サルパ・サルパとは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > 百科事典 > サルパ・サルパの意味・解説 

サルパ・サルパ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/05 06:19 UTC 版)

サルパ・サルパ
分類体系
: 動物
: 脊索動物
: 条鰭類
: ニザダイ目
: タイ科
: サルパ
Bonaparte, 1831
:
S. salpa
学名
Sarpa salpa
(Linnaeus, 1758)
シノニム[2][3][4]

属の違い

  • Sparus salpa (Linnaeus, 1758) 原記載名
  • Boops salpa (Cuvier, 1814)
  • Eusalpa salpa ( Fowler, 1925)

種名の違い

サルパ・サルパ(学名:Sarpa salpa)は、タイ科に属する条鰭綱海水魚の一種である。タイ科サルパ属唯一の種である。

本種は、英語では「サリーマ(salema)」「カウブリーム(cow bream)=牛鯛」「カランティーン(karanteen)」「サルパ(salpa)」「ソープ(saupe)」「ストレピー(strepie)=縞魚」「ゴールドライン(goldline)=金線」などの名称でも知られる。分布域は東部大西洋地中海、および南西インド洋に及ぶ。2006年にフランスでこの魚を食べて幻覚を見た事件が広く知られて以降、「ドリームフィッシュ(dreamfish)=夢見る魚」と呼ばれることもある。

分類

サルパ・サルパは、最初は1758年にカール・フォン・リンネによって同定され、『自然の体系英語版』第10版にSparus salpaとして記載された。基準標本産地は明示されていないが「地中海に生息」と書かれている[5]。なお、ヘダイ属 (Sparus) もこの『自然の体系』第10版でリンネが作ったものであり[5]ヨーロッパヘダイなどの属名として現在でも使われている。

1814年、ジョルジュ・キュヴィエは現代学名Boops boops英語版、当時の学名Sparus boopsを標準種とする Boops 属 を定義した。1831年にシャルル・リュシアン・ボナパルトBoops 属をBox属とSarpa属に分割した[6]。ただしBox属は現在では使われず、Boops 属とされている。

一部の研究者はSarpa属をタイ科の亜科Sparinaeに分類しているが[3]、『世界の魚類』第5版ではタイ科内の亜科は認めていない[7]

1830年、アシル・ヴァランシエンヌBox goreensisを新種として報告したが、現在ではサルパ・サルパと同じ種とされている[8]

語源

サルパ・サルパの属名Sarpaは、この魚がジェノヴァでsarpaと呼ばれていることに由来する。種名salpaはラテン語で魚を意味するsalpaに由来し、この語はアリストテレスの時代の古代ギリシア語としても用例があり[9]、現代でもギリシアやアルバニアなど地中海沿岸の各地でサルパ・サルパを指す語となっている[10]

形態

サルパ・サルパは、やや細長く整った楕円形の体形をしており、その標準体長体高の約2.8倍である。背びれには11本の棘条と14本から15本の軟条があり、臀鰭(しりびれ)には3本の棘条と13本から15本の軟条がある。目の下の頬部には鱗があり、臀鰭の基部には鱗の鞘があるが、両眼の間、臀鰭の基部、および前鰓蓋骨の縁には鱗がない。上顎には刻みのある門歯状歯が1列並び、下顎には先のとがった切歯状の歯が並ぶが、臼歯状歯は存在しない。体色は銀色で、体側には8〜10本の水平な金色の縞が走り、胸鰭の基部には黒色斑がある[11]

オスの体長は通常15 to 30 cm (6–12 in)であり、メスは通常31 to 45 cm (12–18 in)である[12]。最大体長は51 cm (20 in)である[13]

分布

サルパ・サルパはフランス西岸(ビスケー湾)から南アフリカ共和国にかけての東大西洋および地中海に分布する[13]。まれにグレートブリテン島のようなより北方でも確認されることがある[14]。本種は分布域ではよく見かける一般的な魚であり、表層近くから水深70 m (230 ft)までに分布する[1]

生態

サルパ・サルパは主に草食性である。リビアでの調査では、食性の主な構成要素は海草であり、次いで藻類、3番目に甲殻類が多く含まれていた.[15]コルシカ島沖では、オモダカ目の海草Posidonia oceanica英語版とその着生植物(海草の表面に付く植物)が成魚の主要な餌となっており、幼魚はプランクトンを摂食することが確認されている[16]

