キティ・ジェノヴィーズ事件
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キティ・ジェノヴィーズ事件 | |
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場所 |
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標的 | キティ・ジェノヴィーズ |
日付 |
1964年3月13日 3時20分 – 3時50分 |
攻撃手段 | 帰宅途中の被害者を襲撃 |
攻撃側人数 | モーズリーの単独犯 |
武器 | ナイフ |
死亡者 | キティ・ジェノヴィーズ |
犯人 | ウィンストン・モーズリー |
動機 | 被害者への暴行のため |
防御者 | 犯行現場の住人(声のみ) |
対処 | 裁判の結果、犯人は終身刑に処される |
キティ・ジェノヴィーズ事件 (Murder of Kitty Genovese) とは、1964年3月13日にアメリカ合衆国・ニューヨーク州クイーンズ郡キュー・ガーデン地区で発生した殺人事件である。キティ・ジェノベーゼ事件とも表記される[1]。
この地区に住むキティ(Kitty)ことキャスリーン・ジェノヴィーズ (Catherine Genovese) が、帰宅途中にキューガーデン駅の近くで暴漢ウィンストン・モーズリー (Winston Moseley) に殺害された事件であり、ニューヨーク・タイムズは「ジェノヴィーズは大声で助けを求めたが、近所の住人は誰ひとり警察に通報しなかった」と報じた[2]。
この事件がきっかけとなり、傍観者効果が提唱された。
事件の概要
事件当日、ジェノヴィーズはキュー・ガーデン地区とは別地区であるホリスにてバーのマネージャとして未明まで仕事をしていた。自宅近くの駐車場まで車で帰宅し、そこから自宅まで歩いているところをモーズリーにナイフで背中を刺された。ジェノヴィーズが悲鳴を上げると、アパートの窓に明かりがともり、1人の住人が窓を開け、ジェノヴィーズを離すよう怒鳴った。モーズリーは住民を見上げ、肩をすくめると、ジェノヴィーズから離れ、自分の車まで歩いて行った。しかし、窓の明かりが消えると、モーズリーは、また向きを変えて、自分の部屋に帰ろうとしたジェノヴィーズを再度刺した。ジェノヴィーズは再び叫び声を上げると、建物の明かりが灯った。だが、モーズリーはジェノヴィーズのもとへ戻り、首などを刺す致命傷を負わせた。モーズリーは自分の車に乗って立ち去った。
その後、同じアパートに住む男性が警察に通報したが、ジェノヴィーズはすでに亡くなっていた。事件から6日後、モーズリーを逮捕し、起訴した。裁判の結果、一審では死刑を宣言されたが、二審では終身刑となった。
モーズリーは事件前から同様の犯行を繰り返して傍観者心理を理解していたらしく、早々に住人に発見されたにもかかわらず逃げなかった理由について、「発見者はすぐ窓を締めて寝るだろうと思ったし、その通りになった」と告白している[3]。
2015年、ジェノヴィーズの弟が当時の目撃者を訊ねて話を聞いて歩くドキュメンタリー映画『38人の沈黙する目撃者』が公開された。38人の目撃者とされた人の中には、声を聞いたけれど何も見えなかった人、犯人は見ずにジェノヴィーズが歩き去る姿だけを見た人、すぐに警察に電話をしたが「すでに連絡を受けています」と言われた人(警察の記録には残っていない)などがいた。事実、当時の報道を疑問視する調査が事件から40年以上が経過した時期以降に発表されている[4]。
モーズリーは仮釈放を18回拒否された末、2016年3月28日にニューヨークのクリントン矯正施設にて81歳で獄死した。
類例
同種事例
- 滋賀電車内駅構内連続強姦事件 - 傍観者効果の実例。
- 中国仏山市女児ひき逃げ事件
対照的な事例
日本の和歌山県御坊市では2009年(平成21年)、医師の男が女子高生のスカートの中を盗撮したが、それを偶然見ていた通行人の男性2人が被害者にそれを伝えた上で「追いかけてくれ」と叫び、それを聞いた男子高生らが犯人の男を自転車で追いかけて捕まえたという事件があった[5]。『わかやま新報』はこの事件に言及した際、同事件と対照的な事例としてキティ・ジェノベーゼ事件に言及、無関心さや「誰かが助けるだろう」という気持ちが責任の分散になりやすいと評している[1]。
脚注
- ^ a b 『わかやま新報』2009年11月1日付(第19046号)1頁「しんぽう抄」(和歌山新報社)
- ^ “A Picture History of Kew Gardens, NY – Kitty Genovese–” (2008年8月17日). 2008年10月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年11月28日閲覧。
- ^ ROBERT D. McFADDEN (2016年4月16日). “Winston Moseley, Who Killed Kitty Genovese, Dies in Prison at 81”. THE NEW YORK TIMES 2017年5月18日閲覧。
- ^ What Really Happened The Night Kitty Genovese Was Murdered?(2014年3月3日)
- ^ 『わかやま新報』2009年10月30日付(第19044号)7頁「スカート内を盗撮 市内の医師を逮捕」(和歌山新報社)
参考文献
- エイブ・ローゼンタール 著、田畑暁生 訳『38人の沈黙する目撃者 キティ・ジェノヴィーズ事件の真相』(初版)青土社、2011年6月10日。ISBN 978-4791766086。
キティ・ジェノヴィーズ事件
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「傍観者効果」の記事における「キティ・ジェノヴィーズ事件」の解説
キティ・ジェノヴィーズ事件は、1964年にニューヨークで起こった婦女殺人事件である。この事件がきっかけとなり、傍観者効果が提唱された。社会心理学を学ぶ際には、必ず触れられる有名なエピソードである。 この事件では、深夜に自宅アパート前でキティ・ジェノヴィーズ(1935-1964年)が暴漢に襲われた際、彼女の叫び声で付近の住民38人が事件に気づき目撃していたにもかかわらず、誰一人警察に通報せず助けにも入らなかったというものである(ただし深夜だったので「女性が襲われている現場」を目撃したわけではない住民も含まれている可能性がある)。結局、暴漢がその後二度現場に戻り、彼女を傷害・強姦したにもかかわらずその間誰も助けには来ず、彼女は死亡してしまい、当時のマスコミは都会人の冷淡さとしてこの事件を大々的に報道した。 なお犯人は逮捕前にも多数の強姦と二件の強姦殺人を犯しており、裁判で当時の心境を問われた際に「あいつ(目撃者)はすぐ窓を締めて寝るだろうと思ったが、その通りだった」と述べるなど、経験則として傍観者心理を理解していた。 ただし現在では、当時の住民たちの証言から、この事件が傍観者効果によるという定説は疑問視されている。
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