エクソシスト ビギニング
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| エクソシスト ビギニング | |
|---|---|
| EXORCiST: THE BEGiNNiNG | |
| 監督 | レニー・ハーリン |
| 脚本 | アレクシ・ホーリー |
| 原案 | ケイレブ・カー ウィリアム・ウィッシャー |
| 原作 | ウィリアム・ピーター・ブラッティ (キャラクター創造) |
| 製作 | ジェームズ・G・ロビンソン |
| 製作総指揮 | ガイ・マケルウェイン デヴィッド・C・ロビンソン |
| 出演者 | ステラン・スカルスガルド ジェームズ・ダーシー イザベラ・スコルプコ |
| 音楽 | トレヴァー・ラビン |
| 撮影 | ヴィットリオ・ストラーロ |
| 編集 | マーク・ゴールドブラット |
| 製作会社 | モーガン・クリーク |
| 配給 | |
| 公開 | |
| 上映時間 | 114分 |
| 製作国 | |
| 言語 | 英語 |
| 製作費 | $80,000,000[1] |
| 興行収入 | $78,000,586[1] |
| 前作 | エクソシスト3 |
| 次作 | ドミニオン
エクソシスト 信じる者 |
『エクソシスト ビギニング』(EXORCiST: THE BEGiNNiNG)は、2004年のアメリカ映画。
映画『エクソシスト』シリーズの第4作であり、25年前のメリン神父の戦いを描いた序章=エピソード0ものとなっている。
概要
当初は、ジョン・フランケンハイマーが監督する予定だった[2]が、亡くなったため、ポール・シュレイダーによって撮られることになった。しかし製作会社モーガン・クリークが出来の地味さに難色を示し、アクションシーンを追加するために新たに雇われたレニー・ハーリンによって全面的に作り直された。なお、本作品の批評的な不興を受け、モーガン・クリークはお蔵入りにしていたシュレイダー版を翌2005年『ドミニオン』のタイトルで公開している。
またリーアム・ニーソンがメリン神父を演じる予定だったが、スケジュールの都合により降板した[3]。
第25回ゴールデンラズベリー賞の最低監督賞と最低リメイク及び続編賞にノミネートされた。
ストーリー
第二次世界大戦中、占領下のオランダにある小さな教会で司祭を務めていたランカスター・メリン神父は、ナチス親衛隊将校の虐殺行為から村人を救うため、殺人に加担するよう強要された。ナチスの横暴の前に為す術もなかった無力なメリンは、神への信仰を失って世界を放浪する考古学者になった。
1949年、エジプトのカイロで古美術収集家の男セメリエと知り合ったメリンは、ケニアのトゥルカナにある谷で調査が進んでいる、考古学発掘隊に加わるよう依頼された。キリスト教がアフリカの地に到達する前の、西暦500年頃に建てられたビザンチン帝国時代の聖堂が掘り出され、その教会内にある悪魔の彫刻物をイギリスの発掘隊より早く回収して欲しいというのだ。メリンはセメリエからの依頼金を受け取って現地に向かう。通訳と案内役を兼ねた現地人チューマの車で、同行者のフランシス神父と共に発掘現場に到着したメリンは、イギリス側の発掘主任ジェフリーズと女医のサラ・ノヴァック、キリストを信仰する現地の男性エメクイとその子供たちジェームス、ジョセフに会う。
ドーム部分が地上に露出し、全体は地下に埋まっている教会は外観が風化しておらず、建てられてすぐに埋められたのではないかとメリンは推察する。メリンとフランシスがドームから教会内部に降りてみると、イエス像が付いた十字架が逆さまに吊るされ、壁には天界から追放されて悪魔になった堕天使ルシファーの絵が描かれているなど、教会が冒涜されていた。メリンは詳細を知ろうと現場の考古学者ベシオンに会おうとしたが、彼は心を病んでナイロビの療養所にいるとチューマから教えられる。ベシオンが使っていたテントに入ると、悪魔の顔の絵や、裸の女が悪魔に犯されている不気味なスケッチが大量に遺されていた。入院中のベシオンに面会に行くと、彼はすでにメリンの名前を知っており、自分の胸を刃物で鉤十字型に刻み、自ら喉を貫いて自殺する。施設の責任者ジオネッティ神父は、悪魔と接触したためにベシオンは発狂したと話し、悪魔祓いに使うローマの儀式書をメリンに手渡した。
村ではジョセフの目前で兄ジェームスがハイエナの群れに喰い殺され、族長の娘が蛆虫まみれの死産児を産むなど不気味な出来事が続いた。ジェフリーズも何者かに襲われて突然姿を消した。メリンは教会地下に隠された洞窟で悪魔パズズの魔神像と、人間を生贄に捧げていた異教徒の儀式の痕跡を発見し、この邪教を清めるために上に教会を建てて埋めたのだと気づく。族長の死産の子を火葬する葬儀を見たメリンは、この土地に着いた時に目にした、かつて疫病が流行って大勢死んだとされる墓の下に何が埋められているのか疑問を抱く。村に土葬の習慣がなかったためだ。メリンが墓を掘り返すと、何も入っていない棺だけがあった。
メリンがフランシスを問い詰めると、彼はこの地が呪われていると話し出す。1500年前にここで大量殺戮が行なわれ、軍を率いた2人の神父が邪悪の根源を探そうと訪れた。彼らは悪の力の呑みこまれて殺し合い、生き残った神父の報告を受けたユスティニアヌス皇帝は悪魔を封じるために教会を建ててすぐ埋め、全ての記録を抹消するよう命じた。1893年にこれに言及した古い手紙が教皇庁で見つかり、4人の司祭がこの地に調査に来て原住民たちの協力を仰いだが、全員失踪した。バチカンは偽の墓地を作って疫病の噂を広め、ここに人を寄せ付けないようにした。しかしイギリス軍が埋められた教会を見つけてしまい、フランシスは天を追われたルシファーが最初に堕ちたのがこの地だという伝説を確認するために、メリンに着いてきたのだという。グランヴィル少佐が指揮するイギリス軍が調査隊に介入し、白人を敵視する部族との緊張感が高まる中、何者かに殺されたジェフリーズの惨たらしい遺体が見つかった。
メリンは姿を消したサラの部屋で結婚写真を見つけて驚愕する。悪魔に接触して発狂したというベシオンはサラの夫であり、悪魔はサラの方に取り憑いていたのだ。ジョセフに悪魔が憑いていると思い込んでいたフランシスは、ジョセフの悪魔祓いの最中にサラに襲われ殺された。メリンはジョセフが残した十字架、ストラ、ローマ儀式書を手に、サラの中にいる悪魔に戦いを挑む。信仰を取り戻したメリンの祈りの前に、悪魔はサラから追い出されるものの、彼女は死んでしまう。ジョセフを連れて地上に出たメリンの前には、互いに殺し合った部族とイギリス軍の死体の山があった。ローマに戻ったメリンはセメリエに再会し、何も収穫は無かったと報告して依頼金を返す。「お元気で、メリンさん」と別れを告げるセメリエに、「メリン"神父"だ」と訂正するメリンの首元には神父の白いカラーが光っていた。
キャスト
| 役名 | 俳優 | 日本語吹替 | |
|---|---|---|---|
| ソフト版[4] | Netflix版 | ||
| ランカスター・メリン | ステラン・スカルスガルド[5] | 津嘉山正種 | さかき孝輔[6] |
| フランシス神父 | ジェームズ・ダーシー[5] | 鉄野正豊 | |
| サラ・ノヴァック | イザベラ・スコルプコ[5] | 岡寛恵 | |
| ジョセフ | レミー・スウィーニー[5] | 田野恵 | |
| チューマ | アンドリュー・フレンチ[5] | 稲葉実 | |
| グランヴィル少佐 | ジュリアン・ワダム[5] | 松本大 | |
| ジオネッティ神父 | デイビッド・ブラッドリー[5] | 大木民夫 | |
| ジェフリーズ | アラン・フォード[7] | 石森達幸 | |
| 陸曹長 | ラルフ・ブラウン[5] | ||
| ケッセル中尉 | アントニー・カメルリング[7] | ||
| 悪魔パズズ | ルパート・ドガ[7] | ||
| ベシオン | パトリック・オケイン[7] | ||
| セメリエ | ベン・クロス[7] | ||
| エメクイ | エディ・オセイ[7] | ||
| その他 | N/A | 朴璐美 大滝寛 遠藤純一 魚建 保村真 小伏伸之 |
|
| 日本語版制作スタッフ | |||
| 演出 | 岩浪美和 | ||
| 翻訳 | KAN TAKASHIMA | 大岩剛[8] | |
| 調整 | 菊池一之 | ||
| 録音 | |||
| 録音スタジオ | KSSスタジオ | ||
| 制作 | プロセンスタジオ | ||
スタッフ
- 監督 - レニー・ハーリン[5]
- 脚本 - アレクシ・ホーリー[5]
- 原案 - ケイレブ・カー[5]、ウィリアム・ウィッシャー[7]
- キャラクター創造 - ウィリアム・ピーター・ブラッティ[5]
- 製作 - ジェームズ・G・ロビンソン[5]
- 製作総指揮 - ガイ・マケルウェイン[5]、デヴィッド・C・ロビンソン[5]
- 音楽 - トレヴァー・ラビン[5]
- 撮影 - ヴィットリオ・ストラーロ[5]
- 編集 - マーク・ゴールドブラット[5]
- 美術 - ステファノ・マリア・オルトラーニ[7]
- 衣装デザイン - ルーク・ライヒル[7]
- 特殊メイク - ゲイリー・J・タニクリフ[7]
- 特殊効果 - ダニロ・ボレッティーニ[7]
- 視覚効果 - ローラン・M・アベカシス[7]
- 助監督 - ブルース・フランクリン[7]
製作
映画製作会社モーガン・クリークのCEOにしてプロデューサーのジェームズ・G・ロビンソンは、1997年に『エクソシスト』前日譚の企画を立ち上げた(詳細は『ドミニオン』の企画の項を参照)。1999年10月、モーガン・クリークは映画のタイトルを『エクソシスト:ドミニオン』であると明かし、監督に『13日の金曜日 PART6』(1986年)のトム・マクローリンを起用した。この時点ではウィリアム・ウィッシャーが書いた脚本をもとに、2000年春からアフリカで撮影を開始すると発表されていたが、後にマクローリンは脚本上の問題から降板してしまう[9][10]。
2001年10月、複数のメディアが『エクソシスト:ドミニオン』の監督にジョン・フランケンハイマーが就任し、脚本の加筆修正としてケイレブ・カーがスタッフに加わったと報道した。メリン役にはリーアム・ニーソンが決まった。この企画に関わっていないウィリアム・ピーター・ブラッティが、前日譚を承認してくれるかは不明だと、モーガン・クリークが述べている。映画の公開日が2003年7月に決まった後で、フランケンハイマーは健康上の理由で降板せざるを得なくなり、代わりにポール・シュレイダーが監督することになった[11][12]。2002年4月、“第二次世界大戦後のアフリカで活動している若き司祭役”のキャストにガブリエル・マンが参加し、スペインとイギリスで撮影が始まると発表された[13]。翌月、映画の正式タイトルは『エクソシスト:ザ・ビギニング』になり、ニーソンはコメディ映画『ラブ・アクチュアリー』(2003年)の撮影スケジュールを優先して本作から降板し、メリン役は新たにステラン・スカルスガルドに決まった。この時の記事で“戦時中の苦悩から信仰心を失ったメリンが、悪魔と対峙することで神への信仰を取り戻す”というあらすじと、2002年11月からモロッコで撮影が始まると書かれている[14]。
撮影
2002年11月、モロッコで『エクソシスト:ザ・ビギニング』の主要撮影が始まったとワーナー・ブラザースが伝えた。シュレイダー監督のもとで、クララ・ベラー、ビリー・クロフォードなどが出演し、ガイ・マケルウェインが製作総指揮を務めていることも併せて発表された[15]。ヴィットリオ・ストラーロがカメラマンを担当し、モロッコで6週間、その後ローマに移動して2ヵ月間の撮影が続いた。2003年2月に撮影が終了するまでに脚本に6人も加わることになり、製作予算は当初の見積もりよりも倍増していた[12]。
監督の更迭と再撮影