南アフリカ沖では、産卵は4月から9月にかけて行われ、東ケープ州および西ケープ州の育成域とクワズール・ナタール州の間で年間を通じた回遊が見られる。この種は雄性先熟雌雄同体英語版(幼魚は全てオスで成熟してから一部がメスになる)である[17]。北半球では、カナリア諸島における産卵期は9月から翌年3月までとされている[18]。イタリア沖では、全長が24 cm (9.4 in)から31 cm (12 in)の間でオスからメスへの性転換が確認されており、これは3歳から7歳の年齢に相当する。魚の半数が性成熟に達する体長は19.5 cm (7.7 in)であり、その大部分はオスであった。この個体群では、春(3月から5月)と秋(9月末から11月)に、2回の産卵期があることが確認されている[19]

毒性

2006年、フランスマルセイユのサルヴァトール病院毒物センターに勤務していたDe HaroとPommierは論文を発表し、地中海沿岸のレストランでこの魚を食べた男性2人が、聴覚および視覚に関する多くの症状英語版を体験したことが報告した[20]。これらの幻覚は、魚を摂取してから約2時間後に始まり、合計で36時間続いたと報告されている[21]。この論文によると、1994年にフランスリヴィエラで、2002年にフランスサントロペでも似た症例が確認されている[20]

2014年にこの魚の特に内臓は、地中海産の個体を対象とした研究において、潜在的に安全でない可能性があると評価されている[22]。サルパ・サルパは一年を通じて常に毒を持つわけではなく、特定の時期のみに毒性を示すことから、魚が摂取する藻類植物プランクトンに含まれる毒素や、一定期間に群れを成す習性が関与している可能性があるとされている[23]

ダイビング愛好家向けのウェブサイトinfo-chassesousmarine.frでは、外来種のイチイヅタ英語版が地中海に偶発的に侵入して以来、サルパ・サルパはこの藻類が産生する毒素を体内に蓄積しやすくなっているので、本種は釣り上げたらすぐに内臓を除去することを推奨している[24]

摂食

サルパ・サルパは植物食性の魚であり、ポルトガルでは2014年時点で個体数の増加により、その地域の海草を過剰に摂食していた。ポルトガル沿岸の海草群落に代わる代替植物として、トチカガミ科Cymodocea nodosaアマモ科Zostera noltii 、同じくアマモ科のアマモを試した結果、成魚のサルパ・サルパに対してZostera noltii が最も好まれることが判明したため、これを避けてCymodocea nodosa およびアマモが海草回復プロジェクトにおいて優先的に利用されることが推奨されるようになった[24]

