中小企業診断士
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/19 14:23 UTC 版)
試験
中小企業診断士試験は、中小企業支援法第12条の規定に基づき国(経済産業省)が実施する国家試験であり、試験事務は指定試験機関である一般社団法人中小企業診断協会が実施している。
試験は第1次試験と第2次試験に分かれ、1次試験は全国10地区(札幌・仙台・東京・名古屋・金沢・大阪・広島・四国・福岡・那覇)[8]、2次試験は金沢・四国・那覇を除く7つの地区の会場で実施される。那覇が1次試験の会場として追加されたのは2012年からである。金沢・四国は「試験的」に2023年から追加され、四国は2023年は松山だが2024年は高松となる予定で、以後両都市で交互に開催するとしている[8]。
中小試験診断士試験に合格するまでに必要な勉強時間は、約800時間 - 1,000時間とされている[9]。
第1次試験
中小企業診断士となるのに必要な学識を判定するもので、多肢選択式で実施されている。平成18年度からは以下の科目編成となり、科目合格制が導入されている。科目合格の有効期間は3年間である。
1日目
2日目
科目免除
第1次試験の一部の科目については、特定の国家試験の合格者に対する免除措置があり、申請によって一部科目の免除を受けることができる。免除科目と対象となる国家資格を以下に記す。
- 経済学・経済政策
- 財務・会計
- 経営法務
- 弁護士資格を有する者
- 経営情報システム
- 技術士情報工学部門の資格を有する者
- 情報処理技術者試験のうち、一部の区分(ITストラテジスト試験、プロジェクトマネージャ試験、システムアーキテクト試験、システム監査技術者試験、応用情報技術者試験のうちのいずれか)の合格者。
- ITストラテジスト試験の前身であるシステムアナリスト試験でも代用可能。ただし、上級システムアドミニストレータ試験(上級シスアド)は対象外。
- システムアーキテクト試験はアプリケーションエンジニア試験および特種情報処理技術者試験でも代用可能。ただしプロダクションエンジニア試験での代用はできない。
- 情報処理システム監査技術者試験の合格者も、システム監査技術者試験の合格者と同等の扱いとする。
- 応用情報技術者試験の前身であるソフトウェア開発技術者試験および第一種情報処理技術者試験の合格者も、応用情報の合格者と同等の扱いとする。ただし、第一種情報処理技術者認定試験は対象外とする。
- ネットワークスペシャリスト試験、データベーススペシャリスト試験、エンベデッドシステムスペシャリスト試験、情報セキュリティスペシャリスト試験、ITサービスマネージャ試験、基本情報技術者試験、初級システムアドミニストレータ試験(初級シスアド)、情報セキュリティアドミニストレータ試験(情報セキュアド)、情報セキュリティマネジメント試験、ITパスポート試験は科目免除の対象外である。これは前身に相当する区分も同様である(例:第二種情報処理技術者試験は基本情報技術者試験と同等の試験として扱う。)。
- 情報セキュリティスペシャリスト試験の後継資格である情報処理安全確保支援士(登録情報セキュリティスペシャリスト)も、科目免除の対象外である。
第1次試験に関する正解・配点の公表等
中小企業診断士第1次試験では、平成17年度から正解肢と配点が公表されるようになった。正解肢と配点の発表は、一般社団法人中小企業診断協会のサイト上で試験の翌日もしくは翌々日に行われる(試験実施が土日で、月曜日の午後にアップされる)。
正解肢の公表による試験制度の改善効果としては次のような例がある。平成17年度試験では、「企業経営理論」で問題が成り立っていない、「没問」の存在が明らかとなった。この訂正は、出題の前提となっている社会保険制度の仕組みの認識自体が根本的に誤っており、正解肢発表の時点で同時に没問発表が行われた。 平成18年度試験では「運営管理」で正解肢が2つ存在するという訂正を行った。これは、受験機関であるLEC東京リーガルマインドが抗議を行ったことによって、後日訂正されたものである。
台風による第1次試験中止
