X-15 (航空機)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/17 07:13 UTC 版)
歴史
X-15の歴史は、第二次世界大戦直後のドイツから始まる。ドイツの敗北と占領によってヴェルナー・フォン・ブラウン博士を含む多数の航空宇宙技術者や資料機材類を獲得したアメリカは、その中にあったSilbervogel構想に着目した。ロケットエンジンによって一気に上昇加速した後、大気圏上層をスキップするように飛行し、地球の反対側まで到達して爆撃するという「対蹠地」爆撃機というもので、大陸間弾道ミサイルの開発がまだあまり進んでいなかった時代、その存在は非常に脅威になるものであった。
また同時に、有人宇宙飛行をソビエトと競争するという課題もあり、アメリカはそれに向けて動き出した。
1954年、米空軍、米海軍、NACA(NASAの前身)の三者により、マッハ4以上の極超音速における飛行研究計画が決定した。同年末、各メーカーに要求仕様が提示され、1955年末にベル・エアクラフト社、ダグラス社、ノースアメリカン社、リパブリック社の4社の設計案からノースアメリカンのものが選定された。1956年には、リアクション・モーターズ社のXLR99ロケットエンジンが採用された。だがロケットモーターが間に合わなかったため、初飛行時にはXLR11エンジンを搭載した。1号機の機体は1958年10月15日に完成している(なお、XLR99搭載時にはリアクション・モーターズ社はサイオコール・ケミカル社に合併吸収されている)。[2]
1959年9月17日、専用の空中母機であるNB-52AおよびNB-52Bから滑空テストを行い、その後、XLR11エンジンを使用して初の動力飛行に成功した。1960年3月28日には最初のXLR99がエドワーズ基地に届いていた。それはX-15・3号機に搭載され、6月8日に地上においてのエンジンテストが行われた。だが、XLR99の無水アンモニアタンクの圧力調整弁が故障、爆発を起こした。死傷者は出なかったが機体・エンジンはともに大破。3号機はメーカーのノースアメリカン社で修理されることとなった。1960年には、XLR99を搭載したX-15・2号機が動力飛行を行った。1960年8月4日には1号機がマッハ3.31を達成。8月12日には同じ1号機が飛行高度41,605mを達成した。
X-15の着陸には機体の制限が多く、神経質にならざるを得なかった。機体サイズが小さく、前輪も後部スキッドも短かった。そのために着陸時にX-15は、下部垂直安定板の一部を切り離して着陸することになった。投棄した下部垂直安定板はパラシュートにより回収された。
1962年11月9日に行われた通算フライト74回目に、2号機が着陸事故を起こした。2号機は修理に伴って改造、胴体や降着装置の延長がなされ、ドロップタンクが搭載可能なX-15A-2となった。
1963年8月22日に行われた91回目のフライトで、ジョセフ・A・ウォーカーの操る機体が高度107,960mに到達した。これがX-15計画中の最高到達高度となった。
1967年10月3日に行われた188回目のフライトで、ウィリアム・J・ナイトの操縦するX-15A-2が最高速度7,274km/h(マッハ6.7)を記録した。なおこの時、将来のスクラムジェット実用化のために実寸大モデルを下部垂直尾翼に装備し、さらに新たに開発された耐熱塗料(蒸発して機体を熱から保護するアブレーション冷却)を塗布した。しかし、この塗料をもってしても機体を守りぬくことはできず、スクラムジェットのモデルは無残に焼失していた。機体は重度の損傷により、引退した。なお、X-15A-2の限界速度はマッハ8と設定されていたが、試験飛行時にその速度を出すことはなかった。
X-15はこれらの記録到達のほかにも、微小隕石の採取や赤外線ラジオメーターを用いた高度21,000m~30,500mからの地球放射の計測などといった学術的な任務にも従事していた。
1967年11月15日に行われた191回目のフライトでは、3号機が高度19,000m付近で空中分解を起こし、パイロットのマイケル・J・アダムスが死亡した。また、機体は完全に破壊された。
1968年10月24日、1号機による199回目のフライトをもってX-15の飛行試験は終了した[2]。現在では1号機がスミソニアン航空宇宙博物館、2号機が国立アメリカ空軍博物館にそれぞれ展示されている。
X-15プログラムでは、3機のX-15と2機のNB-52の、5機の航空機が使用された。
- X-15-1 – 56-6670、81 フリーフライト
- X-15-2 (後のX-15A-2) – 56-6671、31 X-15-2としてのフリーフライト、22 X-15A-2としてのフリーフライト、計53
- X-15-3 – 56-6672、65 フリーフライト、通算フライト191回目の墜落時を含む
