市民ケーン
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市民ケーン | |
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Citizen Kane | |
監督 | オーソン・ウェルズ |
脚本 |
ハーマン・J・マンキーウィッツ オーソン・ウェルズ |
製作 | オーソン・ウェルズ |
出演者 |
オーソン・ウェルズ ジョゼフ・コットン ドロシー・カミンゴア |
音楽 | バーナード・ハーマン |
撮影 | グレッグ・トーランド |
編集 | ロバート・ワイズ |
製作会社 | マーキュリー・プロダクション |
配給 |
RKO ATG |
公開 |
1941年5月1日 1966年6月14日 |
上映時間 | 119分 |
製作国 | アメリカ合衆国 |
言語 | 英語 |
製作費 | $686,033 |
興行収入 |
$990,000(北米配収) $300,000(海外配収)[1] |
新聞王ケーンの生涯を、それを追う新聞記者を狂言回しに、彼が取材した関係者の証言を元に描き出していく。主人公のケーンがウィリアム・ランドルフ・ハーストをモデルにしていたことから、ハーストによって上映妨害運動が展開され、第14回アカデミー賞では作品賞など9部門にノミネートされながら、脚本賞のみの受賞にとどまった。しかし、パン・フォーカス、長回し、ローアングルなどの多彩な映像表現などにより、年々評価は高まり、英国映画協会が10年ごとに選出するオールタイム・ベストテン(The Sight & Sound Poll of the Greatest Films of All Time)では5回連続で第1位に選ばれ、AFI選出の「アメリカ映画ベスト100」でも第1位にランキングされている。1989年にアメリカ国立フィルム登録簿に登録された。
ストーリー
暗く荒廃した大邸宅「ザナドゥ城」の幾つものショット[注 1]。そしてその一部屋で屋敷の主、かつて37の新聞社と2つのラジオ局を傘下に収めた新聞王チャールズ・フォスター・ケーンが小さなスノードームを握りしめ、「バラのつぼみ(rosebud)」という謎の言葉を残して息を引き取った。ある会社が彼の生涯をまとめたニュース映画を制作しようとするが、そのありきたりな内容に不満を持った経営者ロールストンは、編集のジェリー・トンプスンに「バラのつぼみ」という言葉にはきっと深い意味がある、それを突き止めケーンの人物像を探るようにと命じた。トンプスンはケーンに近かった5人の人物、2度目の妻で元歌手のスーザン・アレグザンダー、後見人の銀行家サッチャー(の回顧録が納められた図書館)、ケーンの旧友であり新聞社「インクワイラー」でのパートナーでもあったバーンステインとリーランド、ザナドゥ城の執事を順に訪ねながらケーンの歴史を紐解いていった。
ケーンの両親は小さな下宿屋を営んでいたが、ある時、宿泊費のかたに取った金鉱の権利書に大変な価値がある事が分かり、その名義人である母親は大金持ちとなった。母親は反対する父親の声に耳を貸さず、ケーンをニューヨークの銀行家サッチャーの元に預け、彼に運用を任せた資産をケーンが25歳になった時に全て相続させる事を決める。雪の中そりで遊んでいた幼いケーンは、自身をニューヨークへ連れ去ろうとするサッチャーを持っていたそりで殴りながらも結局、両親から無理やり離されニューヨークで育った。25歳になり莫大な資産を相続したケーンはサッチャーに「育ててくれと頼んだ覚えもない」と、後見人でありながら冷たく彼を遠ざけ去り、友人のバーンステインとリーランドを引き連れ、買収した新聞社「インクワイラー」の経営に乗り出す。彼が手法とするセンセーショナリズムは友人や古株の社員に批判されるが、結果的に商業的には成功し、廃業寸前の弱小新聞社であったインクワイラーの部数はニューヨークでトップとなる。
