モモ 生産と流通

モモ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/01 15:24 UTC 版)

生産と流通

日本や米国ではモモの生産量、消費量ともに減少傾向にある一方で、中国スペインでは生産量が増加しており、特に中国は幅広い地域で栽培が行われ生産量が急増している[25]。スペインは世界最大のモモの輸出国であり、長期にわたりヨーロッパ市場に出荷している[25]。収穫後のモモは常温で成熟、老化が急速に進みやすく、日持ちしない果物であるため、世界の輸出量はすべての果物の中でも少ない方である[25]。低温下では成熟、老化する速度がゆっくりになるが、流通に際して、モモ果実を冷蔵貯蔵することによる低温障害が大きな課題になっている[24]。低温障害が発生すると、果実の外見は健全であっても、内部の褐変や粉質化によってジューシー感が失われてしまう[27]

モモの果実はやわらかいので押し傷、擦り傷などを受けやすく、収穫、搬送、選果などでは丁寧な取り扱いが必要である[44]。日本以外の国では、選果ラインで傷がつかないように、軟化する前の硬めの果実が収穫されていて、遠距離市場向けに出荷する場合には、早めの収穫になりがちである[44]

主な生産地

桃(およびネクタリン)生産, 2020
生産
(百万トン)
中国 15.00
スペイン 1.31
イタリア 1.02
トルコ 0.89
ギリシャ 0.89
イラン 0.66
アメリカ合衆国 0.56
World 24.57
Source: United Nations, FAOSTAT[45]

主な生産国は、中国スペイントルコギリシャイランアメリカイタリアなどである[28]。世界のモモ産地の多くは、日本よりも暖かく、降水量が少ない地域である[28]。アメリカ最大の生産州はカリフォルニア州で、そのほかサウスカロライナ州ジョージア州にも産地がある[28]。世界のモモ(ネクタリンを含む)生産量は2020年統計で2457万トンに達し、世界最大の生産国は中国であり、その生産量は1501万トンで他国を圧倒する[46]。中国は幅広い地域でモモの生産が行われており、山東省だけでも生産量2位のスペインの2倍以上ある[47]。モモ・ネクタリン類のうち、日本ではネクタリンが占める割合は1.5%と非常に少ないが、中国などの主要産出国やスペイン、オーストラリアなどの輸出国では20 - 60%ほどあり、ネクタリンの占める割合がかなり大きい[48]

モモの輸出量が多い国は、スペイン、トルコ、ギリシャ、チリウズベキスタンなどで、輸出地は日もち性が悪いことも関係して、近隣国に出荷することがほとんどである[28]。南半球のチリオーストラリアから北半球向けに輸出されるが、その取り扱い量は少ない[28]。年間消費量が多い国はイタリア、スペイン、チリ、中国などがあり、特に一人あたりの最大消費国はイタリアでは、個人の年間消費量は20キログラム (kg) /人に達する[49]。世界的にみて、中国では生産量の増加に合わせて消費量も拡大している[28]。その一方でアメリカと日本は、モモ消費量の減少が顕著となっている[28]

日本では主に山梨県福島県長野県など降水量の少ない盆地で栽培される。日本最北端の生産地は北海道札幌市であり、出荷数は極僅かだが南区の農園で栽培される。日本ではモモの栽培面積と収穫量が緩やかに減少する傾向にある[28]

収穫量

都道府県別収穫量(2013年[50]

全国収穫量 124,700t
  1. 山梨県 39,100t (31.36%)
  2. 福島県 29,300t (23.50%)
  3. 長野県 15,400t (12.40%)
  4. 和歌山県 9,590t (7.69%)
  5. 山形県 8,080t (6.48%)

