カナン地域におけるアシュトレト
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/04 02:07 UTC 版)
「アスタルト」の記事における「カナン地域におけるアシュトレト」の解説
この女神はカナンなどでも崇められており、旧約聖書にも、主要な異教の神としてヘブライ語形 アシュトレト (עַשְׁתֹּרֶת)の名でしばしば登場する。ちなみにこの女神の本来のヘブライ語名はアシュテレト (עַשְׁתֶּרֶת)である。アシュトレトとはこれに「恥」を意味するヘブライ語ボシェトの母音を読み込んだ蔑称である。宗教的に中立とは言い難い呼称だが、以下本節では聖書の記述に従い、こう表記する。 アシュトレトの複数形アシュタロト(עַשְׁתָּרוֹת)はまた、異教の女神を指す普通名詞として用いられた。また旧約聖書には地名としても出てくる(『申命記』第1章第4節他)。 この地域においてもウガリットと同様に軍神的性格は後退し、もっぱら豊穣・繁殖の神として崇められた。この地域で出土するふくよかな体型の女神像の少なくとも一部はアシュトレトであると考えられる。 豊穣神としてのアシュトレトは特にこの地域の農民にとって極めて魅力的であり、同じく豊穣神であるバアルと共に極めて熱心に崇拝された。この地域に入植したヘブライ人たちにとってもバアルやアシュトレトは魅力的であり、ヤハウェ信仰の脅威となるほどの崇拝を受けた(『士師記』第2章第13節)。また、旧約聖書『列王記』上第11章第5節には、晩年のソロモン王が妻たちの勧めにより、アシュトレトをはじめとする異教の神々を崇めたことが記され、この頃には為政者側にまで異教の神々への信仰が浸透していた事がわかる。それ以後もイスラエル王国の多くの王たちはその信仰を容認したため、ユダヤ教聖職者から激しく攻撃された。 また、『エレミヤ書』に登場する女神天の女王も、彼女の呼称の一つと考えられている。この女神は同じくカナンの豊穣の女神であるアナトの別名に過ぎぬとの説もあり、事実としてアナトと同一視されていた時代もあった。 この旧約聖書におけるアシュトレトが、後にヨーロッパのグリモワールにおいて悪魔・アスタロトとされた。
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