パルス符号変調 概要

パルス符号変調

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/28 03:07 UTC 版)

概要

アナログ信号に対して標本化および量子化を行い、数列として出力する[1]サンプリング周波数が高く量子化ビット数が多いほど変換前に近い高品質なデータになるが、データサイズが非常に大きくなるという問題がある。PCMの実用化は古く、1943年から1946年まで運用されたSIGSALYで人類史上初めて実用化された。

種類

量子化の方式の違いにより、様々な種類のPCMが存在する。ほとんどの場合、現代に用いられているPCMはサンプリング周波数が一定である。PCMには非圧縮のものと圧縮されたものが存在するが、圧縮されたPCMは音質の劣化を抑えつつデータ量を削減している[注 1]。圧縮を掛けていないリニアPCMが最もエンコードデコードが簡単であり、回路やソフトウェアに掛かるコストの問題から、通信帯域が狭いあるいは記録容量が少ないなどの場合以外はリニアPCMが採用されることがほとんどである。但し、21世紀に入ってからは、圧縮する場合でも単に量子化の方法を工夫するよりは、MP3AACFLACなど、音声スペクトル分析やチャンネル間相関分析や予測などの様々な技法を駆使するデータ圧縮方式が多くなった。

リニアPCM(線形PCM)
線形量子化を用いたもの。例としては、CD-DADVD-Audio、一部のDVD-VideoBD-VideoPlayStation 3用ゲームソフトなどで採用されている。
ADPCM(適応差分PCM)
差分符号化と量子化幅の適応的制御により、品質をあまり落とさずにデータ量を圧縮するPCM。例としては、1990年代アーケードゲームなどで採用された。
DPCM(差分PCM)
差分符号化のみを用いて、データ量を圧縮するPCM。例としては、ファミリーコンピュータ音源チップの1機能として採用された。
折線量子化を用いたPCM
初期のPCMプロセッサー1977年発売のソニーPCM-1など)やNTで採用されているダイナミックレンジ圧縮のための量子化方式。3折線,5折線など、製品ごとに考慮する折線の本数に差異があり、ダイナミックレンジ伸長後の相当bit数も異なる(考慮する折線の本数が多いほどダイナミックレンジは改善するが、折線が多い分だけコストも高く付く)。
対数量子化を用いたPCM
電話網μ-lawA-law)やDATのLPモードなどで採用されている。デジタル版のコンパンディングである。
浮動小数を使用して量子化されたPCM
浮動小数点数を用いたPCM。可聴領域を-1.0~1.0と定めているが、その外部領域(-∞~-1.0、1.0~∞)の波形も潰さずに保持することが可能となっている。そのため、適切な場所で使用することで、クリッピングノイズ(音割れの一種)を防ぐことができる場合がある。また、非正規化数という例外を除き有効桁数が常に一定であることから、音量の大小で量子化歪みによる潰れ易さが変わらないという利点もある。例えば、メディアプレーヤーの内部処理や、DAWの内部処理と作業途中のプロジェクトファイルではこの形式が採用されることが多い。

ノイズと歪み

変調時、以下のノイズおよび歪みが発生する。

サンプリングノイズ

標本化雑音。周波数スペクトルで見るとサンプリング周波数の半分(ナイキスト周波数という)の周波数を折り目にして折り返したように現れることから折り返し雑音ともいう。

標本化定理により、最低でも音声に含まれる最も高い周波数成分の2倍以上のサンプリング周波数を持たない限り、高音の信号が折り返され、偽信号として現れる。このため、サンプリング周波数はより高いほどより高音を再現できる。

また、再生時には同様にして原信号を折り返したような偽信号が発生し、ノイズとなる。オーバーサンプリング方式では、最初に元信号をデジタルフィルタで数倍のサンプリング周波数に変換することで折り返し雑音を高周波数帯域に移動させ、その後にアナログ変換ローパスフィルタ回路による折り返し雑音の除去を行っている。

量子化歪み

上のグラフは元の信号(青)とそれを量子化した信号(赤)を示している。下のグラフは量子化誤差(2つの信号の差分)を示している。

原理上、量子化によってアナログ量からデジタル値にする際の端数処理による誤差量子化誤差という)のため、歪み(量子化歪み)が発生する。また、これによる雑音を量子化雑音という。これを抑えるためには、量子化ビット数を増やす必要がある。

クリッピングノイズ

録音時などに、音量が可聴領域(量子化できる最大音量)を超えてしまった部分の波形が切り落とされる処理(クリッピング)により発生するノイズ。これを防ぐには、音声記録時に音量を下げる必要がある。ただし、可聴領域の幅に対して音量が極端に小さい場合は量子化歪みで波形が潰れてしまうため、適切な音量で記録を行うことが大切である。

音割れを修復する作業をデクリッピングなどと呼ぶ場合があるが、この作業で得られる波形はあくまで予測によるものであり、本来のものと大きくずれている可能性がある。


注釈

  1. ^ マスキング効果ともヴェーバー‐フェヒナーの法則とも解釈できる。
  2. ^ 192kHz時のみ5.1chサラウンド。
  3. ^ 2008年現在、環境にもよるがCPU占有率1%未満。

出典

  1. ^ 沖村 & 高橋 1991, p. 110.
  2. ^ HDサラウンドサウンド向けのロスレスオーディオ、ドルビーTrueHD”. ドルビーラボラトリーズ. 2013年5月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年6月20日閲覧。
  3. ^ “次世代サラウンド規格に完全対応。オンキョーのAVセンターTX-SA805に注目!”. Stereo Sound ONLINE (ステレオサウンド). (2007年5月25日). http://www.stereosound.co.jp/news/article/2007/05/25/1340.html 2021年6月20日閲覧。 
  4. ^ Oh!FM 1990年4月号「しゃべるんどすえ」[要ページ番号]
  5. ^ Oh!X 1995年12月号 BREEZE[要ページ番号]
  6. ^ Oh!X 1999年夏号「内蔵音源を駆使した高品位ステレオ PCM 再生」[要ページ番号]






パルス符号変調と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「パルス符号変調」の関連用語

パルス符号変調のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



パルス符号変調のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのパルス符号変調 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS