ベクレル ベクレルの概要

ベクレル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/21 07:02 UTC 版)

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ベクレル
becquerel
記号 Bq
国際単位系 (SI)
種類 組立単位
放射能の量
組立 s−1
定義 1 s当たりに崩壊する原子核の数
語源 アンリ・ベクレル
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たとえば、ある放射性物質について8秒間に原子が370個だけ崩壊するのであれば、その放射性物質の放射能は46.25 Bq[注釈 1]である。

概要

ベクレル (Bq) の倍量・分量単位
分量 倍量
記号 名称 記号 名称
10−1 Bq dBq デシベクレル 101 Bq daBq デカベクレル
10−2 Bq cBq センチベクレル 102 Bq hBq ヘクトベクレル
10−3 Bq mBq ミリベクレル 103 Bq kBq キロベクレル
10−6 Bq µBq マイクロベクレル 106 Bq MBq メガベクレル
10−9 Bq nBq ナノベクレル 109 Bq GBq ギガベクレル
10−12 Bq pBq ピコベクレル 1012 Bq TBq テラベクレル
10−15 Bq fBq フェムトベクレル 1015 Bq PBq ペタベクレル
10−18 Bq aBq アトベクレル 1018 Bq EBq エクサベクレル
10−21 Bq zBq ゼプトベクレル 1021 Bq ZBq ゼタベクレル
10−24 Bq yBq ヨクトベクレル 1024 Bq YBq ヨタベクレル
よく使われる単位を太字で示す

ベクレルという名称は、ウラン放射能を発見しノーベル物理学賞を受賞したフランスの物理学者アンリ・ベクレルに因む[3]。かつては壊変毎秒(かいへんまいびょう、dps; decays per second / disintegrations per second)と言った[注釈 2]が1975年の国際度量衡総会にて、この名称になった[4]

ベクレルは、SI基本単位により s−1 で組み立てられるSI組立単位である[注釈 3]

放射能事故等が発生するとベクレルは数値の桁が大きくなることが多いため、

  • kBq(キロベクレル, 103 Bq)
  • MBq(メガベクレル, 106 Bq)
  • GBq (ギガベクレル, 109 Bq)
  • TBq(テラベクレル, 1012 Bq)

などのSI接頭語を使用することが多い[注釈 4]。実験室レベルだとmBq(ミリベクレル、10−3 Bq)などの小さい単位も用いられる。

放射性物質1 Lあたりの放射能は Bq/L、放射性物質1 kgのあたりの放射能は Bq/kg で表される。

旧単位:キュリー(Ci)

かつては、1 gのラジウムの放射能を表すキュリー(記号:Ci)という単位が用いられていた[注釈 5]

  • 1 Ci = 3.7×1010 Bq = 37 GBq[5]
  • 1 Bq = 2.7×10−11 Ci[5]=27 pCi

放射能の量 と 放射線の線量

この図はアルファ線ベータ線ガンマ線中性子線と物質との相互作用を簡単に表したものである。アルファ線やベータ線は電荷を持っており電離作用が強い。アルファ線は電離作用は非常に強いが飛距離は小さく、短い距離で多くの分子を電離し破壊する。ベータ線は軽いため弾き飛ばされやすく、空気中など密度の低い物質内ではジグザグに動き、水中など密度の高い物質内ではアルファ線同様ほとんど飛ばずに近くの分子を電離する。電離させた電子も電離作用をもっていて、これをデルタ線と呼ぶ。ガンマ線はエネルギーによってエネルギーが低い順に光電効果コンプトン効果対生成光核反応を引き起こす。
放射線は物質と相互作用することでエネルギーが失われ速さが遅くなっていき、やがては停止する。この図はアルファ線、ベータ線、ガンマ線を遮蔽するには何が必要かをあらわしている。アルファ線は紙一枚で停止させられるが、ガンマ線は大量の水でも全て止めることができない[注釈 6][注釈 7]。一番下が中性子線であり、とくに水素の原子核である陽子のような軽い原子核と衝突することによって停止する。その過程で原子核を弾き飛ばしたり(これが電離作用をもつ)、ガンマ線を放出したりする。中性子自体も10分の半減期で陽子へと壊変する。人体の大半は水や有機化合物といった水素原子や軽元素を大量に含むため、中性子線の影響を受けやすいといえるのである。

一般に電離作用をもたらす放射線[注釈 8]は人間にとって有害である。人体への放射線の影響を考えるときのもっとも重要な量は、放射線と人体との相互作用[注釈 9]によって人体が吸収したエネルギーの量、吸収線量(単位:グレイGy)[注釈 10]である。

また、確率的影響の発生を制限することを目的とした放射線防護の領域においては、放射線の種類やエネルギー量の違いによる放射線の生物影響の違いを平準化し、さらに生体影響の違いについて平準化し和をとった実効線量(単位:シーベルトSv)が用いられる。

