質量 概説

質量

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/17 01:33 UTC 版)

概説

質量という概念は、動力学力学の発達と伴って変化している[1]

物理学的にはかつて、動かし難さを指す慣性質量 (inertial mass)[2]と、万有引力による重さの度合いを指す重力質量 (gravitational mass)[3]の二通りの定義が存在したが、現在の物理学では等価とされている(等価原理[注 1]

慣性質量と重力質量の等価性は、重力加速度を定めることで説明できる。物体に働く「重力は”重力質量”と重力加速度の積」であり、また、「重力と”慣性質量”の比」が重力加速度となる。

質量の発生原理としてヒッグス機構が有力視されているが完全には分かっていない。

質量は、日常的には重さとして捉えやすく混同されがちである。物体の重さとは、その物体が受ける「重力の大きさ」である。よって、重力場の異なる場所(例えば地球とで地表の重力加速度は異なる)では、同一質量の物体を用意したとしても、その重さは異なる。

以上は物体の固有な量としての質量についてであるが、金属などの結晶中を運動する電子など、特殊な状況において質量に相当するような量を考える場合があり、通常の質量と区別して有効質量 (effective mass) などと呼ばれる。

質量と重量との区別

計量の分野において、質量は長さ時間と共に極めて重要な「物象の状態の量」[4]物理量をいう計量用語)とされる。日本の計量法第2条第1号の72個の物象の状態の量の列挙では、質量は時間の次の第2番目に掲げられている[5]

しかし日常的には「重量」または「重さ」の語が伝統的に用いられてきており、計量分野や理科教育分野では、この重量(重さ)と質量の違いを峻別することが求められる[6]

重量の2つの意味

重量は質量を示す場合と周囲に及ぼす荷重を示す場合とがある、日常的には区別する必要のない場面も多い。

  1. 質量を意味する場合:この場合は、単に質量の語に置き換えることができる。「物象の状態の量」としては「質量」であり、そのSI単位は、キログラム(kg)である(他にグラムトンなどがある)。
  2. 周囲に及ぼす荷重を意味する場合:この場合の「物象の状態」は力であり、そのSI単位はニュートン(N)である他にkg重など。

法令中の用例

以上の2つの意味があることによって、次の例に見るように日本の法令上の扱いもまちまちである。食品表示基準のように一法令の中に「質量」と(質量の意の)「重量」が混在している場合もある。

  • 不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)に基づく「家庭電気製品製造業における表示に関する公正競争規約」は電化製品のカタログや取扱説明書の記載方法を規制しているが、テレビ・冷蔵庫などの諸元を表示する場合は、例えば「テレビジョン受信機本体の大略質量を「kg又はキログラム」で表示すること。」と規定しており、重量の語を全く用いていない[7]
  • 食品表示法に基づく食品表示基準では、その別表第9の炭水化物と糖質の測定方法では「質量」の語を用いている[8]。しかし、その他の約400箇所においては「重量」の語を用いている[9]。これらは「重量(g)」の語などが示すとおり、その意味は質量である。
  • 理科教育振興法施行令(昭和二十九年政令第三百十一号)は、質量の計量器(つまりのこと)を小中高校の理科教育のための設備として必要なものと指定している[10]

質量の概念

より正確な記述は後述することにして、「質量の概念」や「質量・重量(重さ)の違い」について概略を述べる。

バケツやコップに水を注ぐと、注いだ分だけバケツやコップの重さが増す。このことは、容器を変えても同様であり、水の量(体積)に応じて水の重さが変わることが分かる。また、同じ容器に水ではなく水銀などを入れると、同じ大きさの容器かつ同じ体積であるにもかかわらず、入れた物質によって「重さ」が異なることが分かる。このように、物の重さはその物の種類と量によって異なり、逆に同じ重さであっても異なる種類と量の物を用意することができる。このことから、様々な物体に共通する、物体の重さを支配する量が存在すると期待できる。後述するように、このような役割を果たす物体固有の量が、質量である。

物を支える際に感じる「重さ」以外にも、物を動かしたときにもその物体の「重さ」を感じることができる。台車に荷物を載せて運ぶ際、台車を動かし始めるときや動いている台車を止めるとき、たとえ同じ速さで台車が動いていたとしても(あるいは動いていなかったとしても)、台車に載せた積荷の量によって感じる手応えは異なる。このように、物体の動かし難さとしての「重さ」が存在し、それは物体の種類と量によって異なるため、先ほどの場合と同様に物体がある種の「質量」を持っていると考えられる。

物体を支える際に感じる「重さ」は、その物体を支えるものがなければ物体は落ちていってしまうので、物の落下する性質に関係する。物体が落下しようとする力を重力と呼び、これに関係する質量を重力質量と呼ぶ。重力質量の大きさは天秤を用いて測ることができる。同じ重力質量を持つ物体同士は重さも等しいので、天秤に載せると互いに釣り合う。基準となる物体を用意することで、基準に対するとして重力質量が定まる。

物体を動かす際に感じる「重さ」は、静止している物体は静止し続け、ある速さで運動する物体は同じ速さで運動し続けようとする性質、すなわち物体の慣性に関係する。これに関連する質量を慣性質量と呼ぶ。慣性質量は、たとえばハンマー投げのように物体を円運動させたときに感じる手応えによって知ることができる。慣性質量の異なる物体を同じように円運動させたとき、慣性質量が大きいほど円運動を維持するのに必要な力は大きくなる。

経験的に、慣性質量の大きな物体は重力質量が大きい、つまり「地球の重力で引っ張られて重い」(持ち上げにくい)と感じられる物ほど、「無重力状態でも動かしにくい」ことが知られている。この事実から、慣性質量と重力質量の違いに因われることなく、物体の重さを感じることができる。この慣性質量と重力質量の関係性を直接的に示すものが落体の法則である。落体の法則によれば、自由落下する物体の運動は、物体の重力質量に依らず同じであり、このことから重力質量と慣性質量が等価であることが導かれる。重力質量と慣性質量の等価性から、両者を区別することなく、単に質量と呼ぶことができる。この現象は、基本的には一般相対性理論等価原理によって説明される。


注釈

  1. ^ 等価原理には、弱い等価原理、アインシュタインの等価原理、強い等価原理の三種類が存在する。

出典

  1. ^ 小出昭一郎 1988.
  2. ^ 朝永振一郎 1981, p. 15.
  3. ^ 朝永振一郎 1981, p. 12.
  4. ^ 計量法 第2条「この法律において「計量」とは、次に掲げるもの(以下「物象の状態の量」という。)を計ることをいい、・・・」
  5. ^ 計量法 第2条第1号 長さ、質量、時間、電流、温度、物質量、光度、角度、立体角、面積、体積、・・・
  6. ^ 重量と質量,化学と物理 大政光史(近畿大学・生物理工学部・基礎機械工学科)、「化学教育ジャーナル (CEJ)」第2巻第2号/採録番号2-13/1998年11月16日
  7. ^ 家庭電気製品製造業における表示に関する公正競争規約 p.25、別表2-1、一般社団法人全国公正取引協議会連合会
  8. ^ 食品表示基準 別表第9 タンパク質、糖質の栄養成分及び熱量測定及び算出の方法として、「当該食品の質量から、たんぱく質、脂質、灰分及び水分の量を控除して算定すること。」と規定している。
  9. ^ 食品表示基準(平成二十七年内閣府令第十号)
  10. ^ 理科教育振興法施行令 第2条、別表「長さ、体積、質量、時間、温度及び電気の計量器」






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