ジオマンシー ジオマンシーの概要

ジオマンシー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/04/09 08:34 UTC 版)

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エジプトまたはシリアで1241年から1242年に Muhammad ibn Khutlukh al Mawsuli が製作したジオマンシー用装置。ダイヤルを回すとドットのパターンが無作為に現れるので、それを解釈する。 (大英博物館

アフリカおよび中世ルネサンス期のヨーロッパで流行し、社会のあらゆる階級で行われた。17世紀まで本や論文が出版されていたが、オカルトが流行らなくなると共に出版も下火になった。近年、John Michael Greer の作品などで再び注目されるようになり、主なオカルトサークルでジオマンシーが行われるようになっている。

歴史

16個のジオマンシーの形。一行目から順に、プエル、アミッショ、アルブス、ポプラス、フォーチュナ・メジャー、コンジャンクショ、プエラ、ルベウス、アクウィシショ、カルサー、トリスティシャ、ラエティーシャ、カウダ・ドラコニス、カプト・ドラコニス、フォーチュナ・マイナー、ヴィア。

ジオマンシーはギリシア語geōmanteía に由来し、「大地による予言」を意味する。これは、アラビア語‛ilm al-raml(砂の科学)を翻訳したものである。ギリシア語ではそれ以前に raml(砂)という単語をそのまま使い、rhamplion または rabolion と呼んでいた。アラビア語ではジオマンシーを khatt al-raml あるいは darb al-raml とも呼ぶ[1]

ジオマンシーは中東のアラブ世界で理論付けされたが、文献がないため詳細は不明である。それぞれの形の名称は、ペルシャ起源を除いてアラビア語起源である。錬金術の文書ではインドがジオマンシーの起源だということが示唆されているが、Skinnerはこれをありそうにもないことと考えている[2]。アラブ商人の交易域が拡大することで文化や知識のやり取りがあったことから、アラブあるいはイスラムで発生したと考えられる。サハラ以南のアフリカで行われていた Ifá や sikidy といった占いに理論付けしたものとされている。これらの占いはアラブ世界での占いに基づくか同時に発展した。二進法の使用はアフリカの平原の文化によく見られる特徴である[3]

ヨーロッパでは中世初期からアラビア語の文献や論文の翻訳が始まり、ジオマンシー関連の文献もそのころ伝わった。イシドールスは、火占い、空気占い、交霊占いなどとともにジオマンシーを占い法のひとつに挙げているが、その用途や方法は記していない[4]。イシドールスがジオマンシーと記したのは、現在知られているジオマンシーではなく水晶占いとも考えられる。12世紀中期の詩人 Bernardus SilvestrisExperimentarius という詩は、占星術的ジオマンシーの作品を韻文にしたものである。ジオマンシーに関する論文で最初にラテン語に翻訳されたものとしては、Hugh of Santalla が翻訳した Ars Geomantiae がある。そのころには中東やアフリカのアラビア語を話す地域でジオマンシーが占い体系として確立していたはずである。他にもクレモナのジェラルドが、それまでは無視されていた占星術的要素と技法を取り入れたジオマンシーに関する文書を翻訳した[5]。それ以降、多くのヨーロッパの学者がジオマンシーを研究・実践し、多数の論文を書いた。中でもハインリヒ・コルネリウス・アグリッパChristopher CattanJohn Heydonの著作が有名である。しかし17世紀以降、科学革命の隆盛によってオカルトや占いへの興味が衰えていった。

19世紀になると Robert Thomas Crossエドワード・ブルワー=リットンらの活動によってオカルトへの関心が高まり、Franz Hartmann が出版した The Principles of Astrological Geomancy によってこの占い体系への関心が再燃した。この本やもっと古い本に基づき、黄金の夜明け団がジオマンシーなどのオカルトに関する知識の収集を開始し、アレイスター・クロウリーが様々なオカルト知識の集大成となる本を出版した。しかし、黄金の夜明け団のメンバーには古いオカルト技法を学び、練習し、教える時間があまりなかったため、占いや儀式の精巧な体系が圧縮され、プロセスの多くが失われた。実際、本来のジオマンシーにはパターンを認識する技量とその解釈の複雑な技能があったが、彼らはそれをいくつかの図形に基づいて事前設定された答を選ぶという方式に圧縮してしまった。

