自治体や政府の取組み
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/11 14:09 UTC 版)
「ヤングケアラー」の記事における「自治体や政府の取組み」の解説
ヤングケアラーの実態を把握しやすい立場にあるのは、ヤングケアラー本人が通っている学校の教師である。しかし、実際には多くの学校、教育委員会は、家庭のことは個人情報の問題もあり、本人から話がないと踏み込めないという方針が多い。当のヤングケアラーも、学校のような同質性の高い集団では、周囲に合わせるのが苦しくなってくること、友人たちに介護の話をしても、共感してもらうことは難しいことから、誰にも話せずに孤立を深めていく悪循環に陥ってしまう。こうしたことから実態把握が難しく、問題が表面化しにくい。立正大学教授の森田久美子は「学校がヤングケアラーを早く見つけ、家族の世話を託せる福祉サービスにつなぐことが必要だ」と指摘する。 埼玉県では2020年3月、全国で初めてとなるヤングケアラーを支援するための条例「ケアラー支援条例」が成立した。学校や教育委員会に、ヤングケアラーと思われる児童、生徒の生活状況、支援の必要性の確認を義務づけ、相談に応じたり、支援機関に取り次いだりするものとしている。具体的には、教育機関等による支援体制の構築(高校や中学校への出張授業)、地域における支援体制の構築(オンラインサロンの開催など)が挙げられる。社会全体で支えることでケアラーの孤立を防ぐ仕組みづくりを目指すもので、ヤングケアラーの教育機会の確保も含まれている。2021年3月には、埼玉県ケアラー支援計画が策定・公表された。計画で取り上げられた主な課題は(1)社会的認知度の向上(2)情報提供と相談体制の整備(3)孤立の防止(4)支援を担う関係機関等の人材の育成(5)ヤングケアラーの支援体制の構築、である。そして基本目標は、(1)ケアラーを支えるための構築(2)行政におけるケアラー支援体制の構築(3)地域におけるケアラー支援体制の構築(4)ケアラーを支える人々の育成(5)ヤングケアラー支援体制の構築・強化である。 北海道栗山町では、2010年(平成22年)に日本ケアラー連盟から全国5地区(東京都杉並区、新潟県南魚沼市、静岡県静岡市、京都府京都市、北海道栗山町)におけるケアラー実態調査の協力依頼を栗山町社会福祉協議会(以下社会福祉協議会)が受けたことがきっかけに、2012年にケアラー手帳が作成された。ケアラー手帳は、ケアラーと地域をつなぐツールとして活用され、以下のことを記載している。(1)ケアラーの定義と、その精神的サポート(2)体験談。事例集(3)自己分析(4)介護技術・福祉用具の紹介(5)相談窓口・サービスの事業所紹介(6)困ったときの対応方法(相談先のピックアップ)(7)災害と地域ネットワーク(8)ケアラーズカフェ「サンタの笑顔(ほほえみ)」の紹介。さらに栗山町では、2021年(令和3年)4月1日より「ケアラー支援条例」を施行。 三重県名張市では、2021年(令和3年)5月19日より「ケアラー支援の推進に関する条例」を施行。岡山県総社市では、2021年(令和3年)9月9日より「ケアラー支援の推進に関する条例」施行。茨城県では、2021年(令和3年)12月14日より「ケアラー・ヤングケアラーを支援し、共に生きやすい社会を実現するための条例」施行。岡山県備前市では、2021年(令和3年)12月24日「ケアラー支援の推進に関する条例」施行。 福岡県福岡市では、2021年(令和3年)11月15日、ヤングケアラー専用相談窓口を開設。市によると、九州の自治体によるヤングケアラーを対象にした専門相談窓口は初めてとみられる。 その他、兵庫県で、ケアラー支援に関する検討委員会が行われたり(令和3年9月7日第1回)、大阪市で、ヤングケアラー支援に向けたプロジェクトチーム会議(令和3年5月11日第1回)が開催されたりするなど、ヤングケアラーに対する自治体による支援の検討が続いている。 厚生労働省と文部科学省は、2020年(令和2年)12月から2021年(令和3年)1月にかけて初の実態調査を行い、その結果が、2021年(令和3年)4月12日に「ヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチーム」第2回会議で公表された。「世話をしている家族がいる」という生徒の割合は、中学生が5.7%でおよそ17人に1人、全日制の高校の生徒が4.1%でおよそ24人に1人であること。内容は、食事の準備や洗濯などの家事が多く、ほかにも、きょうだいを保育園に送迎したり、祖父母の介護や見守りをしたりと多岐にわたること。世話にかけている時間は、平日1日の平均で、中学生が4時間、高校生は3.8時間で、1日に7時間以上を世話に費やしている生徒も、1割を超えていたことが明らかにされた。調査結果を受けて政府は「政府として、しっかりと実態を踏まえ、ヤングケアラーの支援について検討していく考えだ」と述べた。厚生労働省の調査研究事業として実施された令和3年度ヤングケアラーの実態に関する調査研究では、「家族の世話をしている」と回答した小学6年生は6.5%(約15人に1人)に上り、「世話をしている家族がいない」人に比べて、健康状態が「よくない・あまりよくない」、遅刻や早退を「たまにする・よくする」と回答する割合が2倍前後高くなっており、健康状態や学校生活への影響が懸念される。 |-|レベル 5|「支援が必要だという認識が広がりつつある」|ベルギー、アイルランド、イタリア、サハラ砂漠以南のアフリカ、スイス、オランダ、アメリカ|-|レベル 6|「支援が必要だという認識が起きつつある」|ギリシャ、フィンランド、アラブ首長国連邦、フランス|-|レベル 7|「支援の動きなし」|その他の国|}上記の表は世界のヤングケアラー支援状況を、支援レベルに応じて段階的に記したものである(2016年(平成28年)掲載)。表を見る限り、最上位の支援レベルであるレベル1「持続的な支援が講じられている」に該当する国は未だに存在しない。 レベル2「先進的な支援が講じられている」に該当するイギリスは、ヤングケアラー支援の先進国と言われる。70万人ものヤングケアラーが存在するイギリスでは、50年以上も前からケアラー運動が行われており、その活動の一つとして1995年(平成8年)に制定された「ケアラー法」がある。ケアラー法では、介護者の権利の擁護や強化を謳い、それに基づいて様々なサービスが整備されている。また、ケアラー法はヤングケアラーに対するサポート・サービスを現代社会に対応すべく、制定後も何度も改定を行っている(最新の改定は2014年(平成26年)の「ケア法」)。具体的な取り組みとしては、学校の放課後にケアラーの子たちを集めて話し合いの場を作り、ケアラーの子たちの心の支えになる取り組みが行われている。 次にヤングケアラーに対する支援状況が整いつつあると言われているのは、支援レベル3「中程度の支援が講じられている」に該当するオーストラリアやノルウェー、スウェーデンである。その中、オーストラリアでは27万2千人のヤングケアラーが存在すると推定されており、各州に支援団体が組織されている。また、オーストラリア連邦政府に制定される「高齢者ケア法」(1997年制定:高齢者ケア構造改革)でも、ヤングケアラー支援が「施設ケア」「住宅ケア」と共に介護をめぐる重要な柱として位置付けられた。2010年(平成22年)には介護者の存在と権利が明文化とした「ケアラー承認法」(ケアラー貢献認識法)が、全ての州にて法律として制定された。 各国でヤングケアラーの定義は異なり、イギリスでは18歳未満、オーストラリアでは25歳までが対象となっている。
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