参考文献

  1. ^ a b Russell, B.; Pollard, D.; Mann, B.Q.; Buxton, C.D.; Carpenter, K.E. (2014). Sarpa salpa. IUCN Red List of Threatened Species 2014: e.T170169A1286510. doi:10.2305/IUCN.UK.2014-3.RLTS.T170169A1286510.en. https://www.iucnredlist.org/species/170169/1286510 2021年11月12日閲覧。. 
  2. ^ Sarpa. World Register of Marine Species. 2024年2月8日閲覧.
  3. ^ a b Parenti, P. (2019). “An annotated checklist of the fishes of the family Sparidae”. FishTaxa 4 (2): 47–98. https://fishtaxa.com/menuscript/index.php/ft/article/view/49/52. 
  4. ^ Froese, Rainer and Pauly, Daniel, eds. (2023). "Sarpa salpa" in FishBase. October 2023 version.
  5. ^ a b Systema Naturae 第10版”. p. 280. 2025年7月27日閲覧。
  6. ^ Sarpa salpa (Linnaeus, 1758)”. WoRMS taxon details. 2025年7月27日閲覧。
  7. ^ Nelson, J.S.; Grande, T.C.; Wilson, M.V.H. (2016). Fishes of the World (5th ed.). Hoboken, NJ: John Wiley & Sons. pp. 502–506. doi:10.1002/9781119174844. ISBN 978-1-118-34233-6. LCCN 2015-37522. OCLC 951899884. OL 25909650M 
  8. ^ Boops goreensis (Valenciennes, 1830)”. WoRMS taxon details. 2025年7月27日閲覧。
  9. ^ Christopher Scharpf (2024年1月12日). “Order ACANTHURIFORMES (part 6): Families GERREIDAE, LETHRINIDAE, NEMIPTERIDAE and SPARIDAE”. The ETYFish Project Fish Name Etymology Database. Christopher Scharpf. 2024年2月18日閲覧。
  10. ^ Salema (Sarpa salpa)”. Fishes of the Adriatic. Guide-book. 2025年7月27日閲覧。
  11. ^ Yukio Iwatsuki; Phillip C Heemstra (2022). “Family Sparidae”. In Phillip C Heemstra英語版; Elaine Heemstra; David A Ebert et al.. Coastal Fishes of the Western Indian Ocean. 3. South African Institute for Aquatic Biodiversity. pp. 284–315. ISBN 978-1-990951-32-9. https://saiab.ac.za/wp-content/uploads/2022/11/1._wiof_volume_3_text.pdf 
  12. ^ Jadot, C.; Donnay, A.; Acolas, M.; Cornet, Y.; Begoutanras, M. (2006). “Activity patterns, home-range size, and habitat utilization of Sarpa salpa (Teleostei: Sparidae) in the Mediterranean Sea”. ICES Journal of Marine Science英語版 63 (1): 128–139. Bibcode2006ICJMS..63..128J. doi:10.1016/j.icesjms.2005.06.010. 
  13. ^ a b Froese, Rainer and Pauly, Daniel, eds. (2015). "Sarpa salpa" in FishBase. April 2015 version.
  14. ^ Fish that triggers hallucinations found off British coast”. Daily Telegraph (2009年5月13日). 2009年5月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年2月18日閲覧。
  15. ^ Ashraf I. Ahmed; Salah G. El-Etreby; Magdy A. Alwany; Randa A. Ali (2014). “Food and Feeding Habits of Sarpa salpa Salema (family: Sparidae) in the Libyan Coast of the Mediterranean Sea”. Egyptian Journal of Aquatic Biololgy & Fisheries 18 (4): 109–113. https://ejabf.journals.ekb.eg/article_2233_33f74b6d19e94192d844aa0a39183fa4.pdf. 
  16. ^ S. Havelange; G. Lepoint; P. Dauby; J.-M. Bouquegneau (2008). “Feeding of the Sparid Fish Sarpa salpa in a Seagrass Ecosystem: Diet and Carbon Flux”. Marine Ecology 18 (4): 289–297. doi:10.1111/j.1439-0485.1997.tb00443.x. hdl:2268/26095. 
  17. ^ Walt, B.A.; Mann, B. (1998). “Aspects of the reproductive biology of Sarpa salpa (Pisces: Sparidae) off the east coast of South Africa”. South African Journal of Zoology 33 (4): 241–248. doi:10.1080/02541858.1998.11448478. 
  18. ^ María Méndez Villamil; José M. Lorenzo; José G. Pajuelo; Antonio Ramos; Josep Coca (2002). “Aspects of the Life History of the Salema, Sarpa salpa (Pisces, Sparidae), off the Canarian Archipelago (Central-East Atlantic)”. Environmental Biology of Fishes 63 (2): 183–192. Bibcode2002EnvBF..63..183M. doi:10.1023/A:1014216000459. 
  19. ^ Criscoli A; Colloca F; Carpentieri P; Belluscio A; Ardizzone G (2006). “Observations on the reproductive cycle, age and growth of the salema, Sarpa salpa (Osteichthyes: Sparidae) along the western central coast of Italy”. Scientia Marina 70 (1): 131–138. doi:10.3989/scimar.2006.70n1131. https://scientiamarina.revistas.csic.es/index.php/scientiamarina/article/view/190. 
  20. ^ a b Pommier, De Haro (2006年10月). “Hallucinatory Fish Poisoning (Ichthyoallyeinotoxism): Two Case Reports From the Western Mediterranean and Literature Review”. Clinical Toxicology 2006, Vol. 44, No. 2 : Pages 187 44 (2): pp. 185–188. doi:10.1080/15563650500514590 
  21. ^ 'Hallucination' fish netted in Channel” (英語). the Guardian (2009年5月13日). 2021年7月24日閲覧。
  22. ^ Khaled Bellassoued; Jos Van Pelt; Abdelfattah Elfeki (2014年9月22日). “Neurotoxicity in rats induced by the poisonous dreamfish (Sarpa salpa)”. Pharmaceutical Biology 2015, Vol. 53, No. 11 : Pages 286–295 53 (2): pp. 286–295. doi:10.3109/13880209.2014.916311. "Liver and especially the visceral part of S. salpa presented toxicity, which clearly indicates the danger of using this fish as food." 
  23. ^ Luc De Haro. “Intoxications par organismes aquatiques”. Revue de médecine tropicale, 2008, N° 68, pages 367–374. http://www.revuemedecinetropicale.com/367-374_-_De_Haro_Conference.pdf .
  24. ^ a b See on info-chassesousmarine.fr.”. 2019年1月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年11月27日閲覧。

外部リンク




英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  
  •  サルパ・サルパのページへのリンク

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

サルパ・サルパのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



サルパ・サルパのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのサルパ・サルパ (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS