大雪山 自然

大雪山

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/09 08:12 UTC 版)

自然

7月中旬の大雪山の花畑(黄色はチングルマ、赤はエゾノツガザクラ)
9月の紅葉の様子(黒岳石室付近)

大雪山は高山植物の宝庫である。高緯度の北海道にあるため気象条件は日本アルプスの3,000m級の山々とほぼ同じとされている[3]。大雪山はこの高度領域が非常に広く、また山々がなだらかに広がっているため、日本最大の高山帯を形成している。地理的にもカムチャツカシベリア、日本の本州からの合流点となっているほか、温帯寒帯の狭間でもあり、小泉岳 - 緑岳の山岳永久凍土と呼ばれる永久凍土や多くの周氷河地形が残ることから高山植物の種類も豊富である。

その地理や気候風土から、日本国内では最も早く紅葉を見ることができ、9月からウラシマツツジチングルマなどの紅葉を楽しむことができる[11]。また、例年9月中旬には初雪を観測する[11]

大雪山系には、やや南にあるトムラウシ山(2,141 m)、忠別岳(1,963 m)も含める。この付近にはアイヌ語で「カムイミンタル(kamuy-mintar)」と言われる場所がある。直訳すると「神々の庭」という意味で、ここでいう「神」とは「キムンカムイ(kimun-kamuy)」(山の神)、つまりヒグマのことであり、ヒグマが多数出現する場所である。

地史

大雪山系の土台となっている基盤岩は海抜1,000 mに達している。その上に更新世初期に多量の火砕流が噴出した後、現在の地形を形作る火山活動が始まった。まず流動性の高い厚い溶岩流が噴出し、南部の高根ヶ原や北西部の沼ノ平などの広い高原が形成された。

その後の噴火では流動性の少ない溶岩に移行し、北鎮岳・黒岳・白雲岳などの溶岩円頂丘ができた。3万年前に大雪山の中心部で大きな噴火があり、大量の火砕流が東側に流出して台地を形成した。この台地を石狩川浸食してできたのが層雲峡で、両岸の柱状節理はこのときに堆積した溶結凝灰岩である。

約3万8千年前に御鉢平カルデラが形成された[12]。1万年前から西部で繰り返し噴火が起こり、成層火山の旭岳ができた。旭岳は約5,600年前に山体の一部が崩壊する噴火が起こって、現在見られる山容となった。旭岳は現在も盛んな噴気活動を行っている(写真参照)。最新の水蒸気噴火は約250年前以降である[12]

読みについて

大雪山の名を初めて著した書物は、1899年明治32年)発行の『日本名勝地誌』とされる[13][14]。この書では、「たいせつざん」と振り仮名があった。命名者は小説家の松原二十三階堂(岩五郎)とされる。1912年(明治45年)発行の『帝國地名辭典』には、同じ読みで掲載されている[15]

国土地理院では「たいせつざん」の呼び名を採用しており[16]、5万分の1地形図の名称は「大雪山(たいせつざん)」となっている。旭川市から網走市へと至る国道39号の通称は大雪国道(たいせつこくどう)であり、同市内にある公共施設の名称は旭川大雪アリーナ(あさひかわたいせつアリーナ)や旭川市大雪クリスタルホール(あさひかわしたいせつクリスタルホール)である。また、上川町層雲峡温泉には「ホテル大雪(たいせつ)」という名称の大型温泉ホテルがある[3]札幌駅旭川駅 - 網走駅間を結ぶ国鉄JR北海道)の急行列車・特急列車の愛称も「大雪(たいせつ)」となっている。

一方で、1934年(昭和9年)に指定された大雪山国立公園の読みは「だいせつざんこくりつこうえん」とされている[3]。大雪山固有の動植物の和名も「ダイセツ」を付けるものがほとんどであり、主なものにダイセツトリカブト、ダイセツタカネヒカゲ、ダイセツオサムシ、ダイセツタカネフキバッタなどの例があげられる。東亜国内航空では、所有するYS-11の機体ごとに日本各地の地名がニックネームとして使用しており、うち JA8759 が「だいせつ」の名を冠していた。現地の案内板のローマ字表記も「Daisetsu」と「Taisetsu」が入り交じっている。


  1. ^ 三角点瓊多窟(ぬたっく)気象庁/2020年10月28日閲覧
  2. ^ 基準点成果等閲覧サービス”. 国土地理院. 2014年7月15日閲覧。 “基準点コード TR16542369801”
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n 太田英順「地質で語る百名山 第5回 大雪山」『GSJ 地質ニュース』Vol.4 No.6 産業技術総合研究所地質調査総合センター(2015年)2021年8月14日閲覧
  4. ^ 大雪山国立公園(環境省)2021年3月2日閲覧
  5. ^ 深田久弥『日本百名山』朝日新聞社、1982年。ISBN 4-02-260871-4 
  6. ^ a b c d 【時を訪ねて 1918】地名の決定(大雪山系)一枚の地図に落とし込む『北海道新聞』日曜朝刊別刷り2020年10月11日1-2面
  7. ^ a b c d e 大雪山国立公園(環境省)2021年2月19日閲覧
  8. ^ 大雪山(旭岳) 神々が遊ぶほど美しい「北海道の屋根」”. ヤマレコ. 2022年9月19日閲覧。
  9. ^ 山崎晴雄、久保純子『日本列島100万年史 大地に刻まれた壮大な物語』講談社ブルーバックス、2017年、57頁。ISBN 978-4-06-502000-5 
  10. ^ a b c 『北海道新聞』土曜朝刊サタデーどうしん21-22面「名言生んだ大雪山の旅100年」「四方に広がる絶景ルート」「旅を支えた案内人 成田嘉助」
  11. ^ a b 日本一早い紅葉(上川町)朝日新聞』2017年9月6日(2018年9月8日閲覧)
  12. ^ a b 大雪山気象庁)2017年4月閲覧
  13. ^ 松原岩五郎『日本名勝地誌 第9編 北海道之部』(4版)博文館、1903年、104頁。 
  14. ^ 小泉秀雄「北海道中央高地の地学的研究」『山岳』第12年2・3合併号、日本山岳会、1918年、205-452頁。
  15. ^ 太田爲三郎編『帝國地名辭典 下巻』(三省堂、1912年)896頁
  16. ^ 日本の主な山岳標高


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