日本の主な産地

  • 青森県
    • 南部町
  • 岩手県
    • 軽米町、紫波町
  • 秋田県
    • 鹿角市
  • 山形県 - 収穫量全国5位。東根と天童が主産地。夏場の昼夜の温度差により糖度の高い桃ができる。「川中島白桃」「ゆうぞら」などが主要品種となっている。[51]
    • 東根市天童市、寒河江市、山形市、河北町、村山市、中山町など
  • 福島県 - 収穫量全国2位。福島盆地は全国有数の大産地となっている。「あかつき」は県が特に注力している品種で、福島県だけが大玉化する技術を確立し、信夫三山暁まいりから命名した[52]。そのほか、「伊達の蜜桃」などのブランド品がある[53]。東南アジア方面へも輸出している。また、県内では無袋栽培が主流となっている[54]
  • 群馬県
    • 高崎市、前橋市
  • 新潟県 - 生産量全国7-10位。モモ生育期間における日照時間の長さを生かし、高品質の桃を生産する。「日の出」などが代表品種。[55]
  • 山梨県 - 収穫量全国1位。笛吹市は自治体で収穫量トップで、笛吹川対岸の扇状地は国内随一の桃栽培密集地となっており、大規模な一宮、御坂を初め、春日居、八代などの産地がある。一帯は「桃源郷」とも呼ばれ、開花シーズンにも多くの観光客で賑わう。[56]
  • 長野県 - 収穫量全国3位。「川中島」「白鳳」などのほか、「なつき」「なつっこ」など県独自の品種も多い。また、ネクタリンの生産は国内トップ。[57]
  • 岐阜県
    • 高山市
  • 静岡県
    • 静岡市
  • 愛知県 - 収穫量全国7-10位。尾張地域で盛んで、殆どは大消費地の名古屋市場か地元で消費される。[58]
  • 大阪府 - 岸和田市包近町一帯に産地が残る(包近の桃)[59]が、かつては2000トン以上を収穫する主要産地だった歴史がある。[60]
  • 和歌山県 - 収穫量全国4位で、西日本一の産地。紀の川市桃山町の登録商標化されたブランド桃「あら川の桃[61]が知られる。白鳳種、白桃種が主流で、「日川白鳳」は山梨県に次ぐ主産地となっている。
  • 岡山県 - 収穫量全国6位。かつては全国1位になったこともあったが、工業化などで産地が相対的に減少した。「清水白桃」の産地として知られる[62]
  • 広島県
    • 三原市
  • 山口県
    • 萩市
  • 徳島県
    • 上板町
  • 香川県 - 生産量7-10位。生育期の降雨が少なく、日照時間が長い気候条件を生かし、産地が成長した。県中部の飯山、麻地区に産地がある。ハウス栽培も行われ、九州地方への出荷が多い。[63][64]
  • 愛媛県
    • 松山市
  • 福岡県
  • 佐賀県
    • 多久市
  • 熊本県
    • 熊本市

注釈

  1. ^ APG は、被子植物の科と目の分類で目より上位の分類群は英語表記で国際植物命名規約にもとづく設定がされていない[1]
  2. ^ モモは冬の低温期に休眠する果樹であり、春に花芽が休眠打破して開花するためには一定量の低温に遭遇する必要があり、それを低温要求量という[41]

