岩波文庫 岩波文庫の概要

岩波文庫

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/22 00:10 UTC 版)

岩波文庫
発行日 1927年昭和2年)7月10日
発行元 岩波書店
ジャンル 古典的価値を持つ書物
日本
言語 日本語
形態 叢書、文庫本
公式サイト https://www.iwanami.co.jp/bun/
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概要

1927年昭和2年)7月10日[1]に、当時の教養啓蒙主義のもと、ドイツレクラム文庫を模範とし、書物を安価に流通させ、より多くの人々が手軽に学術的な著作を読めるようになることを目的として創刊[注 1]された日本初の文庫本である[2]。国内外の古典的価値を持つ文学作品や学術書などを幅広く収めており、最初の刊行作品は『こゝろ』、『五重塔』、『にごりえたけくらべ』、『戦争と平和 第一巻』(米川正夫訳)、『櫻の園』(同訳)など22点[注 2]であった。

第二次世界大戦前は『岩波英和辞典』編集者の島村盛助訳によるエドウィン・アーノルドの抒情詩『亜細亜の光』などが刊行され、戦中には賀茂真淵『語意・書意』や本居宣長『直毘霊』などの国学文献のほか、『軍隊の服従と偉大』などが発行されたが、1938年2月7日、社会科学関係書目28点などが自発的休刊を強いられる[3]。戦後は『きけ わだつみのこえ』や社長吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』などが発行された。

1991年(平成3年)に活字を大きくしたワイド版(B6判)を創刊[注 3]。概ね評価が定着した作品を収録する。該当しない書目は、岩波現代文庫(2000年(平成12年) - )に収録されている(旧版は、岩波同時代ライブラリー(1990年(平成2年) - 1998年(平成10年))、現代文庫から岩波文庫への移行再刊もある。

古くからの読者には馴染みが深いが、定価は金額ではなく星印(★)で示しており、★1つ○円などと、星の数で値段を計算していた[注 4]。値上げの際には、1973年(昭和48年)に★1つあたりの値段を70円に値上げするまでは、★単価の改訂で告知していた。しかし、1975年(昭和50年)の定価改定時に、☆マークを導入し、★の在庫品に関しては当時の★1つ70円という旧価格で販売し、新刊・重版時に☆マークに切り替え、☆1つ100円とした。さらに、1979年(昭和54年)からは、★マークを50円として設定しなおし、100円の☆マークと併用して50円刻みの価格設定を行った。この方式は1989年(平成元年)の消費税導入時に総額表示が行われるまで続いた。

岩波文庫には原則として絶版はなく[注 5]、品切れがあるのみで、1982年(昭和57年)から定期的[注 6]に、リクエストの多い過去の刊行物の復刊を行っている。重版も毎月3〜4冊と、数十冊の一斉重版も年に1〜2度している。

製本

左は岩波文庫で、天アンカットで製本されている。右は比較用の三方裁ちで製本された文庫本(講談社学術文庫)。

創刊当初は、カバーではなく、活版印刷・糸かがり・天アンカットスピン(栞ひも[注 7])付き・グラシンのカバー掛け等の造本で[2]、本体の背が現在のものより1センチ高く作られていた。1960年代頃から他社の文庫はカバー導入を行ったが、岩波文庫でのカバー導入は遅く、カバー付文庫版の初登場は1982年(昭和57年)10月であった。

1987年(昭和62年)7月の新刊からは全てにカバーをかけ、背表紙の帯色で分野明示となった。1990年(平成2年)から年2回の一括復刊にもカバーをかけている。製本工程において天部(本の上部)を化粧裁ちしていない[注 8]


注釈

  1. ^ 文庫巻末に掲載されている発刊の辞「読書子に寄す―岩波文庫発刊に際して」に、「かつては民を愚昧ならしめるために学芸が最も狭き堂宇に閉鎖されたことがあった。今や知識と美とを特権階級の独占より奪い返すことは常に進取的なる民衆の切なる要求である。岩波文庫はこの要求に応じそれに励まされて生まれた。」とある。なお、起草者は三木清で、当時の社長であった岩波茂雄の名で発表された。
  2. ^ その他の刊行書目として、『おらが春・我春集』、『病牀六尺』、『仰臥漫録』、『北村透谷集』(島崎藤村編)、『號外 他六篇』(國木田獨歩著)、『藤村詩抄』(自選)、『幸福者』、『出家とその弟子』、『賢者ナータン』(大庭米治郎訳)、『闇の力』(トルストイ著,米川正夫訳)、『生ける屍』(同著,同訳)、『叔父ワーニャ』(同訳)、『父』(小宮豊隆訳)、『令嬢ユリェ』(茅野蕭々訳)、『プラトン ソクラテスの弁明・クリトン』(久保勉・阿部次郎訳)、『認識の対象』(リッケルト著,山内得立訳)、『科学の価値』(ポアンカレ著,田邊元訳)。7月15日には『實践理性批判』(波多野精一・宮本和吉訳)が刊行された。
  3. ^ 2015年3月刊で休止
  4. ^ 1927年(昭和2年)の創刊当初は★1つで20銭であった。
  5. ^ 例外として「翻訳が新しくなったとき」などには、旧約のものを絶版にすることがある。
  6. ^ かつては春と秋であったが、現在は春のみ。
  7. ^ 1970年に廃止された[4][5]
  8. ^ この体裁を採用したのは「フランス装風の洒落た雰囲気を出すため」とされるが[5]、現在一般的になった三方裁ちに比べると製本上手間がかかる。なお、岩波文庫と同様に天の部分を化粧裁ちしていない文庫として新潮文庫があるが、その理由は本の上部に栞を付けているためである。
  9. ^ 定価を改訂して星の数が増えたときは、aを追加していた。
  10. ^ 例えば『黄1-1』の『古事記』ならば、〈30-001-1〉のように記載される。
  11. ^ 例えばルソー『告白』『孤独な夢想者の散歩』は赤から青に移籍した。
  12. ^ 森鷗外の『青年』や泉鏡花の『歌行燈』、野間宏の『真空地帯』の改版の際や、『源氏物語』の新版など。
  13. ^ 全分量の約半分に該当する。

出典

  1. ^ 『岩波書店七十年』(1987年3月27日、岩波書店発行)43頁。
  2. ^ a b 文庫本”. 製本のひきだし 製本用語集. 東京都製本工業会. 2020年6月29日閲覧。
  3. ^ 岩波書店五十年
  4. ^ 岩波文庫の80年”. 岩波文庫. 2020年6月29日閲覧。
  5. ^ a b 文庫豆知識”. 岩波書店. 2020年6月29日閲覧。
  6. ^ ISBNと日本図書コードのルール<運用のガイド-資料集<日本図書コード管理センター[リンク切れ]
  7. ^ 桑原聡 (2005年4月18日). “出版インサイド『紫禁城の黄昏』岩波文庫版は何を隠したか”. 産経新聞 (産経新聞社). http://blogs.yahoo.co.jp/juliamn1/1636434.html 2014年3月22日閲覧。 
  8. ^ 山田侑平「岩波文庫 あの名著は誤訳だらけ――大学生必読「国際政治学の古典」は全く意味不明」『文藝春秋』第80巻(4号)2002年4月号、文藝春秋、2002年4月、202-209頁。 
  9. ^ a b 『きけわだつみのこえ』改変事件”. 裁判の記録1999下. 日本ユニ著作権センター. 2011年4月5日閲覧。
  10. ^ 保阪(1999)、第7章


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