が行き渡らなくなった枝から枯れ始める。また坑道と菌糸によって空洞化・弱化した幹が構造的に樹木全体を支持できなくなれば倒木する。
主な果樹被害
アメリカ合衆国カリフォルニア州・フロリダ州[5]やイスラエルのアボカド、南アフリカのオリーブ、日本の沖縄県や鹿児島県[6] ・宮崎県のマンゴー[7]
主な庭園木・街路樹被害
アメリカ合衆国カリフォルニア州のカエデ・ポプラ・ヤナギ・カシ[8]、アルゼンチンブエノスアイレスの街路樹、オーストラリア西オーストラリア州のトネリコバノカエデ[9][10]
脚注
- ^ Danthanarayana, W. (1968), The distribution and host-range of the shot-hole borer (Xyleborus fornicatus Eichh.) of tea., pp. 61
- ^ “Pest Overview” (英語). University of California. 2025年3月17日閲覧。
- ^ “Polyphagous shot hole borer” (英語). Australia NSW Gov.. 2025年3月17日閲覧。
- ^ “New host plant records for the Euwallacea fornicatus (Eichhoff) species complex (Coleoptera: Curculionidae: Scolytinae) across its natural and introduced distribution” (英語). www.sciencedirect.com. 2025年3月17日閲覧。
- ^ “Distribution, Pest Status and Fungal Associates of Euwallacea nr. fornicatus in Florida Avocado Groves” (英語). US NIH National Library of Medicine. 2025年3月17日閲覧。
- ^ “病害虫発生予察特殊報について”. 沖縄県 (2017年10月29日). 2025年3月17日閲覧。
- ^ “令和6年度病害虫発生予察特殊報第1号(マンゴー・ナンヨウキクイムシ)について”. 宮崎県 (2024年9月24日). 2025年3月17日閲覧。
- ^ “ISHB Reproductive Hosts” (英語). University of California. 2025年3月17日閲覧。
- ^ “Polyphagous shot-hole borer” (英語). Australia NSW Gov.. 2025年3月17日閲覧。
- ^ “Polyphagous shot-hole borer (Euwallacea fornicatus)” (英語). Australia Gov.. 2025年3月17日閲覧。
関連項目
外部リンク
- EPPO Global Database - Fusarium euwallaceae(FUSAEW) (英語ページ)
- 森林総合研究所 - 森から里への招かれざる虫とその共生菌~マンゴー生立木に見られる穿孔と衰弱・枯死の原因を特定~
- WILEY Online Library - First record of Euwallacea fornicatus Eichhoff (Coleoptera: Curculionidae: Scolytinae) in Spain(英語ページ)
- UNIVERSITY OF CALIFORNIA - Invasive Shothole Borers(英語ページ)
- ナンヨウキクイムシのページへのリンク