2023年度の第1次試験では、那覇会場が台風6号の接近に伴い、試験を中止することが実施前日の8月4日に中小企業診断協会から発表された[10]。同会場で受験予定だった受験者に対する扱いは決まり次第別途発表するとしていた[10]。2001年に現行の試験制度になって以来、試験の実施中止は初めて[11]。報道によると、那覇会場での受験予定者は約250人だった[12]。受験生の間からは、救済措置を求める意見がSNSなどに寄せられ、オンライン署名活動も起こされたと報じられた[11][12][13]。所管となる経済産業大臣の西村康稔は8月6日に自身のX(旧Twitter)アカウントで、「再試験が実施できるよう、試験を運営する中小企業診断協会に検討を指示しました」と記載した[11][12][14]。これに対して協会は、8月6日の時点でNHKの取材に「再試験については、問題の作成などに時間と労力がかかり実施するのは困難です。中小企業庁とも協議のうえ近く対応を決めたい」というコメントを寄せていたが[11]、8月8日に「経済産業省の指示により、那覇地区の受験申込者の皆様に対して再試験が実施できるよう 、検討しているところです」という告知をウェブサイト上に発表した[15]。8月12日に経済産業省はウェブサイトで、那覇会場の第1次試験受験者については今年中に再試験を実施すること、それに先だって10月29日に実施される第2次筆記試験の受験資格を特例措置として関係省令を改正した上で与えることを発表した[16]。同月18日に経済産業省は省令改正に関するパブリックコメントを開始し、これを受けて中小企業診断協会は、省令改正後の9月6日に該当者に対して第2次試験の案内を発送することと、第1次試験の再試験は「年内目途に開催できるよう準備を進めて」いることをウェブサイト上で発表した[17]。9月6日に、中小企業診断協会は那覇地区の第1次試験受験申込者に対して、12月23日と24日に再試験を実施すること、それに先だって実施される第2次試験の受験資格を該当者に与えることを正式に発表した[18]。再試験を希望しない受験者に対しては期間を限定して受験料返還の手続きを実施すること、再試験を受験しなくても過去の科目合格有効期間は延長しないこと、那覇地区の第1次再試験合格者の第2次試験受験資格は今年の第2次試験受験に関係なく来年度までであることも併せて発表された[18]。再試験については他地区との公平性を確保するため、得点調整を必要に応じて行うとしている[18]。なお、第2次試験については従来同様那覇地区では実施されない[19]。
第2次試験
第1次試験合格者を対象に、中小企業診断士となるのに必要な応用能力を判定するものであり、筆記試験(事例に関する記述試験)及び口述試験(筆記試験合格者に対する面接試験)の方法で実施される。筆記試験の内容は「紙上診断」であり、第1次試験で試された基礎知識を実務で生かせるか否かが問われる。
筆記試験の受験資格を有するのは前年度と当年度の第1次試験合格者である。すなわち、第1次試験合格から1年余りのうちに第2次試験を合格しなければ、再び第1次試験の受験が必要になる。なお、令和元年度から3年度までの第1次試験合格者のうち、新型コロナウイルス感染症の罹患もしくはその疑いにより第2次試験を受験できなかったことが確認できる場合には、申請により1年の受験期間延長が認められている[20][19]。
平成12年度以前の制度で第1次試験に合格している者(平成13年度以降に第2次試験を受験した者を除く。また、平成13年度以降の第1次試験に合格し、第2次試験を受験した場合も除く。)については、1回に限り第2次試験の受験または中小企業大学校の養成課程もしくは国に登録された登録養成課程の受講が可能。
なお、第2次試験(筆記試験)は4つの事例問題で構成され、その表題および対象は以下のとおりである。
- 中小企業の診断及び助言に関する実務の事例 I (組織(人事を含む)):80分
- 中小企業の診断及び助言に関する実務の事例 II (マーケティング・流通):80分
- 中小企業の診断及び助言に関する実務の事例 III (生産・技術):80分
- 中小企業の診断及び助言に関する実務の事例 IV (財務・会計):80分
平成21年度第2次試験(筆記試験)出題の趣旨 平成22年度第2次試験(筆記試験)出題の趣旨 平成23年度第2次試験(筆記試験)出題の趣旨 平成24年度第2次試験(筆記試験)出題の趣旨 平成25年度第2次試験(筆記試験)出題の趣旨 平成26年度第2次試験(筆記試験)出題の趣旨
※1事例ごとに500字~800字の論述式で、計4事例出題される。事例IV(財務・会計)のみ計算問題+論述式。