ベクレルなどの放射能の単位は、放射性物質から出ている放射線量を表す物理量であり、出てきた後の放射線が物質や生体に作用する程度はベクレルのみでは説明できない。

同ベクレルの放射能が存在しても、その人体への影響は線源の形状・遮蔽の評価、吸収線量や放射線の種類やそのエネルギーなどの条件によって異なる。

放射性物質が異なれば、放射能が同量であっても、放出する放射線の種類やエネルギーは異なる。そのため放射性物質の物理的状態、測定位置と放射線源の距離、遮蔽や減衰によって影響が変わってくる。 ベクレルからシーベルトへの換算は不可能ではなく[注釈 11]、さまざまな条件がわからない限り単純計算では難しいというわけである。


注釈

  1. ^ 370 ÷ 8 s = 46.25 s−1 = 46.25 Bq
  2. ^ 一分間あたりに放射性崩壊(壊変)する原子の個数は壊変毎分(decays per minute/ disintegrations per minute : dpm)と呼ばれる。1 Bq = 60 壊変毎分、1 壊変毎分 = 1/60 Bq = 約 0.0167 Bq となる。
  3. ^ 時間の逆数の次元(T−1)を持つが、放射能の計量以外には使用できない。同じ T−1 の次元を持つ単位にはヘルツ(Hz)や毎秒(s−1)がある。
  4. ^ 単位としてのベクレルをフルスペルで英字表記する場合は常に小文字で「becquerel」と書かねばならず、単位記号では「Bq」と頭文字だけを大文字にすると国際単位系のルールで規定されている。
  5. ^ ただし、その当初のキュリー Ci の定義においても 1 g のラジウムの放射能 Bq は変更する可能性のある旨が記載されていたと言われる。実際、現在のラジウム 1 g の放射能の正確な値は3.61×1010 Bqである。(Murray 1955, p. 23)
  6. ^ ガンマ線自体指数関数的減衰であるからどちらにせよゼロにはできない
  7. ^ 特に人体の影響を計算する時も人体の大半が水であると計算することからもわかるように、ガンマ線は人体も貫通する。
  8. ^ 放射性物質はその定義から放射能をもつため放射性崩壊をする。放射性崩壊をした原子核は放射線(ガンマ線、ベータ線、アルファ線など)を放出する。
  9. ^ このような表現であるのは、放射線が物体に対してエネルギーを与える現象は一つではないからである。右図参照。
  10. ^ 物質の種類に関係なく放射線の照射によって単位質量あたりに吸収されるエネルギー量 J/kg を吸収線量(absorbed dose)と呼び、単位としてJ/kgの代わりにグレイ(Gray)(単位記号:Gy) が用いられる。
  11. ^ たとえば、内部被曝の算定などではベクレルから線量を換算することもある。
  12. ^ 例えば1万ベクレルの(出入りのない)放射性物質があり、半減期が経過すれば5000ベクレルに減衰するというわけである。1ベクレルの場合半減期が経過すれば0.5ベクレルと減衰していく。指数関数的減衰のためゼロにはならないが、原子数は有限であり原子数が少なくなればポアソン過程で表現されるうえ、最終的にはゼロまたは化学分析や放射線測定が困難なレベルにまで減衰する。太陽系創世時の半減期の短い(とはいえ短いというのは、地球の年齢46億年に対してだが)、核種の放射能はこのような運命を辿ったとされている。
  13. ^ 例えば、高木仁三郎は大学教員時代、超微量の放射能測定器を開発していたが、核実験フォールアウトによる遮蔽材として使われるの汚染が問題となっていた。
  14. ^ これら測定技術は素粒子物理学超ウラン元素の実験的研究、宇宙線の観測等でとくに重要となる。粒子検出器も参照せよ。

出典

  1. ^ 1992年(平成4年)11月30日通商産業省令第80号「計量単位規則」
  2. ^ 1992年(平成4年)11月18日政令第357号「計量単位令」。SI組立単位の1つである。(原子力百科事典ATOMICA)
  3. ^ 滋賀県放射線技師会 放射線雑学[リンク切れ]
  4. ^ 産業技術総合研究所 飲用水の自然環境と放射能汚染[リンク切れ]
  5. ^ a b 原子力百科事典ATOMICA.
  6. ^ 国立天文台 編 『理科年表』(平成25年版)、2012年。  p.476
  7. ^ Murray 1955, p. 23.
  8. ^ CJK Compatibility”. Unicode inc. (2015年). 2016年2月21日閲覧。
  9. ^ The Unicode Standard, Version 8.0.0”. Mountain View, CA: The Unicode Consortium (2015年). 2016年2月21日閲覧。


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