2003年5月8日に上映時間130分のシュレイダーの編集版が提出され、プロデューサーのジェームズ・G・ロビンソンと共に観たシュレイダーは「少し長すぎるから、カットしたものを改めて見せます」と言い、翌週120分に編集した物を出したが、その時はもうロビンソンは試写室に来なかった[16]。その後、モーガン・クリークは恐怖度を高めて再編集するよう求めたが、シュレイダーはこれに応じず、スタジオはシュレイダーの関与なしに、『ゴーストバスターズ』(1984年)や『夜霧のマンハッタン』(1987年)、『ツインズ』(1988年)などでアイヴァン・ライトマン監督と組んでいた編集者シェルドン・カーンを雇って勝手に再編集をした。これを知ったシュレイダーは激怒して、カーンの退場を命じたという[12]。
怖さが足りないというのは、編集に問題があるのではなく、その前提である物語(脚本)の方だとシュレイダーは主張したが、スタジオ側とお互いを乏しめないという合意書に署名をした上で解雇されてしまった。互いに貶さないという約束で契約を解除した後に、ケイレブ・カーは自分の脚本を書き直したシュレイダーを一方的に批判し続けたことで解雇され、別の脚本家アレクシー・ホーリーが書き直しのために雇われた[16]。スタジオは映画をより恐ろしくするために何人もの映画監督と会った[17]。
ポール・シュレイダー版の映画はすでに3,500万ドルの製作費を投じていたが、スタジオはシュレイダー版を再編集するのではなく、完全に新しく作り直す選択をした。そのきっかけを作ったのはレニー・ハーリンの発言だった。2003年秋にシュレイダー版の手直しについてモーガン・クリークのスタッフと会ったハーリンは、「他の監督が作った映画にそんなこと(再編集)をしたがる映画監督なんていないよ。ゼロから全部、撮影し直す方が良いだろう」と話した。彼はシュレイダーが解雇されるまで自分の信念を貫いたことを尊敬し、シュレイダーのビジョンとスタジオが欲したものに相違があっただけだと思ったからだ。これでこのプロジェクトから声をかけられることは二度とあるまい、と思ったハーリンが自宅でくつろいでいた1、2週間後に「映画全体を撮り直すというあなたのアイデアを、私たちは真剣に検討しました。あなたが言ったことこそ、我々が取り組むべきことだった。やってみましょう」とスタジオから監督のオファーがあった[17][18]。
レニー・ハーリン版の製作
映画の公開は2004年8月を予定しており、制作期間は録音や編集など含めてトータルで10カ月間だとスタジオから告げられ、怖気づく部分もあったが、挑戦してみたい意欲に駆られたハーリンは監督を請けることにした。ハーリンの作品としては最も短期間のスケジュールと低予算であった。まずアレクシー・ホーリーとアイデアを出し合いながら2003年10月より脚本の書き直しを始め、6週間で新たなシナリオが完成。ロケ場所はローマ、セット撮影はローマ近郊にあるチネチッタの映画スタジオを使うことにした。主な舞台になる埋もれた教会の内部と外側はローマの撮影所に作ったセット、ベシオンが入院している療養所は、廊下部分をチネチッタ・スタジオで、外観はローマ近郊にある実在のホテルを使わせてもらっている[19]。
幸いなことにシュレイダー版でカメラマンを務めたヴィットリオ・ストラーロが再契約して参加してくれることになった。ストラーロは『地獄の黙示録』(1979年)、『レッズ』(1981年)、『ラストエンペラー』(1987年)で3回もアカデミー撮影賞に輝いた、業界でも最高峰のカメラマンの1人だった。ローマでストラーロと対面したハーリンが「偉大な撮影監督とご一緒出来て光栄です」と挨拶すると、ストラーロは「嬉しい言葉だ」と前置きして、「しかし私はただの撮影技師で撮影監督じゃない。現場で監督と呼ばれるのは君だけだよ」と答えた。輝かしいキャリアを持ちながらも謙虚な彼の姿勢にハーリンは驚き、大ベテランというだけで会う前から怖い人ではないかと委縮していた自分の失礼さを恥じた[19]。