過去の試験合格率の推移
第1次試験
令和5年度の受験者数と試験合格者は、再試験を実施する那覇地区を含まない実績(申込者数については不明)。
年度 | 申込者数(人) | 受験者数(人) | 試験合格者(人) | 試験合格率(%) |
---|---|---|---|---|
平成13年度 | 10,025 | 8,837 | 4,529 | 51.3 |
平成14年度 | 12,447 | 10,572 | 3,355 | 31.7 |
平成15年度 | 14,692 | 12,449 | 2,021 | 16.2 |
平成16年度 | 15,131 | 12,554 | 1,970 | 15.7 |
平成17年度 | 13,476 | 11,000 | 2,445 | 22.2 |
平成18年度 | 16,595 | 12,542 | 2,791 | 22.3 |
平成19年度 | 16,845 | 12,776 | 2,418 | 18.9 |
平成20年度 | 17,934 | 13,564 | 3,173 | 23.4 |
平成21年度 | 20,054 | 15,056 | 3,629 | 24.1 |
平成22年度 | 21,309 | 15,922 | 2,533 | 15.9 |
平成23年度 | 21,145 | 15,803 | 2,590 | 16.4 |
平成24年度 | 20,210 | 14,981 | 3,519 | 23.5 |
平成25年度 | 20,005 | 14,252 | 3,094 | 21.7 |
平成26年度 | 19,538 | 13,805 | 3,207 | 23.2 |
平成27年度 | 18,361 | 13,186 | 3,426 | 26.0 |
平成28年度 | 19,444 | 13,605 | 2,404 | 17.7 |
平成29年度 | 20,118 | 14,343 | 3,106 | 21.7 |
平成30年度 | 20,116 | 13,773 | 3,236 | 23.5 |
令和元年度 | 21,163 | 14,691 | 4,444 | 30.2 |
令和2年度 | 20,169 | 11,785 | 5,005 | 42.5 |
令和3年度 | 24,495 | 16,057 | 5,839 | 36.4 |
令和4年度 | 24,778 | 17,345 | 5,019 | 28.9 |
令和5年度 | 25,986 | 18,621 | 5,521 | 29.6 |
注 試験合格者に科目合格者は含まれない。また、平成18年度以降の受験者数は欠席科目がない受験者である。 |
令和5年度の申込者数25,986人は過去最高である。
第2次試験
年度 | 申込者数(人) | 受験者数(人) | 筆記合格者(人) | 試験合格者(人) | 試験合格率(%) |
---|---|---|---|---|---|
平成13年度 | 5,976 | 5,872 | 628 | 627 | 10.7 |
平成14年度 | 6,549 | 6,394 | 651 | 638 | 10.0 |
平成15年度 | 4,281 | 4,186 | 714 | 707 | 16.9 |
平成16年度 | 3,237 | 3,189 | 648 | 646 | 20.3 |
平成17年度 | 3,646 | 3,589 | 704 | 702 | 19.6 |
平成18年度 | 4,131 | 4,014 | 806 | 805 | 20.1 |
平成19年度 | 4,060 | 3,947 | 800 | 799 | 20.2 |
平成20年度 | 4,543 | 4,412 | 877 | 875 | 19.8 |
平成21年度 | 5,489 | 5,331 | 955 | 951 | 17.8 |
平成22年度 | 4,896 | 4,736 | 927 | 925 | 19.5 |
平成23年度 | 4,142 | 4,003 | 794 | 790 | 19.7 |
平成24年度 | 5,032 | 4,878 | 1,220 | 1,220 | 25.0 |
平成25年度 | 5,078 | 4,907 | 915 | 910 | 18.5 |
