ISDS条項に基づく請求の例
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/17 07:21 UTC 版)
「投資家対国家の紛争解決」の記事における「ISDS条項に基づく請求の例」の解説
投資協定により投資家に与えられる実体的保護として、内国民待遇、最恵国待遇、公正かつ衡平な待遇、収用の制限といったものがある。投資家の国家に対する請求は、これらの保護が受けられなかったことを根拠とするものである。 カナダの製薬会社アポテックス社は、NAFTA第11章に基づき、アメリカ合衆国裁判所の連邦法解釈の誤りによって、NAFTA第1102条(内国民待遇)及び第1105条(国際法に沿った待遇の最低基準)への違反が生じていると主張して争った。アポテックス社はまた、ファイザー社勝訴とした問題の合衆国裁判所判決は、抗うつ剤「ゾロフト」の後発医薬品へのアポテックス社の投資に対するNAFTA第1110条の収用に当たるものであって、明らかに不当であると主張した。アポテックス社は、国内における明らかに不当な法的判断は、実質的には正義の否定(denial of justice)と同視でき、国際法違反となり得るとの信条に依拠している。同社は、プラバコールの簡略化された新薬承認申請と、ブリストル・マイヤーズスクイブ社が有するとされている特許に関連した合衆国の規制条項をめぐり、同様の請求を行なっている。アポテックス社は、異なるジェネリック品をめぐり、2つの訴えを起こしている。もっとも、2011年8月20日時点で、仲裁裁判所はその管轄の所在に関して決定を下していない。アポテックス社は、管轄に関する問題が解決された場合に再度申立てを行う権利を侵害・放棄するものではないとの留保を付した上で、2番目に行った仲裁通知に係る申立てを取り下げた。合衆国政府は上記の請求に対し積極的に争うとしている。 合衆国国民であるメルヴィン・ハワードは、センチュリオン健康事業団及びハワード家の家族信託を代理して、カナダに対し、1億6000万米ドルを請求する旨の通知を行った。同氏は、リージェントヒルズ医療センターに係るプロジェクトがカナダの負うNAFTA第11章の義務に違反するやり方で進められていると主張している。主張の内容として、まず、カナダ政府は、合衆国の投資家に対してカナダ政府を通じた明確な案内を実施しておらず、外科医療サービスといった独占的な医療サービス市場における合衆国の競業者に対して与えられるべき最善の待遇を提供していないことから、カナダの市町村や州を通じて直接的にNAFTA第1102条の義務に違反しているとする。加えて、原告に対して与えられている待遇よりも良い待遇をカナダの投資家に与えていることに照らして、投資家や企業に対するカナダの最恵国待遇違反があるといえ、NAFTA第1103条に定められた義務に反するとしている。この請求は、カナダ保健法により、誰もが自由に利用できる保険適用の対象となる医療サービスを備えていることといった要件が各地方自治体において満たされるようカナダ連邦政府が保障するとされていることに対し、特に異議を呈している。これを受けて、カナダ連邦政府は、同法を通じて、NAFTA第1502条及び第1503条に沿った「国営企業」及び「政府による独占事業」の二つを置くこととなった。 合衆国の農薬製品メーカーであるケムチュラ社は、カナダ政府が、カナダ保健省(PMRA)を通じて、不当にリンデン含有製品(ノミハムシの発生を抑えるため、なたね、からし種子、あぶらなといった作物に使用したり、ハリガネムシ予防のため穀物に使用する)に係る農薬ビジネスを終了させたと訴えている。ケムチュラ社は、NAFTA第1105条(待遇の最低基準)及び第1110条(収用)違反を主張している。 2008年8月25日、米企業ダウ・アグロサイエンス社は、2,4-D成分を含む除草剤の販売と、一定目的の使用を禁じたケベック州の措置により生じたとされる損害について、NAFTA第11章に基づき、仲裁を求める旨の通知を行った。 たばこ警告表示の強化とプレーンパッケージ化(ブランドやロゴタイプの禁止)を盛り込んだ「たばこ包装規制法」を打ち出したオーストラリア政府を相手どって、米タバコ大手フィリップ・モリスのアジア法人、フィリップ・モリス・アジア(PMA)は、パッケージの知的財産権が侵害されたとしてオーストラリアと香港間の二国間投資協定中の条項に基づいて2011年に損害賠償を求めて提訴した。当該法案は、差別的なものではなく、重要な公衆衛生問題への対処を目的としたものであったとKyla TienhaaraとThomas Faunceは主張している。一方で、申立人は、当該規制による喫煙者減少効果の証明がなく、健康保護を隠れ蓑にした外国企業の排除、すなわち、2010年時点で市場シェア37.5%のブランド競争力を不当に削ぐものだとし、その結果として違法タバコが横行する危険性も指摘した。当該法律は貿易・知的財産に関する条約上の義務と矛盾しており、規制によって喫煙者が減少するどころか逆効果も懸念されることから、オーストラリア内外の諸企業からも反対の声が挙がっている。
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