儀式の内容
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/04/25 06:31 UTC 版)
発汗の儀式を受ける人間は、衣服を脱いで、装飾品とともに祭壇に供え、腰にタオル一枚巻いただけの全裸になる。そして、太陽の動きに倣い、呪い師を先頭に、右回りに小屋を回って中へ入り、入口の右側に座っていく。中は真っ暗で、左側には、儀式の介添え人が座る。呪い師は東側に座る。 そのあと、表にいる「ファイヤーマン」(火の番人)が、鹿の角か専用のフォークに真っ赤に焼けた石を乗せ、小屋の中へと渡される。呪い師が「聖なるパイプ」の火皿で石に触れ、「石の指示通り」に炉の中に置く石の位置を決めていく。石の数はだいたい16個ほど積まれる。 小屋の中が神聖な雰囲気に満ちてきたら、全員で「ワカン・タンカ、ツンカシラ、ピラマエ」と祈りの言葉を捧げる。そして熱した石にセージや杉の葉が振りかけられ、小屋の中は芳しい香の煙で一杯になる。参加者はまず、この煙を手で引き寄せて吸い、身体に擦り込む。続いて、呪い師によってスイートグラスの葉で水が振りかけられ、室内に蒸気が充満する。呪い師が祈りの歌を歌い、香り高いこの蒸気を全身に擦り込みながら、人々は大精霊、祖父母の霊に祈りを捧げ、個人的な悩みごとの解決、部族や世界の平和を願う。 しばらくこの高温の蒸気のなかで過ごすと、呪い師が4回、入口の毛布を開けて外の空気を入れてくれる。これは「スウェット・ロッジの4つの扉」と呼ばれる息継ぎ、休息である。儀式は都合「第4ラウンド」まで続けられる。途中で熱さに耐えきれなくなった場合、「ミタクエ・オヤシン」と唱えると、外の冷たい空気を入れてもらえる。外に這い出して涼をとることもできるが、やはり全ラウンドを通してこなすことが求められる。 この4ラウンドの間に、参加者はそれぞれ「大いなる神秘」に対して、自分がこれまで経験し学んだことについて感謝し、自分と自分以外のものについて頼みごとをし、あらゆる我欲を差し出し、啓示を求める。最後に時計回りに聖なるパイプが回されてきて、めいめいがこれを手に祈りの言葉を唱える。こうして儀式は終わりを告げる。儀式を終えたものは、心身ともに爽快な気分となり、なにかしらの啓示を受けることになる。 「発汗小屋」のなかで、真っ赤に熱せられた石から立ち上る蒸気は非常に高温で、初心者は水膨れが出来るほどで、手で口と鼻を覆わなければ呼吸もままならない。16世紀のスペイン人修道士は、アステカ族のこの高温を伴う儀式について、「スペイン人がこの風呂に入れば間違いなくショックで失神するだろう」と書き残している。シチャング・スー族のレオナルド・クロウドッグのような熟練した呪い師は、かなりの高温のイニカガーピを毎日のように行う。 クロウドッグはニュージャージー州で、ニューヨークに住むインディアンたちのためにこの儀式を行ったことがあるが、石に水をかけ、小屋が蒸気で一杯になった途端に、都会育ちのインディアンたちは口々にわめきながら小屋を引き裂いて一人残らず外へ逃げ出して行ってしまった。本来、このような行為は儀式を侮辱するものだが、レオナルドは苦笑するしかなかったという。また、黒人活動家がクロウドッグ家でこの儀式に参加したことがあるが、この際の儀式は獄中のインディアン同胞に祈りを捧げる「休憩なし」の苛烈なものだった。この黒人は「死んでしまう!」と叫んだが、レオナルドの父ヘンリーはこう答えている。 「発汗の小屋の中で、しかも儀式中に死ぬなんてこの世で一番素晴らしいことだよ。人が願いうる最高の終わりかただ。」 「スウェット・ロッジ」は本来、男女混合で全裸で行う儀式である。レイムディアーは、「下着を着けて小屋に入るような真似は、それこそ白人流のよこしまな行いそのものだ」としており、タオルを腰に巻くのも「もってのほか」と語っている。小屋の中は真っ暗なので、裸であっても本来とくに問題もないのである。しかし、このスー族式の「スウェット・ロッジ」においても、近年は全裸ではなくタオルが腰に巻かれ、男女で別々に行われていて、レイムディアーの時代と、作法に違いが見られるようになっている。
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