女装
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/24 08:20 UTC 版)
文化としての女装
少年、青年、また成人男性が、強靱な精神と肉体を持ち、荒々しい言動や挙措であることが尚ばれる社会や時代があるが、他方で、女性的な男子が社会的に理想とされるような社会や時代の文化もある(日本の平安時代の貴族は、女性的であることが理想でもあった)。また奇異な行動や服装がもてはやされる時代もあり、女装やそれに類した行動様式が美しいとか望ましいとか考えられる文化のファッションも当然存在する。
ここから「ファッションとしての女装」というものがまた考えられる[20]。1960年代から70年代にかけて、フラワームーヴメントが欧米にはあったが、男性が女性的な身なりをすることが流行した。グラムロックやパンクファッションなどでも、男性が派手な衣装をし、ルージュを付けるなどがあった。これはヴィジュアル系と呼ばれるファッションにも通じている。またメンズ・スカートなども、ファッションとしての女装として見ることができる。
メジャーリーグベースボールではルーキー・ラギング・デーで女装をすることがある。2016年、大リーグ機構が選手会と合意した新労使協定で、いじめを禁じる方針が盛り込まれた。その一環で人種、国籍、年齢、性別などで人格を傷つける衣装、および女装を選手に仕向けることが禁止になった[21]。
代替役割としての女装
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鳥居清廣 18世紀中葉
父権的社会が強固としてある場合、「女性の役割」を男性が演じねばならない事態が生まれることがある。
日本の歌舞伎が代表的であるが、政治的・社会的な理由から、遊蕩の演芸の芸人に女性は介入してはならないという原則が立てられると、女性役は誰が演じるのかという問題が起こる。ここから日本では、女形(おやま)という女性役を専門に演じる俳優が生まれる。女形は当然ながら女装して舞台に立つのであるが、単に服装や装身具の問題だけではなく、言葉遣い・挙措において、「女性らしさ」が求められることになる。
イギリスの劇作家であり近代英語の確立者であるウィリアム・シェイクスピアの作品に登場する女性役は、女装した美少年が演じたともされる。シェイクスピアの劇作品のなかには、女性が男装して、そのことから生じる人間違いを主題とした喜劇がある。ローレンス・オリヴィエ卿は男性でシェイクスピア劇の俳優であるが、彼の最初の出演では、女装して女性役を務めていた。
女装のタイプ
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女性装をする人には以下のようなタイプがある。
- 異性愛異性装者 - シスジェンダー男子及び男性で女装するものは異性装指向者である。また、自らが女装することで性的興奮する性嗜好は異性装フェティシズムとされる。
- シスジェンダー女性 - 社会が「女性的記号」であるとする衣類(例:フリルブラウス)や装飾品を意識的に選択する事を「女装する」と表現する場合がある[22][23]。
- トランス女性 - 出生時に男性と割り当てられた人が自身の女性としてのジェンダー・アイデンティティと違うことで生じる性別違和を、一致している性別に性別適合手術などして性自認の不一致を緩和させる事がある[24]。正確にいうと「女装」ではない。
- ドラァグ・クイーン及び女装家(クロスドレッサー) - トランスジェンダーの範疇とは別に、女装をする同性愛者の男性(クロスドレッサー)[25]がいる。これらはドラァグ・クイーンやクロスドレッサーのその典型とも考えられる[26]。
- 宗教的理由から、男性が女装して祭儀などを行うことがある。古代の母権制宗教にはその傾向が顕著であったが、近世から現代にもその伝統が祭礼等で残っている場合がある。
- 男児の乳幼児死亡率が高かった時代の迷信で、男児の早世を避けるため、女児の服装で育てるとよいと信じられていた。欧州の上流階級ではこのような習慣が20世紀まではあった。ただし着用が自らの意思ではないためこれは女装ではない。
- 母親または家族等が女児を欲していた場合に男児が生まれたとき、上記の慣習に準じて女児として育てるが、十歳になってもなお少女の服装で育てた場合がある(ライナー・マリア・リルケがこの例になる)。
- 幼少期の家庭環境に影響され、姉妹の多い家族構成や男言葉や男らしい振る舞いを禁じられた過度なしつけ、何かのきっかけで母や姉妹の衣類を着用した(または着用させられた)ことがある、など成育時の児童虐待により認知がゆがんだケース[要出典]。
- 心理的、また精神医学的な理由から女装が望ましい人がいる。男性であることが負荷である人や、ジェンダー把握が女性位相も含む人は女装に休息や自然さを感じる。ただし反復的に女装を繰り返すうちに心理的に依存状態になり、ひいてはエスカレートする例もあるため注意する[要出典]。
