貝殻
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/27 09:58 UTC 版)
他の生物との関係
後述のように、貝殻は人間に大いに利用されるが、自然界では他の生物がこれを利用する例が少なくない。もっとも有名なものがヤドカリである。
基質として
貝殻の表面には多くの生物が付着するのが普通である。海では硬い表面は固着性の生物に覆われるのがごく普通であり、貝殻もその対象であるが、それだけでなく、その表面が多孔質である点など、付着に都合がよい面もある。カイウミヒドラのように、特定の生きた貝にのみ住み着く例もある。また、その表面に穴を開けて住み着く穿孔性の動物も住み着く例がある。生きた貝でなく、後述のようなヤドカリによる二次使用の際にのみ住み着く例もあり、ヤドカリと共生するイソギンチャクなどがその代表である。
殻として
自らは殻を分泌しない動物が、貝殻を自分の殻のように使用する例もある。ヤドカリがその代表である。彼らの体は柔らかくて巻き貝の形にあったものとなっており、貝殻なしで死ぬわけではないが、裸ではあっという間に捕食者に食われる。彼らの間では体に見合った貝殻を得るのは死活問題であり、常に貝殻を巡って同類間で争いがあるらしい。中にはその表面に刺胞動物を生活させ、それが分泌する新たな殻を利用するイガグリガイのような例もある。二枚貝にも、内側に小型のカニ等が住み着いていることがある。
同様な例はツノガイホシムシなど星口動物にも見られる。
人間の利用
貝殻は非常に保存の良い生物体の部分である。肉質を剥がして乾燥すれば、ほぼ永久的に保存でき、変質も少ない。また、その形の美しさ、模様の多様さ、種類の多さもかなりのものである。そういった点で、自然に人の関心を引き、貝殻の利用は肉の利用にも勝るとも劣らず、有史以前から世界中で多種多様に用いられてきた。それらを網羅すれば膨大な内容となるはずで、ここではわずかな例を挙げるにとどめる。
- 貨幣
- 古代中国では貨幣として用いられ、経済活動の基本となる売り買いをいう「賣買(バイバイ)」が「貝(バイ)」と同根語であるのをはじめ、寶、貨、貸、貰、財、貯、買、費、賃、販といった財貨に関する文字には貝(タカラガイの象形文字)の部首をもつものも多い。
- 装飾用
- 有史以前から今日まで、世界中でもっともよく見られるのが装飾品への利用である。日本では、縄文時代に貝輪などに使われたことはよく知られ、現在でもカメオなどに代表されるブローチなどの装身具や貝ボタンなどにしばしば利用されている。なかでも真珠はその代表で、本来は貝殻内面を構成する真珠層を別の形にして利用したものである。また同じ真珠層を利用したものに螺鈿があり、正倉院の宝物にも見られる。
- 日用品
- 日常の道具としての利用も広く見られ、二枚貝は貝杓子や皿、あるいは二枚組み合わせて蓋付きの容器として使われてきた。日本ではしょっつる鍋(かやき)で用いられるホタテガイの殻や、香合や膏薬入れに使われたハマグリの殻などがよく知られている。また貝殻そのものではなく、それを模した容器もしばしば見られ、アワビを模したものは縄文時代の土器でも知られるほか、サザエ型やホタテガイ型、ハマグリ型等々の容器は現代も世に多く、洋服の柄など服飾関係の意匠にもしばしば貝殻は用いられる。縄文時代には二枚貝の貝殻の腹縁を欠いて刃として貝刃(かいじん)が用いられ、魚類の鱗を取る用具であったと考えられている。
- 玩具
- 独楽として用いられたバイやおはじきに使われたイボキサゴなど、普通に手に入る貝殻はいつの時代も子供の良いおもちゃであった。また庶民のものではないが、ハマグリは滑らかで丈夫な貝殻を持つことから貝合わせなどの優雅な遊びに利用され、その学名lusoriaも「遊び」に因むとされる。またイタボガキなどの殻を粉末にした胡粉は、伝統的な白色顔料として広く利用され、人形の顔などに用いられた。また貝殻を使った貝細工人形などは海岸沿いの観光地でしばしば売られる。貝細工にはこのような小さなものもあるが、江戸時代には菊人形同様の大掛かりな貝細工の人形があり、瀬戸物細工や籠細工などと並ぶ見世物のひとつであった。
- 薬用
- 中国医学ではイタボガキ科の貝殻を「牡蛎」(ぼれい)と称して生薬として利用してきた。焼成してから粉砕した粉は日本薬局方にも「ボレイ末」として収載されており、制酸、鎮静、解熱などの作用があり、桂枝加竜骨牡蛎湯、柴胡加竜骨牡蛎湯などの漢方薬に配合される。また、アワビ属の貝殻を「石決明」(せっけつめい)と称して、同様に薬用にしてきた。「清肝明目」(せいかんめいもく)、即ち、肝機能を改善し、同時に目の機能を高める効果があるとする。主成分はどちらも炭酸カルシウムであるが、「石決明」は局方には入っていない。
- 添加剤
- 貝殻を強熱して微粉砕したものが天然炭酸カルシウムの一種として利用されている。消しゴムなどの機能性添加剤や食品添加物などに利用されている。
- 信仰
- 貝殻は宗教的な意味合いで用いられることも多い。日本では、ホネガイやアッキガイなどの目立つ突起を持つ貝を軒にぶら下げて魔除けとしたり、スイジガイ(水字貝)を、その名から火除けのまじないとしたりする民間信仰があり、その貝が採れる地方で古くから行われてきた。また陣貝として知られる法螺貝は山伏が魔除けに吹くことでも有名で、これはチベット密教などの法具に用いられるシャンクガイが起源ではないかとも言われる。またカトリックの聖地として人気の高いスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラでは、巡礼者らが巡礼の印としてジェームズホタテPecten jacobaeusの殻を荷物などにぶら下げたり、それを象ったバッジを付けたりする。この地の大聖堂はイエスの十二人の使徒の一人、聖ヤコブを祭っており、9世紀初頭に天使のお告げによって彼の墓が発見された場所とされている。この貝をその巡礼の象徴とするのは、元漁師であった聖ヤコブがこの貝を紋章としていたからだと説明されているが、聖地巡礼の証しとして、巡礼者らがこの地で普通に食用にされる本種の殻を持ち帰ったのが始まりとの説もある。このためジェームズホタテガイはスペインでは巡礼貝(concha de peregrino) 、フランスではサン・ジャック貝( coquille St.Jacques )などと呼ぶ。なお、セント・ジェームズ(英語)、サンティアゴ(スペイン語)、サンジャック(仏語)はどれも聖ヤコブのことを指す。
- 収集
- 近現代では、貝殻は生物関連のコレクションの対象の一つで、稀少なもや見栄えのする特殊な貝は高額でやりとりされる。特にタカラガイ類は滑らかで美しい模様をもつことから古代から人々に愛玩され、現在でも貝殻コレクターの間で人気が高い。かぐや姫が貢ぎ物の一つとして要求した子安貝もタカラガイであるとされる。コレクション関連ではイモガイ類も有名で、ウミノサカエイモガイはかつては世界で一番高価な貝として知られた。
- 料理
- コキール、またコキーユ(フランス語:coquille。貝殻の意)。貝殻(形の容器皿)に盛って供される料理。たとえば鶏肉や魚貝類のクリーム煮の表面を焼く、など。
- ^ 三宅(2014)p.39-40
- ^ “貝の成長、気候変動と関連 殻の模様、東大など調査”. 朝日新聞. 2019年11月25日閲覧。
- ^ “ホタテの貝殻をリサイクル 凍結防止剤使用開始”. ラジオ番組 ずっと地球で暮らそう。 - コスモ アースコンシャス アクト. 2023年12月3日閲覧。
- ^ “凍結防止剤の製造システム”. 2023年12月3日閲覧。
- ^ 勝美, 藤島 (1996年6月). “ホタテ貝殻を利用した路面スリップ防止材”. 工業材料 = Engineering materials. pp. 101–108. 2023年12月3日閲覧。
貝殻と同じ種類の言葉
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