出典

  1. ^ 大場秀章(編著)『植物分類表』(初版第2刷)アボック社、2010年。ISBN 978-4-900358-61-4  p.327
  2. ^ 大場秀章(編著)『植物分類表』(初版第2刷)アボック社、2010年。ISBN 978-4-900358-61-4  p.XV
  3. ^ a b c d e An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG III - - 2009 - Botanical Journal of the Linnean Society - Wiley Online Library https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1111/j.1095-8339.2009.00996.x p108 2023年1月2日閲覧。
  4. ^ 大場秀章(編著)『植物分類表』(初版第2刷)アボック社、2010年。ISBN 978-4-900358-61-4  p.84
  5. ^ 大場秀章(編著)『植物分類表』(初版第2刷)アボック社、2010年。ISBN 978-4-900358-61-4  p.92
  6. ^ 大場秀章(編著)『植物分類表』(初版第2刷)アボック社、2010年。ISBN 978-4-900358-61-4  p.119
  7. ^ a b c 大場秀章(編著)『植物分類表』(初版第2刷)アボック社、2010年。ISBN 978-4-900358-61-4  p.140
  8. ^ 米倉浩司(著)『新維管束植物分類表』北隆館 2019年 p129
  9. ^ a b 米倉浩司(著)『新維管束植物分類表』北隆館 2019年 p131
  10. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Prunus persica (L.) Batsch モモ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2013年1月31日閲覧。
  11. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Amygdalus persica L. モモ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年1月31日閲覧。
  12. ^ a b c d e f g h i j k l m 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 211.
  13. ^ a b c d e f g h i j k 田中潔 2011, p. 28.
  14. ^ a b c d e f g h 貝津好孝 1995, p. 196.
  15. ^ a b 辻井達一 1995, p. 194.
  16. ^ a b c d e f g 辻井達一 1995, p. 195.
  17. ^ a b c d e 中央果実協会 2013, p. 35.
  18. ^ a b 岡山大学埋蔵文化財調査研究センター報No.55 https://www.okayama-u.ac.jp/user/arc/issue/leaf/leaf_55.pdf 2022年9月19日閲覧
  19. ^ 福田, 一志、古門, 雅高『伊木力遺跡Ⅱ』 134巻長崎県長崎市江戸町2-13〈長崎県文化財調査報告書〉、1997年3月31日(原著1997年3月31日)。doi:10.24484/sitereports.14759NCID BN15106099https://sitereports.nabunken.go.jp/14759 
  20. ^ 諫早市役所
  21. ^ a b c d 竹下大学 2022, p. 170.
  22. ^ 小林幹夫「恵泉果物の文化史(6):モモ」『園芸文化』第6巻、恵泉女学園大学、2009年7月、136-141頁。 
  23. ^ a b 大竹大学 2022, p. 170.
  24. ^ a b 中央果実協会 2013, p. 63.
  25. ^ a b c d 中央果実協会 2013, p. 62.
  26. ^ 中央果実協会 2013, p. 49.
  27. ^ a b c d 中央果実協会 2013, p. 3.
  28. ^ a b c d e f g h i j k l m 中央果実協会 2013, p. 2.
  29. ^ a b 中央果実協会 2013, p. 45.
  30. ^ a b 中央果実協会 2013, p. 48.
  31. ^ ぱれっと 2012年4月号 果樹のページ”. 岡山市農業協同組合. 2013年7月7日閲覧。
  32. ^ a b c 竹下大学 2022, p. 172.
  33. ^ a b c d e f g 竹下大学 2022, p. 174.
  34. ^ a b c 竹下大学 2022, p. 173.
  35. ^ 中央果実協会 2013, p. 47.
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  37. ^ 中央果実協会 2013, p. 57.
  38. ^ 中央果実協会 2013, p. 50.
  39. ^ 中央果実協会 2013, p. 55.
  40. ^ 中央果実協会 2013, p. 56.
  41. ^ 中央果実協会 2013, p. 37.
  42. ^ 中央果実協会 2013, p. 39.
  43. ^ 中央果実協会 2013, p. 36.
  44. ^ a b 中央果実協会 2013, p. 60.
  45. ^ Production of peaches and nectarines in 2018; Crops/Regions/World/Production Quantity (from pick lists)”. United Nations, Food and Agricultural Organization, Statistics Division (FAOSTAT) (2019年). 2020年4月11日閲覧。
  46. ^ 中央果実協会 2013, p. 23.
  47. ^ 中央果実協会 2013, p. 24.
  48. ^ 中央果実協会 2013, p. 25.
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  50. ^ 農林水産省 平成25年産もも、すももの結果樹面積、収穫量及び出荷量
  51. ^ おいしい山形 もも
  52. ^ 旬の食材百科 フルーツ 桃 あかつき
  53. ^ 福島県公式 福島県ブランド認証産品(もも)
  54. ^ 福島県公式 国際課 中通り21(福島市):桃の薫る夏
  55. ^ JA全農にいがた ニュース 新潟の桃が真っ盛り!
  56. ^ ふえふき旬感ネット 笛吹市の桃の花
  57. ^ JA長野県 いいJAん!信州 農畜産物情報 モモ
  58. ^ ネット農業あいち 特産品紹介 モモ
  59. ^ 近畿農政局 もも(大阪泉州地域)
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  61. ^ あら川の桃振興協議会
  62. ^ 岡山県公式サイト 農林水産部 農政企画課 白桃
  63. ^ JA香川県 らりるれ倶楽部 品目一覧 果物:もも
  64. ^ うどん県農産物紹介ポータルサイト LOVEさぬきさん かがわの県産品一覧 もも
  65. ^ 文部科学省 「日本食品標準成分表2015年版(七訂)
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  67. ^ a b c d 竹下大学 2022, p. 175.
  68. ^ 2023年も「桃」の直売が始まりました!”. 道の駅つる. 2023年8月27日閲覧。
  69. ^ a b c d e f 貝津好孝 1995, p. 197.
  70. ^ “体調不良は給食のリンゴ原因 美幌の小中学生、アレルギー反応”. 北海道新聞 (北海道新聞社). (2014年7月12日). オリジナルの2014年7月14日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140714025601/http://www.hokkaido-np.co.jp/news/donai/550707.html 
  71. ^ 21世紀研究会・編『食の世界地図』143頁 文藝春秋社






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