アレクシ・ホーリーが新たに書いた脚本は元の脚本を参考にしてはいるが、信仰を捨てて考古学者になったメリンが、学術調査のために古い教会発掘に来る、というメリンに関わるバックストーリーと一部のプロットの共通を除けば全て書き直されている。シュレイダー版で敬虔な英雄的司祭を演じていたガブリエル・マンは、イギリスの俳優ジェームズ・ダーシーに変わった。また、フランスの女優クララ・ベラーが演じていたレイチェルというキャラクターは、『007 ゴールデンアイ』(1995年)のボンドガール、イザベラ・スコルプコ扮するサラに書き換えられた。悪魔パズズの声は、ポール・シュレイダーの妻メアリー・ベス・ハートからルパート・ドガに変えられた[20][21]。
この他、多くのキャスト変更が行なわれた中、ステラン・スカルスガルドはメリン役を続投したが、キャラクターへのアプローチは変えたという。「最初に撮っていたシュレイダー版は、心理スリラー寄りでダークな雰囲気の映画でした。ハーリン版は演技を変え、メイクも変えています。作品や題材に合わせて調整する必要がありますからね」とスカルスガルドは話している[17]。撮影開始から2週間ほど経った頃、ハーリンはイタリアの路上で車に轢かれる事故に遭い、片脚の骨折で骨に14本ものピンを刺す大怪我を負った。不幸中の幸いでクリスマス休暇と重なった頃だったため、撮影日を1日も無駄にすることがなく、療養を終えたハーリンは松葉杖をついて現場を指揮した[19][20]。
『エクソシスト』が公開された1970年代と2000年代とでは映画のペースやカット数が全く違うため、ハーリンはオリジナル版に敬意を払いつつも、同じような作風にならないよう気をつけながら新たな気持ちで撮影を進めた[19]。だが、サラが邪悪な悪魔の正体を現わすクライマックスは、汚い言葉遣いをどうするかで頭を悩ませた。73年版で悪魔に憑依されたリーガンは、母親や神父に向かって10代の女の子とは思えない、卑猥で汚い言葉を発し、それが観客にショックを与えた。ハーリンは73年版と同じことをしたくなかったが、時系列的にオリジナルより前に当たるこの話も、悪魔は当然汚い言葉を発するだろうと思い、サラの口から「お前の腐ったペニスを、この女の濡れたケツの穴にぶち込みたいんだろう!」と言わせることにした。早い段階からサラの身体にいた悪魔は、彼女を操ってメリンを誘惑し、好意を持たれるよう演じた後で、神に仕える神父を騙して絶望させるためである。ハーリンはこう語っている。「メリンがサラを愛していることを知っている悪魔は、彼女の口を使って“ケツの中に入れたんだろう?”と言うことで、彼にショックを与え、打ちのめすんだ。こんなことは悪魔以外の誰が言うんだ? 地球上で最も下品な悪魔が人間に遠慮などするだろうか」。様々な苦労を乗り越えて、撮影は実質42日間で終えた[19]。
聖書で死の象徴とされるハイエナ、カラス、そしてハエなども、悪魔の活動を知らせるものとして多く採り入れようと考えたが、ハイエナはトレーニングが難しい動物で、ハエもセットに多く持ち込めないため、これらのものは全部CGIで作成することにした。CGIの導入を決定したのは公開2週間前のことで、ハーリンはベストを尽くしたが、ジェームスがハイエナの群れに襲われるシーンは、ハイエナがリアルに見えず上手く行かなかったと思った[19]。
完成したハーリン版『エクソシスト』は批評家向けの試写会を行なわなかったが、これは上映の数日前にようやく完成したためである。ハーリンによる全面撮り直しの映画が公開された後、シュレイダーは「もし今後、私のバージョンが陽の目を見ることがあったとしても、それはファンの応援や特別な動機からではありません。ただ、金になるからです」とコメントした[17]。なお、悪魔祓いに成功し、助かったはずのサラが死んでしまう結末に関してハーリンは「“この売女は渡さない、俺のものだ”と悪魔が言っていた通り、サラの身体から追い出される時に彼女の頭を引き裂いて行ったのです。悪魔との戦いを通じてメリンは神への信仰を取り戻しましたが、何よりも大切だったサラを失う。それが悪魔の復讐だからです」と語っている[19]。
興行
レニー・ハーリンが完成させた『エクソシスト ビギニング』は、公開初週末の興行収入で推定1,820万ドルを稼ぎ、予想を上回る好調な滑り出しでトップの座を獲得した[22]。アメリカとカナダで4,180万ドル、それ以外の海外では3,620万ドルの収入をあげ、全世界での興行収入は7,800万ドルを記録した[23]。