平成26年度 | 5,058 | 4,885 | 1,190 | 1,185 | 24.3 |
平成27年度 | 5,130 | 4,941 | 944 | 944 | 19.1 |
平成28年度 | 4,539 | 4,394 | 842 | 842 | 19.2 |
平成29年度 | 4,453 | 4,279 | 830 | 828 | 19.4 |
平成30年度 | 4,978 | 4,812 | 906 | 905 | 18.8 |
令和元年度 | 6,161 | 5,954 | 1,091 | 1,088 | 18.3 |
令和2年度 | 7,082 | 6,388 | 1,175 | 1,174 | 18.4 |
令和3年度 | 9,190 | 8,757 | 1,605 | 1,600 | 18.3 |
令和4年度 | 9,110 | 8,712 | 1,632 | 1,625 | 18.7 |
注 平成18年度以降の受験者数は欠席科目がない者(有効数)。 |
注釈
出典
- ^ 中小企業診断協会 中小企業診断士って何 (PDF)
- ^ “中小企業支援事業の実施に関する基準を定める省令”. e-Gov. 2020年1月18日閲覧。
- ^ 中小企業診断協会 中小企業診断士って何
- ^ 中小企業診断士制度のQ&A集 (PDF)
- ^ “日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能に” (PDF). 野村総合研究所. p. 5 (2015年12月2日). 2022年11月4日閲覧。
- ^ データでみる中小企業診断士 - 2011年1月の社団法人中小企業診断協会アンケート調査結果
- ^ 大阪で初となる中小企業診断士の登録養成機関を設置し、仕事を続けながら学べる1年制の登録養成課程を2019年2月に開講します
- ^ a b 令和5年度中小企業診断士第1次試験について(試験案内の概要) - 中小企業診断協会(2023年3月15日)2023年8月6日閲覧。
- ^ “中小企業診断士に合格できる勉強時間とは?勉強方法についても解説!”. 株式会社オンラインスクール. 2022年11月4日閲覧。
- ^ a b 【重要なお知らせ】那覇地区における令和5年度中小企業診断士第1次試験の受験者の皆さまへ - 中小企業診断協会(2023年8月4日)2023年8月6日閲覧。
- ^ a b c d “中小企業診断士1次試験 那覇の会場 台風で中止に 救済求める声”. NHK沖縄放送局. (2023年8月6日) 2023年8月7日閲覧。
- ^ a b c “資格試験中止に落胆 中小企業診断士 那覇地区の250人”. 沖縄タイムス. (2023年8月7日) 2023年8月7日閲覧。
- ^ “「あまりにひどい」年1度の試験が沖縄だけ取りやめ 中小企業診断士 受験者ら落胆の声、ネット署名も 台風6号”. 琉球新報. (2023年8月6日) 2023年8月7日閲覧。
- ^ 西村康稔 [@nishy03] (2023年8月6日). "2023年8月6日のツイート". X(旧Twitter)より2023年8月6日閲覧。
- ^ 【重要なお知らせ】那覇地区における令和5年度中小企業診断士第1次試験の受験申込者の皆様へ - 中小企業診断協会(2023年8月8日)2023年8月18日閲覧。
- ^ 中小企業診断士試験の再試験の実施について - 経済産業省(2023年8月12日)2023年8月21日閲覧。
- ^ 8月18日【重要なお知らせ】那覇地区における令和5年度中小企業診断士第1次試験の受験申込者の皆様へ - 中小企業診断協会(2023年8月18日)2023年8月29日閲覧。
- ^ a b c 令和5年度中小企業診断士第1次試験を那覇地区で受験申込をされた皆様へ (PDF) - 中小企業診断協会(2023年9月6日)2023年9月10日閲覧。
- ^ a b 令和5年度中小企業診断士第2次試験について - 中小企業診断協会(2023年8月25日)2023年9月10日閲覧。
- ^ 令和2年度の中小企業診断士第2次試験の実施について - 中小企業庁(2020年8月21日)2023年9月10日閲覧。
- ^ 平成31年度技術士試験の試験方法の改正についてのQ&A|公益社団法人 日本技術士会
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