雑菌 雑菌の概要

雑菌

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/18 04:22 UTC 版)

概要

雑菌というのは、特定の微生物を話の対象にしたときに、それ以外の菌類、細菌類、あるいはそれに類する微生物を総称して言う呼称である。特に、対象の微生物を扱う場合に邪魔になるものを指して言うことが多い。したがって、何を扱うかによってその対象は異なる。ある細菌を扱う細菌学者にとっては、それ以外の細菌と菌類はすべて雑菌であるし、発酵を扱う業者にとっては、発酵の過程で余計な反応を起こすような微生物がそれに当たる。病理学者にとっては、目指す病気の病原体を探すときに、その周りにいるそれ以外の細菌が雑菌である。一般の人にとっては、事実はともかく、微生物などいてほしくないと感じられれば、あらゆる微生物を雑菌と呼ぶかも知れない。この場合、黴菌という言葉の方が通りがよい。

雑菌という呼称は、生物学上の正確な分類には拠らず、様々な生物種を含む大雑把な区分であるが、対象となる環境によって、所定の生物種が含まれる割合が高くなる一方、海底の熱水鉱床動物内といったような特殊だったり通常は固有の菌類のみが存在するような環境にある菌はこのようには呼ばれない。

なおこの「」であるが、雑草の「」と同じで、雑菌という菌は存在しないため非常に曖昧な観念といえる。

雑菌の起こす問題とその回避

微生物を扱う場合、特に培養という手順を必要とする場合が多い(発酵産業における発酵の過程もある意味では微生物の培養である)。つまり、対象とする微生物が繁殖している状態が必要なのである。このとき、同時に余計な微生物も繁殖することは、管理されていない条件下ではごく当たり前に起きる。そして、微生物は個々を見分けて扱うことが難しく、余計な微生物の繁殖は、目的とする操作にとって、ほとんどの場合に著しい邪魔になる。したがって、雑菌に対する対処は、微生物を扱う場合の、根本的な問題になる。

細菌や菌類、酵母などを培養することによる研究は、ロベルト・コッホルイ・パスツールの時代に遡る。パスツールによって細菌は自然発生するのではなく、環境に細菌や菌類の胞子が普遍的に存在している事が証明され、今日ではそれら普遍的な細菌の活動を抑えたり、または取り除く事で細菌による害を阻止する事が可能になっている。

人間の生活には微生物の存在が知られるずっと以前の紀元前より、発酵食品・更には藍染めといった染料の生産などにおいて、人為的に特定の酵母などによって有機物を加工する発酵産業が存在した。古い時代のこれら製造業において、環境中に存在する予定外の微生物の繁殖は極めて具合が悪い。このため、目的の微生物による活動を行わせる事は、同産業の至上目的であり、他方環境中にある「雑多諸々の細菌や菌類」=雑菌の繁殖を予防する技術が研究された。

一方、環境に普遍的に存在する細菌や菌類が、実験研究産業医療健康の各分野で害さないようにするため、微生物学や衛生観念・衛生学といった物が発展した。その過程においても「雑多諸々の菌類・細菌」として、雑菌という呼称が普及したと思われる。

生物研究と雑菌

微生物や生物組織を培養して研究する実験の過程で、研究対象以外の微生物=雑菌が紛れ込むことは、その実験が失敗する致命的な原因の一つである。このため研究者は、使用する器具や試薬を滅菌したり無菌操作を行うなど、雑菌が混入しないよう細心の注意を払う。詳しくはコンタミネーション(通称コンタミ)の項を参照。

実験の過程に雑菌として出現する微生物の種類はある程度の範囲に絞られる。これらに共通する特徴としては、人家周辺に多く出現すること、多くの胞子を形成すること、空中を漂って侵入すること(=空中落下菌、空中浮遊菌)、成長速度が早いこと、あまり特殊な栄養要求性を持たない(好き嫌いが少ない)ことなどが挙げられ、菌類細菌の中で、これらの条件に合致するものがしばしば雑菌混入の原因になる。

菌類の場合、よく出現するものにアオカビコウジカビクラドスポリウムなどがある。いずれも、人家の食べ物などにも出現する機会が多い、雑草的な菌類である。また、特にアオカビは、ごく小さなコロニーでも胞子形成を始めるので、除去が困難である。他に、クモノスカビアカパンカビは、出現頻度は低いものの、侵入すると一晩でシャーレを覆いつくす成長速度を持ち、恐れられる。

細菌では、しばしば枯草菌放線菌などの空中落下菌がコンタミの原因になる。特に枯草菌に代表されるバシラス属の細菌は、耐久性の高い芽胞を作り出すため、無菌操作が不適切であると出現しやすい。緑膿菌などの水中雑菌、ヒトの表皮に付着しているブドウ球菌などの常在細菌もまた、滅菌や無菌操作が不適切なときには器具や手指を介した汚染の原因になりやすい。また動物細胞を培養する実験では、マイコプラズマの混入が問題になることも多い。マイコプラズマは極めて小さい不定形の細菌であるためろ過滅菌によって除くことが出来ず、また有効な抗生物質が限られることから、対処して除染することは難しい。








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