勢いに乗るケーンは時の大統領の姪と結婚するが、妻とは反りが合わず次第に会話も無くなっていった。そんな折、街中で偶然出会った歌手を夢見る天真爛漫な女性スーザンにケーンは心を奪われる。そしてケーンは労働者達の為に政治家になるのだと宣言しニューヨーク州知事選挙に打って出る。選挙戦ではライバル候補であり現職知事のゲティスの悪評を責めるばかりで、自身はどのような政策を持っているのかという中身がないマニフェストながら、大衆の人気をさらい圧勝かと思われたケーンだったが、ゲティスは愛人スーザンの存在を突き止め、知事選の前日にケーンと妻をスーザン宅に呼び出し、「出馬を辞退しなければケーンの不貞を世に暴露する」と脅す。ケーンは激怒しその要求を突っぱねたが、ニューヨーク中のメディアにスキャンダルを報道されイメージが地に堕ち、教会をも敵に回したケーンは無残に敗北する。敗北の夜、リーランドはケーンの労働者への愛は独りよがりの愛だと強く批判する。妻と息子もケーンの元を去る。
その後スーザンと結婚したケーンは彼女を立派な歌手にすべく巨大なオペラハウスを建設、一流のボイストレーナーもつけたが、そうやって一流の環境を整えるほどにスーザンの歌手としての実力不足が浮き彫りになっていく。彼女の初舞台は散々な出来であったが、インクワイラーは社を挙げて盛り上げようとした。しかしただ一人、劇評を担うリーランドは彼女を酷評する記事を作成していた。リーランドがタイプライターの前で書きかけの記事を前に眠っている所へやってきたケーンは、その記事を見て怒る代わりに自らその続きの悪評をタイプし、その結果、各社全ての記事にスーザンの悪評が載ることとなる。ケーンのインクワイラー社すら悪評を載せた事に激怒するスーザンはもう歌手をやめたいと訴えるが、ケーンは自分を笑い者にする気かと一蹴した。そうして無理やり歌手を続けさせられたスーザンはある日鎮静剤を大量に服用し倒れる。もう耐えられないと懇願するスーザンにケーンもとうとう歌手をやめる事を承諾する。
知事選とスーザンの一件でもうニューヨークには居られないと感じたケーンは、郊外に荘厳な大邸宅、通称「ザナドゥ城」を建てて移り住むが、ケーンと2人、他には使用人しかいない孤独な生活にスーザンは次第に不満を募らせる。そしてある日ケーンと口論となったスーザンは「あなたの行いは全て自分の為」と言い残し、行かないでくれと懇願する彼の元を去っていった。一人残されたケーンは彼女の部屋にある物全てを破壊していくが、スノードームを見つけるとそれを握りしめ呆然とした表情で城のどこかへと消えた。そして時は流れ、年老いたケーンは孤独な最期を遂げる。トンプスンは最後にザナドゥ城まで取材にやってくるが結局誰も「バラのつぼみ」の意味を知らず、その意味は謎のままに終わった。
しかしトンプスン達が城を去った後、ケーンの金に物を言わせて買い漁った遺品が次々と無情に燃やされていくその中に、かつて幼きケーンが遊んでいたそりがあった。誰も気にも留めないそのそりには「ROSEBUD(バラのつぼみ)」のロゴマークが印刷されていた。城の煙突からは遺品を燃やす黒い煙がもくもくと天へ立ち昇り、屋敷を囲むフェンスには「NO TRESPASSING (立入禁止)」の看板が掲げられていた。
キャスト
- チャールズ・フォスター・ケーン: オーソン・ウェルズ - 新聞王。かつて37の新聞社と2つのラジオ局を傘下に収めた。
- ジェデッドアイア・リーランド: ジョゼフ・コットン - ケーンの親友でビジネスパートナー。
- スーザン・アレクサンダー: ドロシー・カミンゴア - ケーンの2番目の妻。歌手。
- バーンステイン: エヴェレット・スローン - ケーンのビジネスパートナー。
- ジェームズ・W・ゲティス: レイ・コリンズ - ケーンの政敵。
- ウォルター・サッチャー: ジョージ・クールリス - ケーンの後見人。
- メアリー・ケーン: アグネス・ムーアヘッド - ケーンの母。
- レイモンド: ポール・スチュアート - ザナドゥ城の執事。
- エミリー・ノートン: ルース・ウォリック - ケーンの最初の妻。
- ハーバート・カーター: アースキン・サンフォード - インクワイラー紙の編集長。
- ジェリー・トンプソン: ウィリアム・アランド - ケーンの人物像を探ることになったニュース記者。
- ジム・ケーン: ハリー・シャノン - ケーンの父。
