司空とは? わかりやすく解説

し‐くう【司空】

読み方:しくう

中国、周の六卿の一。冬官の長で、土木水利などの建築事業つかさどった前漢では大司空後漢・唐では再び司空となり、三公の一。


司空

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/01 16:47 UTC 版)

司空(しくう)は、かつて中国にあった官職である。時代により職掌・地位が異なる。

歴史

西周から漢初までの司空

空は西周時代の金文史料で「工」の字で書かれており、司工(司空)は土木工事、各種工作を掌った[1]

戦国時代の各国にも、を除いて多くの国に置かれた。

戦国時代から漢代の文献や出土史料からは「都司空」「次司空」(『墨子』)・「国司空」(『商君書』)「県司空」「邦司空」(『秦律雑抄』)・「中司空」「郡司空」「宮司空」「県司空」(『二年律令』)・「獄司空」(『洪範五行伝』)などの存在が記されており、地方の様々な役所に司空が設置されていた。

前漢の中央政府に「司空」だけで呼ばれる官は見えないが、宗正の下に都司空令、少府の下に左司空令と右司空令、水衡都尉の下に水司空長があった[2]

秦漢時代に官の工事は刑徒を動員して行われることが普通で、司空は刑徒(囚人)の管理(治獄)と治水や各種土木工事(作事)をあわせて掌った。だが、前漢後期以後、治獄と作事の役割が分離するようになると、各地にあった「司空」の名称は次第に用いられなくなった。

儒教経典の司空

書経』「堯典」には、帝がを司空にとりたて、水と土を平らげるよう命じたとある[3]。『史記』も同じ内容を記す[4]。『書経』「洪範」は、箕子の言葉として、が禹の時代から受け継いだ八政の4番目に司空を挙げる[5]。堯・舜・禹は実在しない伝説上の人物であるから、その事績も同じである。

礼記』の一篇をなす「周礼」は、理想化した周の制度を記述して戦国時代に作られた書である。最高官である六官の一つに司空を配し、天地春夏秋冬に分けたうちの冬官とした。司空は土木・工作に携わる多くの官を率いた。

周官」は東晋の時代に出現して『書経』に含められた偽書である[6]。『周官』は司空を三公九卿の一つと位置づけた。最高位の三公の下にある九卿の一つ、その中でも六官の一つである。この司空は、国土を掌り、人民を住まわせ、土地をその性質と季節に従って活用することを任とした[7]

これらは伝説や創作であり、実際に行われた制度ではない。経典解釈では「空」の意味をめぐって様々な説が立てられた[8]

漢の大司空と司空

儒教経典に書かれた架空の司空は、上古の制度にならおうとする儒教思想により、後代に現実化した。

前漢末、成帝綏和元年(紀元前8年)に御史大夫大司空と改称したのがその始まりである[9]。当初は司空に改称しようとして後から獄司空の存在を指摘され、これと区別するために「大」を覆加したという逸話が残されている[10]哀帝建平2年(紀元前5年)に、大司空は御史大夫の名称に戻されたが、元寿2年(紀元前1年)に再び、大司空と改称した[9]。この大司空は、大司徒大司馬とともに三公の一つであった。

でも三公の大司馬、大司徒、大司空が置かれた。

後漢建武27年(51年)、朱祜の上奏によって大司空は司空と改称された。以後、大司空はなくなり、司空として継承される。

献帝建安13年(208年)6月、曹操によって三公制度が廃止されると設置されなくなったが、後漢からへの禅譲により三公制度が復活すると、再び司空が設けられた。

南北朝以降

南北朝時代以降、司空は高官の一つとして設けられた。その職掌は様々である。三公の一つとされることも、それより下の官とされることもあった。

南朝のでは軍の最高職として司空が置かれた。

では名誉職であり、兵権を持たなかった。

では、工部尚書の別称として用いられた。

では、工部尚書の別称として用いられた。

脚注

  1. ^ 『『漢書』百官公卿表訳注』、10頁注13。
  2. ^ 『漢書』巻19上、百官公卿表第7上。『『漢書』百官公卿表訳注』83頁、91頁、122頁。
  3. ^ 『書経』「堯典」。新釈漢文体系『書経』上の38 - 39頁。
  4. ^ 『史記』巻1、五帝本紀第1。新釈漢文体系『史記』1の60 - 61頁。ちくま学芸文庫版『史記』1の23頁。
  5. ^ 『書経』「洪範」。新釈漢文体系『書経』上の153頁。
  6. ^ 新釈漢文体系『書経』上の11-12頁。
  7. ^ 『書経』「周官」。新釈漢文体系『書経』下の497頁。
  8. ^ 『『漢書』百官公卿表訳注』9 -10頁。
  9. ^ a b 『漢書』巻19上、百官公卿表第7上、御史大夫。『『漢書』百官公卿表訳注』、27頁。
  10. ^ 『続漢書』百官志注引『漢官儀』

参考文献

  • 中央研究院・歴史語言研究所「漢籍電子文献資料庫」。
  • 司馬遷史記
    • 小竹武夫訳『史記』1から8、筑摩書房、ちくま学芸文庫、1995年。
    • 吉田賢抗『史記』(本紀ぬ)、明治書院、1973年。
  • 班固著、『漢書
    • 小竹武夫訳『漢書』1から8、筑摩書房、ちくま学芸文庫、1998年。
    • 大庭脩監修、漢書百官公卿表研究会『『漢書』百官公卿表訳注』、朋友書店、2014年。
  • 書経
    • 加藤常賢『書経』上・下、新釈漢文大系25・26、明治書院、1983年・1985年。
  • 宮宅潔「『司空』小考-秦漢時代における刑徒管理の一斑-」(初出:『張家山漢簡による中国漢代制度史の再検討』平成16-19年度科学研究費補助金(基盤C)研究成果報告書(2008年)/所収:宮宅『中国古代刑政史の研究』(京都大学学術出版会、2011年) ISBN 9784876985333 第5章)

関連項目



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