評価
レビューアグリゲーターのRotten Tomatoesでは、130件の批評家レビューにより10%の支持率を得て、平均評価は10点満点中3.6点になっている。同サイトの総合的評価は「『エクソシスト ビギニング』は凡庸で血みどろのホラー映画で、1973年のオリジナル版のクオリティには到底及ばない」というもの[24]。加重平均を用いるMetacriticは、22件の批評家レビューに基づき、30/100点と低調なスコアで「概ね不評」となっている[25]。
『シカゴ・サンタイムズ』の映画評論家ロジャー・イーバートは、シュレイダー版とハーリン版を両方観た上で、シュレイダー版が好きだと言い、「ハーリン版は会話が多く、興奮度が低いという点であまり魅力的ではない。メリンがナチス将校から苦しめられた過去を回想するフラッシュバックを細かく刻んで断片化しているため、その迫力を弱めています。ハーリン版はイギリス人に関するサブプロットを縮小し、恐怖シーンを倍増させているところも興味深い」と書いている[26]。
『タイムアウト』誌は「『ダイ・ハード2』の監督レニー・ハーリンのヘッドバンギングスタイルと生々しい描写(ウジまみれの胎児、内臓摘出など)は、控えめな心理描写の演出と全く相容れない。退屈な説明の山は、ホラー映画の決まり文句の寄せ集めに取って代わられ。恐怖感など微塵もない。シュレイダー版はきっとこれよりマシだろう」と酷評のレビューを書いた[27]。
『BBC』のネヴ・ピアースは「『エクソシスト ビギニング』が全く的外れな恐怖を引き起こすであろうことは、超能力を持たない私にでも予測がつく。大部分が退屈だ。タイミングの悪い恐怖シーン、平凡なキャラクター、そして質の低いCGで生成されたハイエナたちの寄せ集め。そんな中でスカルスガルドだけが、わずかに退屈さを和らげてくれる。彼は映画の品質以上の演技を見せている」として、ピアースは5点満点中2点を付けた[28]
『スラント・マガジン』のニック・シャガーは「映画史上、最も最悪な続編映画と言われる『エクソシスト2』の天文学的酷さには到底及ばないが、ハーリン監督の駄作はこのフランチャイズの墓に、泥を塗り重ねようと躍起になっている」として、1.5点を与えた[29]。
映画評論家のスティーヴン・ハンターは『ワシントン・ポスト』で「最初から最後まで失敗作だ。本作は退屈で、陰鬱で、愚かしいという、三重苦を体現している」と指摘した。「まずフリードキン監督のオリジナル版のような、物語を前進させる中心となるドラマチックな状況が明確に描かれない。信仰心を捨ててインディ・ジョーンズ風の考古学者兼遺跡泥棒になったメリンは、謎のクライアントから悪魔の彫刻を探すよう依頼され、アフリカの発掘現場に侵入する。観客はこの部分のドラマに注意を払う必要はない。なぜなら映画は最後まで、この部分に全く言及しないのだから」と辛辣なレビューを寄せた[30]。
出典
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- ^ “『エクソシスト』新作の新しい監督決定か?”. シネマトゥデイ. (2002年8月2日) 2009年7月14日閲覧。
- ^ “L・ニーソン、急遽『エクソシスト』新作を降板”. シネマトゥデイ. (2002年9月2日) 2009年7月14日閲覧。
- ^ “アトリエうたまる ビデオ・DVD版”. アトリエうたまる 日本語吹替版データベース. 2025年11月15日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r “エクソシスト ビギニング”. allcinema. 2025年11月15日閲覧。
- ^ “さかきこうすけのX(旧Twitter)より”. 2024年3月6日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m “Exorcist: The Beginning Full cast & crew”. IMDb. 2025年11月15日閲覧。
