サンヨウアオイ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/02 03:26 UTC 版)
サンヨウアオイ | |||||||||||||||||||||
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分類(APG IV) | |||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||
Asarum hexalobum F.Maek. (1932) var. hexalobum [1] | |||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||
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和名 | |||||||||||||||||||||
サンヨウアオイ(山陽葵)[3] |
サンヨウアオイ(山陽葵、学名: Asarum hexalobum)は、ウマノスズクサ科カンアオイ属の常緑の多年草[3][4][5]。
カンアオイ亜属カンアオイ節に属し、ややミヤコアオイ Asarum asperum に似る。ミヤコアオイの萼筒は短い台形状の筒型になるが、本種の萼筒は上下から押しつぶしたような扁球形になり、萼片の外側には6本の縦溝があり、6個のこぶができたような形になる[4][5]。広島県では両種の分布境があり、ミヤコオアオイは県の東部と北部の広い地域に分布し、本種は県の南西部の瀬戸内海沿岸部に分布する[6]。
特徴
葉柄は長く、暗紫色になる。葉身は卵形から広卵形、倒卵形で、長さ5-10cm、幅4-8cmになり、先端はやや鈍頭ときに鋭頭になり、基部は深い心形になる。葉の表面は光沢がなく、雲紋状の斑紋がでることが多い。葉の縁に沿って短毛が生える。葉脈はへこまない[3][4][5]。
花期は3-4月。花に花弁は無く、萼裂片が花弁状になる。花柄は白色で、それが徐々にふくらみ、屈曲して萼筒の中間まで白く連なる。萼筒は上下から押しつぶしたような半球形または倒卵状球形で、径1.5-2cmになり、外側に6本の縦溝ができ、こぶが6個できたような形になり、上部はいちじるしくくびれる[3][4][5]。この特殊な形状を前川文夫 (1933) は、『植物研究雑誌』において、「(萼筒ノ)外側ニハ縦ニ6本ノ溝トイフヨリハ切レ込ミノ為ニ6個ノ嚢状ニ突出シタ部分ガアツテ、イハバとまとニかぼちゃノ縦ノ凹ミヲ附ケタ様ナ調子デアル」と記している[7]。萼筒内壁は、外側の縦溝に対応した6個の縦襞が高く隆起する。2-3個の弱く隆起した横襞もあるが、あまり発達しない。3個の萼裂片は卵形または卵状三角形でやや開出し、長さ約1cm、内側は黒褐色で横皺があり、縁は波状にうねる。萼裂片基部から萼筒口部周辺は不規則な小突起がある。子房は下位。花柱は6個で互いに離れて直立し、円柱形となる。柱頭は花柱の先端につく。雄蕊は12個あり、うち6個は葯が退化して仮雄蕊となり、他の6個が花粉を生ずる機能的雄蕊となる[3][4][5]。染色体数は2n=24[4]。
分布と生育環境
日本固有種[8]。本州の中国地方西部、四国の西南部、九州の北部に分布し、低山地の広葉樹林の林床に生育する[4][5]。
名前の由来
和名サンヨウアオイは、「山陽葵」の意で[3]、前川文夫 (1932) による命名[9]。前川は、この種がはじめ、長門国と周防国(現在の山口県)に広く分布していることから、「山陽あふひ」とした[7]。
種小名(種形容語) hexalobum は、hexa-lobumで「六葉の」「六裂した」「六裂片のある」の意味[10][9][11][12]。
種の保全状況評価
国(環境省)でのレッドデータブック、レッドリストの選定はない。都道府県のレッドデータ、レッドリストの選定状況は、次のようになっている[13]。島根県-準絶滅危惧(NT)、高知県-準絶滅危惧(NT)、福岡県-絶滅危惧II類(VU)、大分県-準絶滅危惧(NT)、宮崎県-絶滅危惧IB類(EN-r,g)、鹿児島県-絶滅危惧II類。
ギャラリー
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花柄は白色で、それが徐々にふくらみ、屈曲して萼筒の中間まで白く連なる。萼筒は上下から押しつぶしたような扁球形で、外側に6本の縦溝ができ、こぶが6個できたような形になり、上部はいちじるしくくびれる。
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3個の萼裂片は卵形または卵状三角形でやや開出し、内側は黒褐色で横皺があり、縁は波状にうねる。萼裂片基部から萼筒口部周辺は不規則な小突起がある。
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葉身は卵形から広卵形、倒卵形で、先端はやや鈍頭ときに鋭頭になり、基部は深い心形になる。葉の表面は光沢がなく、雲紋状の斑紋がでることが多い。花はつぼみ。
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この個体の葉の裏面は無毛で紫色を帯びる。
下位分類
- キンチャクアオイ Asarum hexalobum F.Maek. var. perfectum F.Maek. (1932)[14] - 基本変種のサンヨウアオイに比べて花が小型、12個の雄蕊はすべて葯を持ち、完全であることで区別される。四国南西部と九州の中部以南に分布する[4][5]。変種名 perfectum は、「完全な」「欠点のない」の意味[15]。絶滅危惧II類(VU)(環境省)[16]。
