火力発電
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/03 02:25 UTC 版)
燃料
長所と短所
長所
- 安定した電力を供給可能である。太陽光発電や風力発電は変動が多いため、発電量が少ない場合のバックアップとして補完することができる[21]。再生エネルギーで水から生成した水素を活用できれば[18]、デメリットである環境負荷を抑えられる。
- 電力需要の変化に対応できる[21]。原子力発電や太陽光発電、風力発電と違い、刻々と変化する需要に応じて発電量を柔軟に調整でき[22]、水力発電と比べても長く調整ができる[21]。ただし、揚水発電や、南オーストラリア州では大規模のエネルギー蓄電施設により75%電気代が値下げされ約45億円の節約につながる等、蓄電技術の向上等により出力や需要の変動の問題は解決できる可能性がある[23]。
- 万一事故を起こしても、被害は局所的なものにとどまることが多い。但し台風などがオイルタンク破壊と結びつく場合、生態破壊や土壌汚染などは他の発電に比べて、大きく長期的なものになる(その災害の規模に依存する)。石油火力発電所は1979年以降、新規建設が禁止されている。
短所
- 大気汚染と環境破壊
- 日本は省エネが進み、経済協力開発機構(OECD)平均よりもエネルギーの消費効率が高いにもかかわらず、国民一人あたりのCO2(2016年)を比較したところ、9.0トンとOECD35カ国中27位で平均(7.6トン)よりも多く、政府は火力発電に頼る供給側に弱みがあると分析している[24]。
- 特に石炭火力発電は二酸化炭素排出量が、天然ガスを使う同規模の火力発電の約2倍多く、欧州諸国やカナダが廃止していく方針を打ち出すなど、「脱石炭」の流れが世界で強まっている[25]。地球温暖化をパリ協定の目標である1.5°Cまたは2°C未満に保つには、数百から数千の石炭火力発電所を早期に廃止する必要がある[26]。国連事務総長アントニオ・グテーレスは各国に化石燃料への補助金を削減し、新規の石炭火力発電所の建設中止をくり返し求めているが、環境NGO気候ネットワークの調査によると、日本では2019年時点で約100基の石炭火力発電所が稼働中で、計画中(建設中含む)の22基が稼働すればさらに年7474万トンが排出される。この石炭火力発電をめぐり、日本の安倍晋三首相とオーストラリアのスコット・モリソン首相は、米ニューヨークで2019年9月23日に開かれた国連気候行動サミットで演説を要望したが、認められなかった。サミットに合わせて、石炭を使った発電を続ける日本に対する抗議デモも開かれた[27][28][29]。
- 経済的リスク
- 英国のシンクタンクOverseas Development Instituteおよびその他11のNGOは、人口のかなりの割合が電力にアクセスできない国での新しい石炭火力発電所の建設の影響に関するレポートを2016年10月に発表している。報告書は、石炭火力発電所の建設は貧困層をほとんど助けず、むしろより貧しくする可能性があると結論付けている[30][31]。
- 2019年10月6日、東京大学と英シンクタンクのカーボントラッカー、機関投資家が運営するカーボン・ディスクロージャー・プロジェクトは、日本では再生可能エネルギーのコスト低下によって、洋上風力発電、太陽光発電、陸上風力発電のコストはそれぞれ2022年、23年、25年までに新規計画中の石炭火力発電よりも安くなり、石炭火力発電関連施設には最大710億ドル相当の「座礁資産化リスク」があるとの調査報告書を公表した[32]。
- 二酸化炭素回収・貯蔵技術は各国で開発が進められており技術的に実現可能であるが、太陽光発電技術のコストが低下しているため、石炭との併用は経済的に実行可能ではないことの試算もある[33]。
- 火力発電には大量の化石燃料を必要とするが、日本の2018年の化石燃料の海外依存度は、石油99.7%、LNG(液化天然ガス)97.5%、石炭99.3%となっており、そのほとんどを海外からの輸入に頼っている[34]。そのため、エネルギーコストがかかり、国際的な燃料価格の影響を受けやすく、化石燃料が値上がりすると、貿易赤字や電気代値上がりで膨大な国民損失を発生させる[35]。
- 国内の投資・雇用誘発効果が低い。ただし、六本木エネルギーサービスのように街全体の再開発の中で、都市ガスから電気と熱を供給して多くの雇用を生んでいる例もある[36]。
- 事故死
- 発電に関わる事故で1969~2000年の間にOECD加盟国、非加盟国合わせて火力発電で44,553人、水力29,938人、原子力が31人死亡している[注 1]。死者数は火力発電が最も多くなっている。理由としては石炭採掘の坑道内での火災や落盤などでの事故が多いことである。2000年以降では中国で2002年~2009年の間に年平均約5000人が死亡している。次に多いのが交通事故やタンカー事故などである[37]。
脚注
注釈
- ^ 水力及び原子力については、全て発電過程での事故による死亡者数。発電所外の死亡は含まれない
出典
- ^ 火力発電 コトバンク
- ^ アンモニアを燃やして発電 科学技術振興機構(2021年1月20日閲覧)
- ^ 「石炭火力に高効率木質材 北陸電、CO2削減へ」『日経産業新聞』2021年1月12日(環境・エネルギー・素材面)
- ^ a b c d 『図解入門 よく分かる最新火力発電の基本と仕組み』、p10
- ^ 『図解入門 よく分かる最新火力発電の基本と仕組み』、p26
- ^ ガスタービン・コンバインドサイクル発電プラント(GTCC)は、化石燃料を使用した最もクリーンかつ高効率な発電設備です。
- ^ 「中部電力西名古屋火力7-1号の発電効率63.0%。世界最高でギネス認定」『電気新聞』2018年4月2日
- ^ ガスタービン・コンバインドサイクル発電プラント(GTCC)
- ^ a b 『図解入門 よく分かる最新火力発電の基本と仕組み』、p31
- ^ IGCC(石炭ガス化複合発電)(常磐共同火力株式会社 勿来発電所)
- ^ 石炭ガス化技術Q&A(大崎クールジェン株式会社)
- ^ 第3段階 CO2分離・回収型IGFC実証(大崎クールジェン株式会社)
- ^ 電子ビームによる排煙処理技術
- ^ 電子ビームによる排煙処理パイロット試験結果
- ^ 電子ビーム照射による排煙の脱硫脱硝処理技術
- ^ 次世代の火力発電としての「水素発電」の可能性 - みずほ情報総研(2016年6月28日版/2016年10月11日閲覧)
- ^ “「水素発電所」の実現へ前進、神戸市で水素専焼ガスタービンの実証運転に成功”. スマートジャパン. (2020年8月13日)
- ^ a b “再エネ水素で「火力発電」が米国で実現、MHPSが専用タービンを受注”. スマートジャパン. (2020年3月19日)
- ^ “【世界初】アンモニア100%燃焼による 300kW級マイクロガスタービン発電に成功”. TOYOTA ENERGY SOLUTIONS. 2021年6月15日閲覧。
- ^ “世界初,2,000kW級ガスタービンで液体アンモニアの70%混焼に成功 ~航空エンジン技術の応用により,安定燃焼が困難な液体アンモニアの燃焼技術を開発~”. IHI. 2021年6月15日閲覧。
- ^ a b c 高橋毅, ed (2012-09-28). 進化する火力発電-低炭素化・低コスト化への挑戦-. 日刊工業新聞社. pp. 5-6
- ^ 円居総一『原発に頼らなくても日本は成長できる』(ダイヤモンド社、2011年)85頁。
- 発電所さえ建てれば供給は随意拡大可能。ガスタービンは季節/時間的負荷変動に応じた運転可能。ただし、石炭火力・ガスタービン廃熱発電は夜でも火は落せず半出力。
- ^ テスラによる世界最大規模の蓄電システムが約45億円もの節約に貢献し大成功を収める Gigazine(2018年12月7日)
- ^ 「火力発電所のCO2削減課題 エネルギー白書」『日本経済新聞』2019年6月7日
- ^ 「脱石炭」へ問われる姿勢 日本は電源の3割、世界は『朝日新聞』2019年9月21日
- ^ We have too many fossil-fuel power plants to meet climate goals National Geographic 2019年7月1日
- ^ 気候変動が「加速」、過去5年で世界気温は最も暑く=世界気象機関 BBC NEWS JAPAN(2019年09月23日)
- ^ 首相、気候サミット演説断られる 「石炭火力推進が支障」「温室ガス削減目標不十分」『東京新聞』2019年11月29日
- ^ 「石炭はセクシーじゃない」NYで日本の火力発電に抗議『朝日新聞』2019年9月24日
- ^ Coal doesn’t help the poor; it makes them poorer The Guardian 2016年10月31日 Nuccitelli, Dana
- ^ Beyond coal: scaling up clean energy to fight global poverty Position Paper Overseas Development Institute (ODI) London, United Kingdom 2016年10月 Granoff, Ilmi; Hogarth, James Ryan; Wykes, Sarah; Doig, Alison
- ^ 日本の石炭火力発電、最大710億ドルの「座礁資産」になるリスク Reuters(2019年10月7日)
- ^ Coal with Carbon Capture and Sequestration is not as Land Use Efficient as Solar Photovoltaic Technology for Climate Neutral Electricity Production Nature
- ^ 2019-日本が抱えているエネルギー問題(前編) 経済産業省 2019年8月13日
- ^ 日本総研 円安により高まる火力発電燃料費の増加懸念(2013年5月2日)
- ^ 東京ガス『【特集・お客さま導入事例】六本木ヒルズ』(2011年6月18日閲覧)
- ^ “総合資源エネルギー調査会 原子力の自主的安全性向上に関するWG 第2回会合資料3”. 経済産業省. 2021年6月19日閲覧。
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