手榴弾
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/11 14:07 UTC 版)
歴史
手投げ式の爆弾(手榴弾)が最初に使用されたのは8世紀の東ローマ帝国とされるが、その中身はギリシア火と呼ばれる焼夷剤とされており、はっきりしない部分も多い。中国でも古くから火薬を用いた手投げ式の爆弾(震天雷など)が用いられており、13世紀の元寇において、元軍がてつはうを使用した。これ以降日本でも作られるようになり、15世紀の応仁の乱でも使用され、戦国時代には焙烙玉と呼ばれるものが使用された。硝石を産出しない日本では火薬が貴重品だったため、大規模に使用されることはなかったが、音による威嚇効果や、対舟艇兵器として有効だったため使用され続けた。
近世ヨーロッパ式の手榴弾(擲弾)が使われるようになったのは、ルイ14世時代のフランス王国が最初とされる[9]。この当時の擲弾は、中が空になった球体の鋳物に黒色火薬を詰めて導火線を付けたものである。これは、導火線に着火してから投げるため極めて扱いにくく、誤爆事故も多かった上に、敵にぎりぎりまで肉薄して擲弾を投げつけなければならなかった。このように専門的知識が必要な兵器であるため、現在の手榴弾のように歩兵全員に支給されることは無く、取り扱いの訓練を受けた歩兵が使用した。この事から、擲弾を投げる任務を与えられた兵士は擲弾兵(Grenadier)と呼ばれ、精強な勇気のある者が選抜される、歩兵にとって栄誉ある存在と特別視された。以降の近代の軍隊でも、イギリスのグレナディアガーズ(Grenadier Guards)、ドイツの装甲擲弾兵(Panzergrenadier)などの擲弾兵に由来する名を冠する部隊や、ロシア空挺軍やフランス外人部隊、イタリアのカラビニエリ(国家憲兵)、フランスのフランス国家憲兵隊、のように、本来の用兵から転じて精兵の同義語、精鋭部隊の紋章として使用されている。
19世紀末にアルフレッド・ノーベルがダイナマイトを発明した。土木工事や破壊工作にも用いられたが、ニトログリセリンを珪藻土等に吸収させる方式を用いたことで、飛躍的に安定性と威力が向上したため、擲弾としても広く用いられた。なお、「ノーベルがダイナマイトを発明したのは土木工事を安全に行うのが目的であり、戦争に用いられたのは想定外であった」という風聞があるが、実際には兵器として使われる事は彼の想定内であった。むしろノーベルは、ダイナマイトのような破壊力の大きな兵器が使われる事で、抑止力として働く事を期待した[10]。
現代の安全装置を取り付けた手榴弾は第一次世界大戦から使用されるようになり、以後さまざまな形状や安全装置が各国で試された。現代では安全ピンと安全レバーを取り付けた球状やパイナップル型が主流となっているが、部隊の紋章には、精鋭部隊の証だった頃の古いタイプ(導火線の付いた球形の本体)が図案化されていることが多い。
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ロシア空挺軍の紋章。中央部に導火線に点火した翼章付き擲弾があしらわれている
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カラビニエリの紋章。点火した状態の手榴弾。頚飾は無く、そのまま帽章になっている
注釈
- ^ この場合の「防御」とは塹壕などで身を隠して使用する場合を意味し、「攻撃」は特定目標を狙っての攻撃を意味する。
- ^ a b ディスカバリーチャンネル『怪しい伝説』5thシーズン12「コーラと手榴弾」。うわさ話について科学的な実験を行う番組。動物性ゼラチン製のダミー人形を手榴弾の上に被せることで被害が軽減されることを実証した。まず、人形無しで手榴弾を爆発させる比較実験では撮影カメラを破壊するほど広範囲に破片が飛び散った。特に周囲1.5-4.5m周囲に配置された木製ターゲットには全身に破片が貫通した穴が空くほどで、即死判定が下った。一方、人形を被せた実験では爆発により人形は四散したものの、手榴弾の破片はほとんどが人形に吸収され、至近距離(1.5m)のターゲットの足部分に穴が空いたのみだった
- ^ 彼はその功績により、911後9番目の名誉勲章受章者となった。
出典
- ^ 「手投げ弾」と「手りゅう弾」の使い分けや決まりはある? | ことば(放送用語) - 放送現場の疑問・視聴者の疑問 | NHK放送文化研究所
- ^ デジタル大辞泉 「手榴弾」
- ^ 飛び道具の人類史―火を投げるサルが宇宙を飛ぶまで アルフレッド・W. クロスビー (著)
- ^ Chisholm, Hugh, ed. (1911). . Encyclopædia Britannica (英語). Vol. 12 (11th ed.). Cambridge University Press. p. 578.
- ^ “Online Etymology Dictionary”. Etymonline.com. 2017年1月5日閲覧。
- ^ “軍の命令、人間国宝が作った備前焼の手りゅう弾…「嫌な思い出だが残さねば」長男が寄贈”. 読売新聞オンライン (2022年8月11日). 2022年8月11日閲覧。
- ^ 『図解ミリタリーアイテム (F-Files)』118P
- ^ a b 日本一受けたい授業
- ^ ルネ・シャルトラン 『ルイ14世の軍隊 : 近代軍制への道』 稲葉 義明訳、新紀元社、2000年。ISBN 978-4-88317-837-7
- ^ 『当った予言、外れた予言』ジョン・マローン著 文春文庫 ISBN 4167308967
- ^ 柿谷哲也『海上保安庁「装備」のすべて』サイエンス・アイ新書、2012年、P102、ISBN 978-4-7973-6375-3。
- ^ “アーカイブされたコピー”. 2014年9月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年7月16日閲覧。
- ^ “手りゅう弾に注意!”. 福岡県警察. 2013年10月7日閲覧。
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