- ^ 翻訳者ネットワーク「アメリア」 [@Amelia_Network]「【アメリア会員の実績】大岩剛さん吹替翻訳『エクソシスト ビギニング』」2022年6月2日。X(旧Twitter)より2025年6月13日閲覧。
- ^ “McLoughlin tapped for ‘Exorcist’”. バラエティ (1999年10月31日). 2025年11月15日閲覧。
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- ^ “Liam Neeson gears up for Exorcist prequel”. ガーディアン (2001年10月31日). 2025年11月15日閲覧。
- ^ a b c “FILM; Enough Trouble to Make Your Head Spin”. ニューヨーク・タイムズ (2004年2月2日). 2025年11月15日閲覧。
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- ^ “Neeson Replaced in The Exorcist...”. ShowBiz (2002年5月9日). 2025年11月15日閲覧。
- ^ “Morgan Creek Productions And Warner Bros. Pictures’ “Exorcist: The Beginning,” Starring Stellan Skarsgard, Commences Principal Photography In Morocco”. ワーナー・ブラザース (2002年11月11日). 2025年11月15日閲覧。
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- ^ a b c d e f g 『エクソシスト ビギニング』DVDのオーディオ・コメンタリーより。
- ^ a b “A devil of a time”. ロサンゼルス・タイムズ (2004年8月18日). 2025年11月15日閲覧。
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- ^ “Exorcist: The Beginning”. Box Office Mojo. 2025年11月15日閲覧。
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- ^ “Schrader’s ‘Exorcist’ faces evil”. Rogerebert.com (2005年5月19日). 2025年11月15日閲覧。
- ^ “Schrader’s ‘Exorcist’ faces evil”. タイムアウト (2012年9月10日). 2025年11月15日閲覧。
- ^ “Exorcist - The Beginning (2004)”. BBC (2004年10月28日). 2025年11月15日閲覧。
- ^ “Review: Exorcist: The Beginning”. スラント・マガジン (2004年5月25日). 2025年11月15日閲覧。
- ^ “Review: Exorcist: The Beginning”. ワシントン・ポスト (2004年8月21日). 2025年11月15日閲覧。
外部リンク
固有名詞の分類
| アメリカ合衆国の映画作品 |
サハラ 死の砂漠を脱出せよ 白い肌の異常な夜 エクソシスト ビギニング ファングルフ/月と心臓 ドリアン・グレイの肖像 |
| 映画作品 |
ラン・スパイ・ラン 巴里の女性 エクソシスト ビギニング 西鶴一代女 港々に女あり |
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