- シシキカンアオイ Asarum hexalobum F.Maek. var. controversum Hatus. et Yamahata (1989)[17] - 基本変種より葉身が厚く小さく、長さ4-5cm、幅3-4cm、葉の表面は葉脈に沿ってへこむ。花は小型で、雄蕊は6個が仮雄蕊となることは基本変種と同じである。長崎県平戸島の特産[4]。別名、シジキカンアオイ[17]。和名は平戸島の志々伎山に由来する[18]。変種名 controversum は、「疑わしい」の意味[19]。絶滅危惧IA類(CR)(環境省)[20]。2018年に国内希少野生動植物種および特定第一種国内希少野生動植物種に指定[21]。
脚注
- ^ サンヨウアオイ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ^ サンヨウアオイ(シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ^ a b c d e f 『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』p.26
- ^ a b c d e f g h i 菅原敬 (2015)「ウマノスズクサ科カンアオイ属」『改訂新版 日本の野生植物 1』pp.63-64
- ^ a b c d e f g 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.166
- ^ 青山幹男・須田泰夫「広島県におけるカンアオイ属の分布」『広島市植物公園紀要』第7巻第4号、広島市植物公園、1984年、47-50頁。
- ^ a b 前川文夫「日本産カンアオイ類解説(其五)」『植物研究雑誌 (The Journal of Japanese Botany)』第9巻第5号、津村研究所、1933年、281-284頁、doi:10.51033/jjapbot.9_5_1252。
- ^ 奥山雄大 (2011)「ウマノスズクサ科カンアオイ属」『日本の固有植物』pp.60-62
- ^ a b F. Maekawa「Alabastra Diversa I」『植物学雑誌 (The Botanical Magazine)』第46巻第549号、東京植物学会、1932年、566-568頁、doi:10.15281/jplantres1887.46.561。
- ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1496
- ^ 『小学館ランダムハウス英和大辞典』pp.1584-1585
- ^ 『羅和辞典(改訂版)』p.380
- ^ サンヨウアオイ、日本のレッドデータ検索システム、2025年8月31日閲覧
- ^ キンチャクアオイ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1507
- ^ キンチャクアオイ、日本のレッドデータ検索システム、2025年8月31日閲覧
- ^ a b シシキカンアオイ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ^ Hatsushima Sumihiko, Yamahata Eiji「Illegitimately Published Taxa of Asarum from Japan (II)」『植物地理・分類研究 (The journal of phytogeography and taxonomy)』第37巻第2号、植物地理・分類研究会、1989年、71-73頁。
- ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1489
- ^ シジキカンアオイ、日本のレッドデータ検索システム、2025年8月31日閲覧
- ^ 国内希少野生動植物種一覧、自然環境・生物多様性、環境省
参考文献
- 加藤雅啓・海老原淳編著『日本の固有植物』、2011年、東海大学出版会
- 門田裕一監修、永田芳男写真、畔上能力編『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』、2013年、山と溪谷社
- 大橋広好・門田裕一・木原浩他編『改訂新版 日本の野生植物 1』2015年、平凡社
- 牧野富太郎原著、邑田仁・米倉浩司編集『新分類 牧野日本植物図鑑』、2017年、北隆館
- 米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)
- 日本のレッドデータ検索システム
- 青山幹男・須田泰夫「広島県におけるカンアオイ属の分布」『広島市植物公園紀要』第7巻第4号、広島市植物公園、1984年、47-50頁。
- F. Maekawa「Alabastra Diversa I」『植物学雑誌 (The Botanical Magazine)』第46巻第549号、東京植物学会、1932年、566-568頁、doi:10.15281/jplantres1887.46.561。
- 前川文夫「日本産カンアオイ類解説(其五)」『植物研究雑誌 (The Journal of Japanese Botany)』第9巻第5号、津村研究所、1933年、281-284頁、doi:10.51033/jjapbot.9_5_1252。
- Hatsushima Sumihiko, Yamahata Eiji「Illegitimately Published Taxa of Asarum from Japan (II)」『植物地理・分類研究 (The journal of phytogeography and taxonomy)』第37巻第2号、植物地理・分類研究会、1989年、71-73頁。
- 国内希少野生動植物種一覧、自然環境・生物多様性、環境省、2025年
- 小学館ランダムハウス英和大辞典第二版編集委員会編『小学館ランダムハウス英和大辞典』、1994年、小学館
- 水谷智洋『羅和辞典(改訂版)』、2015年、研究社
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