ターミナルデパートの誕生
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 15:45 UTC 版)
「日本の百貨店」の記事における「ターミナルデパートの誕生」の解説
1920年11月1日に白木屋が阪神急行電鉄(現・阪急電鉄)梅田駅構内の旧阪急ビルディング(5階建て)の1階に出張売店として出店し、世界初のターミナルデパートとなった。1926年9月16日に大阪電気軌道(大軌、のちの近畿日本鉄道〈近鉄〉)上本町駅構内の大軌ビルディングの地下1階から地上3階に「三笠屋百貨店」の開設で本格的な売場面積を持つターミナルデパートが誕生した。梅田駅の白木屋は1階のみの小規模な店舗だったため、売り場も広く品揃えも幅広かった三笠屋百貨店を最初のターミナルデパートとする見方もある。 その後、1925年に白木屋との賃貸契約満了に伴う閉鎖後に開店した阪急電鉄直営の阪急マーケットが、1929年4月に阪急百貨店となった。これは阪急電鉄の創業者の小林一三による考えで、鉄道会社自らが都心への移動需要を創出することで、鉄道事業との相乗効果を狙った。これにより呉服店系と並び日本の百貨店の2大潮流のひとつとなる電鉄系百貨店が誕生した。1935年に大阪電気軌道が三笠屋百貨店との契約を解除して大軌百貨店(現・近鉄百貨店上本町店)を開業して直営化し、これに続いた。 こうしたターミナルデパートの成功を受けて、鉄道事業者(特に大都市圏の大手私鉄)が起点となる都市部のターミナル駅に系列百貨店を設立し、あるいは既存百貨店と提携して、店舗を併設する動きが急速に進んだ。前者は1934年11月1日に渋谷駅東口に出店した東横百貨店(のちの東急百貨店東横店、2020年3月末で閉店)や1937年11月に阿倍野橋駅(現・大阪阿部野橋駅、あべのハルカス)に出店した大鉄百貨店(現・近鉄百貨店あべのハルカス近鉄本店)などであり、後者は東京初のターミナルデパートである京王新宿ビルディング(旧・新宿追分駅ビル)、1932年7月15日の南海・髙島屋(難波駅ビル、南海ビルディング)、1931年11月1日の東武・松屋(東武浅草駅ビル、現:浅草エキミセ)などが代表的なものである。 阪急百貨店は最上階に豪華な食堂を置き、ライスカレーやランチが名物になるなど、のちに各地の百貨店に広まった「デパート大食堂」のはしりとなり、浅草駅の松屋屋上にオープンした屋上遊園地もその後各地に広がるなど、電鉄系デパートが生んだ新たなサービスは、呉服店系の百貨店にも取り入れられることになった。 新宿駅東口(新宿三丁目)に位置している京王新宿ビルディングには、1927年に2階から5階まで 「武蔵屋呉服店」が入居。1929年以降は「新宿松屋」(銀座松屋とは無関係)を経て「東横百貨店新宿店」などと変遷した。1945年の京王線の国鉄新宿駅西側への乗り入れにより、駅ビルとしての役目を終えて京王帝都電鉄(現・京王電鉄)本社となった。現在は建て替えにより京王新宿追分ビルとなり、「新宿マルイ アネックス」が入居する。なお、京王電鉄自体が京王百貨店として百貨店経営に乗り出すのは戦後の1964年になってからである。 大手私鉄による百貨店事業への進出は1960年代まで続けられ、大手私鉄のほとんどは系列に百貨店を持つようになった。一方、京阪百貨店は1983年、京急百貨店は1996年開業と他社に比べて遅れることとなり、これら2社は自社の沿線郊外に店舗展開を行い、都心の大型店を持たない。この当時大手私鉄とされていた14社のうち、南海電気鉄道(南海電鉄)と西日本鉄道(西鉄)以外のすべてが私鉄名を冠する系列百貨店を有していた。南海電鉄は髙島屋との提携関係である。西鉄は西鉄ストアでスーパーマーケット事業を行っているが、西鉄福岡(天神)駅の駅ビル(現・ソラリアターミナルビル)にはテナントとして岩田屋三越の福岡三越が入居しており、西鉄百貨店は存在しない(かつては岩田屋がターミナルデパートとして駅と直結していた)。ただし北九州市で百貨店を経営する井筒屋はかつては西鉄グループであり、現在でも9.2%の株式を保有する筆頭株主である。 現在はこれらに加え、西武鉄道(1971年に西武鉄道グループと西武流通グループ〈のちのセゾングループ〉が分裂、その後セゾングループは解体)、相模鉄道(1990年に大手私鉄へ昇格)、東京メトロ(2004年に帝都高速度交通営団が民営化)も傘下に百貨店を有していない。相鉄ホールディングスは高島屋の株式を1.37%保有しており、横浜駅ビル「相鉄ジョイナス」の核店舗として横浜高島屋が出店するなど関係が深い(相鉄が展開するスーパーマーケットの「そうてつローゼン」のローゼンとは髙島屋のシンボルであるバラのドイツ語読みに由来している)。 1987年に日本国有鉄道(国鉄)から分割民営化したJR各社も自社で独自に百貨店の経営には乗り出すまでは至らないものの、大手私鉄と同様に大手百貨店との提携や自社のターミナル駅の再開発に伴い、核テナントとして誘致している(JR博多シティの博多阪急やJRタワーの大丸札幌店など)。JR西日本は伊勢丹と提携してジェイアール西日本伊勢丹を、JR東日本は阪急百貨店と提携してグランデュオ(現在のグランデュオ立川)を、JR東海は髙島屋と提携してジェイアール名古屋タカシマヤをそれぞれ設立している。特に、ジェイアール名古屋タカシマヤは名古屋駅直結(JRセントラルタワーズ)という好立地から地元の松坂屋を抜いて地域1番店となり、店舗別売上高においては国内4位となるまで成長した。
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