- ロールストン: フィリップ・ヴァン・ツァント - ニュース映画のプロデューサー。トンプソンの上司。
- 新聞記者: アラン・ラッド、アーサー・オコンネル
注釈
- ^ サミュエル・テイラー・コールリッジの詩「クブラ・カーン」から"blossoms many an incense-bearing tree.""a miracle of rare device."と紹介されるが、コールリッジもまた9歳で父と死別、ロンドンの学校でひとりで生活することになる。
出典
- ^ Gregory Mead Silver (2010年11月). “Economic Effects of Vertical Disintegration: The American Motion Picture Industry, 1945 to 1955” (PDF) (英語). LSE Research Online. RKO Feature Film Ledger, 1929-51. LSE. p. 113. 2021年6月15日閲覧。
- ^ “映画史に残る「初監督作品」は?処女作トップ100ランキング”. 映画.com. (2010年10月12日) 2021年6月15日閲覧。
- ^ 川﨑佳哉「『市民ケーン』と観客の知覚」『早稲田大学大学院文学研究科紀要. 第3分冊』第57巻、早稲田大学大学院文学研究科、2011年、85-100頁、ISSN 1341-7533、NAID 40019242218。
- ^ 市民ケーン、2016年2月7日閲覧
- ^ 『市民ケーンすべて真実』. 筑摩書房
- ^ 『スキャンダルの祝祭』. 新書館
- ^ 『最新版 アカデミー賞』、共同通信社、2002年4月19日、p.51
- ^ 野崎歓「映画を信じた男-アンドレ・バザン論」『言語文化』第32号、一橋大学語学研究室、1995年、23-42頁、doi:10.15057/8904、ISSN 04352947、NAID 110007622844。
- ^ “AFI's 100 GREATEST AMERICAN MOVIES OF ALL TIME” (英語). AFI.com. 2016年2月7日閲覧。
- ^ “AFI'S 100 YEARS...100 MOVIES - 10TH ANNIVERSARY EDITION” (英語). AFI.com. 2016年2月7日閲覧。
- ^ “[cahiers-du-cinema-top-100 Cahiers du Cinéma Top 100]”. Movies List on MUBI. 2016年2月7日閲覧。
- ^ “The 500 Greatest Movies of All Time”. Empire. 2016年2月7日閲覧。
- ^ “The Toronto Film Festival’s Essential 100 Movies” (英語). /Film (2012年12月22日). 2010年2月7日閲覧。
- ^ “100 ALL-TIME GREATEST MOVIES” (英語). Filmsite.org. 2010年2月7日閲覧。
- ^ “英BBC選出「史上最高のアメリカ映画100本」 第1位は?”. 映画.com (2015年8月10日). 2015年8月10日閲覧。
- ^ “The 100 Greatest American Films” (英語). BBC (2015年7月20日). 2015年8月10日閲覧。
- ^ 『キネマ旬報ベスト・テン85回全史 1924→2011』、キネマ旬報社、2012年5月23日、p.589
- ^ 「オールタイム・ベスト 映画遺産200」全ランキング公開、キネマ旬報映画データベース、2016年2月7日閲覧 インターネットアーカイブ
- ^ https://www.filmbuffonline.com/FBOLNewsreel/wordpress/2021/02/28/citizen-kane-camera-negative/
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