- NB-52A – 52-003、ハイアンドマイティワンの愛称 (1969年10月に引退)
- NB-52B – 52-008、チャレンジャー、後にボール8と呼ばれる (2004年11月に引退)
このプログラムでは、チェイス機としてF-100、F-104、F5D、輸送機としてC-130、C-47がサポートしていた[3]。
X-15Bの計画中止
1958年以前、アメリカ空軍(USAF)とNACAの関係者は、X-15プログラムを拡張する軌道X-15スペースプレーンについて協議していた。SM-64ナバホミサイルの上から宇宙空間にX-15Bを打ち上げる計画であったが、NACAが解体されNASAになり、代わりにマーキュリー計画を採用したためキャンセルされた[4][5][6]。
- ^ (日本語) The Fastest X-Plane - Mach 7 North American X-15 2022年4月29日閲覧。
- ^ a b 「Xプレーンズ」,世界の傑作機No67,文林堂 ISBN 978-4893190642
- ^ Jenkins, Dennis R. (2010). X-15: Extending The Frontiers of Flight. NASA. ISBN 978-1-4700-2585-4
- ^ “X-15B”. astronautix.com. 2021年7月1日閲覧。
- ^ “X-15B: The Spaceplane That Almost Was”. ARC. 2021年7月1日閲覧。
- ^ “X-15B - an orbital X-15”. SECRET PROJECTS. 2021年7月1日閲覧。
- ^ “LOX/HYDROCARBON - Auxiliary Propulsion SYSTEM STUDY”. NASA. p. 11. 2022年2月9日閲覧。
- ^ a b c d e Raveling, Paul. “X-15 Pilot Report, Part 1: X-15 General Description & Walkaround”. SierraFoot.org. 2011年9月30日閲覧。
- ^ a b c d e Jarvis, Calvin R.; Lock, Wilton P. (1965). Operational Experience With the X-15 Reaction Control and Reaction Augmentation Systems. NASA. OCLC 703664750. TN D-2864
- ^ a b c d e f g h i Raveling, Paul. “X-15 Pilot Report, Part 2: X-15 Cockpit Check”. SierraFoot.org. 2011年10月1日閲覧。
- ^ a b “Forty Years ago in the X-15 Flight Test Program, November 1961–March 1962”. Goleta Air & Space Museum. 2011年10月3日閲覧。
- ^ Gale, Floyd C. (October 1961). “Galaxy's 5-Star Shelf”. Galaxy Magazine 20 (1): 174 .
- ^ Davies 2003, p. 8.28.
- ^ a b c Stillwell, Wendell H. (1965). X-15 Research Results: With a Selected Bibliography. NASA. OCLC 44275779. NASA SP-60
- ^ USAF Museum Guidebook 1975, p. 73.
- ^ Jenkins (2000), Appendix 8, p. 117.
- ^ Johnsen, Frederick A. (2005年8月23日). “X-15 Pioneers Honored as Astronauts”. NASA. 2005年8月23日閲覧。
- ^ Pearlman, Robert Z. (2005年8月23日). “Former NASA X-15 Pilots Awarded Astronaut Wings”. space.com. 2005年8月23日閲覧。
- ^ Cassutt, Michael (November 1998) (英語). Who's Who in Space (Subsequent ed.). New York: Macmillan Library Reference. ISBN 9780028649658
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