選択公理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/23 09:30 UTC 版)
応用
選択公理、もしくはそれと同値な命題を適用することで、以下を示すことができる。
- ハーン–バナッハの定理
- ハウスドルフのパラドックス
- バナッハ=タルスキーの定理
- 可算集合の可算個の和は可算である
- 任意の無限集合は可算集合を含む
- ルベーグ非可測集合の存在
- 任意のフィルターは極大フィルターに拡大できる
- 全ての体には代数的閉包が存在する。
歴史
集合論の創始者ゲオルク・カントールは、選択公理を自明なものとみなしていた。 実際、有限個の集合からなる集合族であれば、そのそれぞれの集合の中から順に1つずつ元を選び出し、それらを併せて集合とすればよいのであるから、このような操作ができることは自明である。
しかし、ツェルメロによる整列可能定理の証明に反論する過程で、エミーユ・ボレル、ルネ=ルイ・ベール、アンリ・ルベーグ、バートランド・ラッセルなどが選択公理の存在に気付き、新たな公理であることが認識されるようになった。確かに、無限個の集合からなる集合族の場合、上のような操作を想定しても「順に選び出す」操作は有限回で終了することはないのだから、このような操作を行えるかどうかは必ずしも明らかではない。
選択公理は、それ自身もまたその否定もほかの公理からは証明できないものであること、すなわち独立であることが示された(クルト・ゲーデル、ポール・コーエン)が、これは公理的集合論における大きな成果であろう。なお、ZF(ツェルメロ=フレンケルの公理系)に一般連続体仮説を加えると選択公理を証明できる[注釈 1]。従って、一般連続体仮説と選択公理は何れもZFとは独立だが、前者の方がより強い主張であると言える。ZFに選択公理を加えた公理系をZFCと呼ぶ。
バナッハ=タルスキーのパラドックスと選択公理
選択公理を仮定することによって導かれる、一見、奇怪で非直観的な結果の中でも、バナッハ=タルスキーのパラドックスは有名なもので、「有限個の部分に分割し、それらを回転・平行移動操作のみを使ってうまく組み替えることで、元の球と同じ半径の球を2つ作ることができる」と、初歩的な概念のみで表現することができる。ただ、ここでの「有限個の分割」は、通常イメージされる単純な分割(包丁でいくつかのパーツに切り分けるようなもの)ではなく、非常に特殊な分割であるため、「"奇怪な分割"をした結果、奇怪な結果(2つに増える)が生じた」にすぎないという側面もある。
なお、ステファン・バナフ(バナッハ)とタルスキは論文の冒頭で、「証明のなかに、この公理(選択公理)が果たす役割は、注目するに値する」と述べているだけであり、バナッハ=タルスキーのパラドックスによって選択公理が正しくないと明確に主張したわけではない。
注釈
- ^ 1926年にアドルフ・リンデンバウムとアルフレト・タルスキが示したが、証明は散逸した。同内容を1943年にヴァツワフ・シェルピニスキが再発見し1947年に出版した。
出典
- ^ Zermelo, Ernst (1904). "Beweis, dass jede Menge wohlgeordnet werden kann". Mathematische Annalen 59: 514-16.
- ^ 田中(1987)、36頁。
- ^ Jech, Thomas J. (2008-07-24), The Axiom of Choice, Dover Books on Mathematics (Paperback ed.), United States: Dover Publications Inc., ISBN 978-0-486-46624-8
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