- 文化的な規範か、機会的な状況において、男性が女性の役割を演じる必要がある場合がある。職業的に永続するこのような役割は、歌舞伎の女形がそうである。劇において、出演者が男性しかいない場合、女性役はやはり女装することになる。男子高等学校の演劇部が劇を演じる場合にもこのようなことが起こる。ウィーン少年合唱団等はミニ・オペレッタを公演で提供することがあるが、女性役は少年が演じる。
- 芸としての女装 - 古典芸能では女形、それ以外ではタレントや芸人など、桜塚やっくん扮する「スケバン恐子」、ゴリ扮する「松浦ゴリエ」、香取慎吾(元SMAP)扮する「慎吾ママ」、女性歌手のものまねを得意とする前田健など、ネタとしてお笑い芸人が女装して特定のキャラクターを演じる事がある。尚、最近はネタとしてではなく、『しらすのこうげき!』のひよりなど女装男子として生活しててお笑い芸人になったものもおり、同一ジャンルだがまた別のタイプでもある。
- 学園物や恋愛物の漫画やそれを原作としたドラマなどでは、美男子という設定の登場人物が女装することが多い(『花ざかりの君たちへ〜イケメン♂パラダイス〜』や『有閑倶楽部』、『ヤマトナデシコ七変化♥』など)。
- ファッションとして、女装に見える派手な服装や化粧などをする人がいる。ヴィジュアル系のロック音楽グループに、そのような例がある。
注釈
- ^ 三橋順子『女装と日本人』講談社、2008年、24頁なども参照のこと。
出典
- ^ 三橋順子「変容する女装文化 異性装と自己表現」『コスプレする社会 サブカルチャーの身体文化』せりか書房、2009年、102頁。
- ^ とはいえ、ジャンヌ・ダルクは男装し、男性の髪型で活動したことが、火刑の理由として挙げられている。これは、キリスト教社会における規範である『旧約聖書・申命記』 22章 5 が、男装・女装を禁じていることにもよる。
- ^ Human Sexuality, p. 323(study by Samuel Janus and Cynthia Janus, 1993)
- ^ “MONCOS 日本モンキーパークdeコスプレ モンコス モンキーパークコスプレイベント”. MONCOS 日本モンキーパークdeコスプレ モンコス モンキーパークコスプレイベント. 2022年7月19日閲覧。
- ^ a b “注意事項・禁止事項・”. コスプレイベントCOSSAN | コッサン (2016年9月21日). 2022年7月19日閲覧。
- ^ “【利用に際してのお願い】”. 有限会社プロジェクトドゥ. 2022年7月20日閲覧。
- ^ 『楊貴妃になりたかった男たち』
- ^ Oxford Classical Dictionary, p. 569 /eunuchs/
- ^ ibid. p. 481 /Dionysus/
- ^ ユング・ケレーニイ共著 『神話学入門』 晶文社
- ^ 『人類の知的遺産 53・ラーマクリシュナ』 講談社 1983年
- ^ 渋谷中博「女性の呪力と出産呪術」『呪術・占いのすべて』 <知の探求シリーズ> 日本文芸社 1997 ISBN 4537078138 pp.124-128.
- ^ “「たまには良い」女装みこしの始まりとは”. 読売新聞. (2014年4月16日) 2014年4月18日閲覧。
- ^ 『女装の民族学』 P. 41
- ^ 本人は自身を「ジェンダーレス」とは思っておらず「井手上漠」という固有の存在としているが、便宜上ジェンダーレスとして分類する。
- ^ “井手上漠さん「心に女か男かの違いがない。でもジェンダーレスだとは思っていません」(前編)”. telling,. 2022年8月1日閲覧。
- ^ 三橋順子「女装と日本人」。
- ^ 三橋順子『女装と日本人』講談社、2008年9月19日、129頁。ISBN 978-4062879606。
- ^ https://www.fukkan.com/fk/VoteDetail?no=23009
- ^ 平松隆円、井上章一(編)、2008、「「ギャル男」のいる光景」、『性欲の文化史』2、講談社〈講談社選書メチエ〉 ISBN 9784062584258 pp.146-159.
- ^ “マエケンも洗礼…新人メジャーリーガーの恒例行事、“女装”見納め ヒーローなどのコスプレはOK”. (2016年12月16日) 2016年12月24日閲覧。
- ^ 井土亜梨沙 (2017年10月26日). “女が「女装」することの快感。”. ハフポスト. 2021年8月19日閲覧。
- ^ 湯山玲子『女装する女』新潮社、2008年。ASIN B00ASUY2J2。
- ^ Chloe Louise Mpame (2020). CLOTHING: A STATEMENT OF ONE’S GENDER IDENTITY (PDF) (Master of Gender Studies). Memorial University of Newfoundland.
- ^ “クロスドレッサー(トランスヴェスタイト)とは?【トランスジェンダーやゲイ・レズビアンとは違う?】”. 株式会社JobRainbow. 2022年9月7日閲覧。
- ^ Human Sexuality, p.325
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