心筋炎 心筋炎の概要

心筋炎

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/03 03:40 UTC 版)

心筋炎
ウイルス性心筋炎の組織像
概要
診療科 循環器学
分類および外部参照情報
ICD-10 I09.0, I51.4
ICD-9-CM 391.2, 422, 429.0
DiseasesDB 8716
MedlinePlus 000149
eMedicine med/1569 emerg/326
Patient UK 心筋炎
MeSH D009205

原因

ヒト
細菌ウイルスクラミジアマイコプラズマ真菌寄生虫などの感染によって発症する例が多く、なかでもピコルナウイルス科のコクサッキーB群ウイルスが心筋炎の原因になりやすいと言われている。ヒト免疫不全ウイルス (HIV) 感染症やC型肝炎ウイルスの感染も心筋炎発症の原因となる。また、サルコイドーシス膠原病川崎病といった疾患や、ワクチンを含む薬物、放射線熱射病なども原因となる場合がある[1]
SARSコロナウイルスSARSコロナウイルス2などのコロナウイルスは、臓器の細胞表面にあるACE2受容体に結合して細胞内に侵入する。ウイルスに感染した細胞には大量の免疫細胞が集まるが、免疫細胞の活動によって心筋内で炎症が発生する[2][3]。2002年から2004年のSARS流行期に行われた研究では、カナダトロント地域において、SARSにより死亡した患者の35%の心臓からSARSウイルスのRNAが検出された[4]。加えて、SARS罹患者の心臓では、健常者と比較してACE2受容体の発現が増加していることが認められた。
2020年以降世界的に感染が拡大したCOVID-19においては心筋炎を合併するケースも見られるが、これはウイルスに対して免疫が過剰に反応するサイトカインストームが発生し、心筋に炎症を起こすためであると考えられている[5]。また、COVID-19ワクチンの接種によって心筋炎や心膜炎を発症するケースもあるが[6]、多くの場合は軽症で早期に改善しており、日本循環器学会もワクチン接種の利益は接種後の心筋炎・心膜炎のリスクを上回るという声明を発表している[7]
心筋炎の原因となるもののうち、感染性のものとしては、ウイルスとしてコクサッキーB群ウイルス(最多)、脳心筋炎ウイルス、犬パルボウイルス、口蹄疫ウイルス、犬ジステンパーウイルス、ヘルペスウイルス、オーエスキー病ウイルス、豚生殖器呼吸器症候群ウイルス、悪性カタル熱ウイルス、ブルータングウイルスなど、細菌としてListeria monocytogenesActinobacillus equuliHaemophilis somnusなど、原虫としてトキソプラズマトリパノソーマなどがある。

分類

心筋炎は、組織学的観点から4つに大別される。このうち、リンパ球性心筋炎は主にウイルス感染を原因とすることが多く、他の3つは心毒性物質、薬物アレルギー、自己免疫、全身性疾患などに伴って発症することが多い[1]

リンパ球性心筋炎は、心筋組織にT細胞B細胞などのリンパ球マクロファージなどの浸潤を認める。

好酸球性心筋炎は、心筋に浸潤した好酸球の顆粒中に含まれている好酸球カチオン性タンパク質英語版 (ECP) や、主要塩基性タンパク質(MBP)などの細胞毒性物質により生じる。放射状の好酸球浸潤や脱顆粒、心筋細胞の破壊、および浸潤炎症細胞に近接している心筋細胞の傷害を認める[1]

巨細胞性心筋炎は、多数の多核巨細胞が出現し、びまん性の心筋壊死が認められる致死的な心筋炎である[1][8]

肉芽腫性心筋炎は、心筋組織において肉芽腫の発生が見られる[9]

劇症型心筋炎

心筋炎の中でも、心臓の機能が極端にかつ急激に低下し、全身の循環が維持できなくなる心筋炎を「劇症型心筋炎」と呼ぶ。強心剤人工呼吸でも循環を維持できず、人工心肺装置を装着して機能回復を待つこともある[10]


  1. ^ a b c d e 2023年改訂版 心筋炎の診断・治療に関するガイドライン 日本循環器学会、2023年9月19日閲覧。
  2. ^ 新型コロナ後遺症 ひそかに上がる心血管疾患リスク 日本経済新聞、2022年9月27日
  3. ^ 村田伸弘, 奥村恭男「COVID-19と循環器疾患」 『日大医学雑誌』80巻1号, 2021, pp.3-5
  4. ^ “SARS-coronavirus modulation of myocardial ACE2 expression and inflammation in patients with SARS”. European Journal of Clinical Investigation 39 (7): 618–625. (July 2009). doi:10.1111/j.1365-2362.2009.02153.x. PMC 7163766. PMID 19453650. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7163766/. 
  5. ^ こんにちわ2020年11月号 新型コロナウイルスと心血管疾患 循環器内科部長 中村真胤 西城中央病院、2020年11月1日
  6. ^ ワクチンを接種すると心筋炎や心膜炎になる人がいるというのは本当ですか。 厚生労働省 新型コロナワクチンQ&A、2023年9月19日閲覧。
  7. ^ かぜの症状と似ている心筋炎 原因・診断・治療・新型コロナとの関係 NHK、2021年11月3日
  8. ^ 心筋炎 CIRCULATION 2014 第4巻第4号、2023年9月19日閲覧。
  9. ^ 新津谷真人, 長谷川延広, 西山慶子, 桑尾定仁, 村松準, 木川田隆一「症例 特発性肉芽腫性心筋炎で心外病変を伴った1急死例」 『心臓』23巻10号, 1991, pp.1154-1159
  10. ^ a b c d e f 主な疾患 徳洲会グループ、2023年9月19日閲覧。
  11. ^ 心筋炎 MSDマニュアル家庭版、2023年9月19日閲覧。
  12. ^ 心筋炎とは 日本心臓学会、2023年9月19日閲覧。


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