他の占い体系と同様、ジオマンシーにも神話的起源がある。あるアラビア語のヘルメス主義文書によると[6]イドリース(またはヘルメス・トリスメギストス)の夢枕に天使ジブリールが現れたという。イドリースが教えを乞うと、ジブリールはジオマンシーの図形を描き始めた。何をしているのか訊ねると、ジブリールはイドリースにジオマンシーの技法を教えた。この秘密を守るため、彼はジオマンシーの本を書いたとされるインドの王 Ṭumṭum al-Hindi を捜し求めた。この本は秘密の仲間を通して Khalaf al-Barbarĩ の手に渡り、彼がマディーナまで赴き、預言者ムハンマド自身がイスラム教に変換した。占いの技法を知っていることを告白し、彼はイスラム以前の預言者もジオマンシーを知っていたと説明し、ジオマンシーを学ぶことで誰でも預言者が知っていることを知ることができるかもしれないとした。

ジオマンシーの起源についての別の神話にもイドリースが関わっている[7]に祈るとイドリースは容易に生きていける方法を教えられた。イドリースは働くこともなく退屈に1日を過ごし、暇にまかせて砂に絵を描き始めた。すると見知らぬ人が現れ、何をしているのかと訊ねた。イドリースはただ遊んでいるだけだと応えたが、相手はひどく真剣そうに見えると応じた。イドリースは疑い深くそれを否定しようとしたが、相手はイドリースの描いている図形の意味の重大さを説明した。彼はイドリースに別の絵を描くよう命じ、イドリースが従うと再びその図形の意味と重大さを説明した。2人はこれを続け、イドリースは16種類の図形を発見し理解することになった。その人物はイドリースにそれらの形の形成方法と解釈方法を教え、通常の知覚だけでは知りえないことを知る方法を教えた。イドリースがジオマンシーを習得したことを確かめると、その人物は自分が天使ジブリールであることを明かすと姿を消した。イドリースは神と神のメッセンジャーに感謝し、誰にもその秘密を明かさなかった。彼が亡くなる前にジブリールが教えてくれた技法を記した本を書いた。

古代の記録から、イドリースは預言者ダニエルまたはエノクとされている。これによりジオマンシーは神からの正統な贈り物という説明がなされ、さらに預言者の1人が実際にそれを行っていたのだという正統性が与えられた。しかし、イブン=ハルドゥーンMuqaddima などジオマンシーを否定する立場からは、それがイスラム以前の知識体系であり、コーランの啓示によってそのような認識論は過去のものになったとしている[8]

ジオマンシーの発展と変遷の中で、様々な物語や劇が技法としてのジオマンシーを話の中に組み込んできた。『千夜一夜物語』の中のある物語では、アフリカ人魔術師とその兄弟がアラジンを探すのにジオマンシーを使っている。印刷された物語で初めてジオマンシーを登場させたのは、ウィリアム・ラングランドの『農夫ピアズの夢』で、その中でジオマンシーは天文学に必要な知識と不当に比較されている。1386年のジェフリー・チョーサーの『カンタベリー物語』では、「牧師の話」の中でジオマンシーをからかいの対象として登場させている。シェイクスピアベン・ジョンソンもジオマンシーを喜劇的息抜きとして扱っていた。ダンテ・アリギエーリの『神曲』でもジオマンシーをついでのように参照している。その「煉獄篇」の一節に次のような部分がある。

It was the hour when the diurnal heat no more can warm the coldness of the moon, wanquished by earth, or peradventure Saturn,

When geomancers their Fortuna Major see in the orient before the dawn rise by a path that long remains not dim...

Dante Aligheri, 「フォーチュナ・メジャー」と「ヴィア (path)」を参照している。

表の作成

シールド表。「母」は右から左にヴィア、アクウィシショ、コンジャンクショ、ラエティーシャである。「調停者」は描かれていないが、この場合はアミッショになる。

ジオマンシーにおいて占い師(ジオマンサー)は16個の乱数を生成し、数えることなく16行の点または印を作る必要がある。作った点の個数を数えないことで、占い師は多くの占いに必要とされる一見して無作為な機構を提供する。行を生成したら、占い師は各行から2点ずつ消して行き、各行に1点か2点が残るようにする。数学的には、その行の点の個数が偶数であれば2点が残り、奇数であれば1点が残る。残った点を4行ずつのグループにし、最初の4つのジオマンシーの形とする。これを元にして残る形を生成していく。形の生成が終わったら、ジオマンシーの「霊感」的部分[9]は完了し、残りはアルゴリズム的な計算だけである。

伝統的なジオマンシーでは、砂地の表面と手または棒を必要とするが、蝋タブレットとスタイラス、あるいは紙とペンでも代用できる。占いによっては儀式的な道具を必要とする場合もある。アラビア起源であるため、印や形を描く場合にアラビア文字のように右から左に描いていくことが多いが、絶対そうしなければならないというものではない。現代的ジオマンシーではコンピュータを使って乱数を発生させたり、物を投げて乱数を発生させたりする。ジャガイモの芽の数を数える[10]、専用のサイコロを振る[11]、さやに入っていた豆の個数を数える[12]といった方法もある。各カードがジオマンシーの形に対応した特別なカードを使う方法もある。この場合、シャッフルしたカードデッキから4枚だけカードを選べばよい。完全なジオマンシーの図を生成する機械もある[13]

得られた形をシールド表と呼ばれる特別な表に入れる。シールド表 (shield chart) はカントール集合の再帰的性質を思い起こさせる[14]。最初の4つの形を「母 (matres)」と呼び、表内の他の形を生成する元になる。「母」は表の右上端の4マスに順に置かれ、4つのうち右端が一番目の母となる(ここでも伝統的に右から左に置かれる)。次の4つの形を「娘 (filiae)」と呼び、「母」に使われている行を並べ替えることで形成される。1番目の「娘」は4つの「母」それぞれの1行目を順に組み合わせて形成される。2番目の「娘」も同様にそれぞれの「母」の2行目を使って形成される。「娘」は表の中の次の4マス、「母」と同じ行に置かれる。

8つの「母」と「娘」ができたら、4つの「姪 (nepotes)」を作る。このとき、「姪」のマスの上に2つのマスがあるので、それらのマスにある形を行ごとに加算することで「姪」の形が形成される。行ごとの加算とは、点の合計が奇数か偶数かを判定することで、奇数なら対応する「姪」の行には1点、偶数なら2点を記入する。概念的には、2点の行を「偽」、1点の行を「真」と解釈すれば、命題論理排他的論理和と同じことである[15]

「姪」が4つできたら、「姪」の場合と同じようにして「証人 (testes)」を2つ形成する。1番目と2番目の「姪」から右側の「証人」、3番目と4番目の「姪」から左側の「証人」を作る。同様に2つの「証人」から「裁判官 (iudex)」を形成する。16番目の形である「調停者 (superiudex)」は「裁判官」と1番目の「母」を同様に加算することで得られるが、これは外来のものと考えられ、最近では「バックアップの形」とされている。


  1. ^ Skinner, Stephen (1980). Terrestrial Astrology: Divination by Geomancy. London: Routeledge & Kegan Paul Ltd. pp.14-5
  2. ^ Ibid. p. 17
  3. ^ Eglash, Ron (1997). "Bamana Sand Divination: Recursion in Ethnomathematics." American Anthropologist, New Series, Vol. 99, No. 1 (Mar., 1997), pp. 112-122
  4. ^ Skinner, Stephen (1980). Terrestrial Astrology: Divination by Geomancy. London: Routeledge & Kegan Paul Ltd. p. 88
  5. ^ Ibid. pp. 94-7
  6. ^ Brenner, Louis (2000). "Muslim Divination and the Religion of Sub-Saharan Africa." Insight and Artistry in African Divination. ed. John Pemberton III. Smithsonian Institution Press. pp. 50-1
  7. ^ Maupoil, Bernard. "Contribution àlétude de l'origine musulmane de la géomancie dans le Bas-Dahomey." Journal de la sociéte des africanistes", volume 13, pp. 17-8.
  8. ^ Brenner, Louis (2000). "Muslim Divination and the Religion of Sub-Saharan Africa." Insight and Artistry in African Divination. ed. John Pemberton III. Smithsonian Institution Press. pp. 50-1
  9. ^ Josten, C.H. (1964). "Robert Fludd's Theory of Geomancy and His Experiences at Avignon in the Winter of 1601 to 1602", Journal of the Warburg and Courtauld Institutes, vol. 27, pp. 327-335
  10. ^ Pennick, Nigel (1995). The Oracle of Geomancy. Capal Bann Publishing. ISBN 1-898307-16-4.
  11. ^ Powers, Serena. Serena's Guide to Geomancy. Serena's Guide to Divination.
  12. ^ Ibid. Serena's Guide to Kumalak.
  13. ^ Savage-Smith, E.; Smith, M. B.; King, D. (1982). "A Islamic Geomancy and a 13TH-CENTURY Divinatory Device." BULLETIN CENTER ARCH. V.5, P. 42.
  14. ^ Eglash, Ron (1997). "Bamana Sand Divination: Recursion in Ethnomathematics." American Anthropologist, New Series, Vol. 99, No. 1 (Mar., 1997), pp. 112-122
  15. ^ Marcia Ascher, Malagasy Sikidy: A Case in Ethnomathematics, New York: Academic Press, 1997.
  16. ^ Greer, John Michael (2009). The Art and Practice of Geomancy. San Francisco: Weiser Books. ISBN 978-1-5786-3431-6. pp. 96-9.
  17. ^ Greer, John Michael (1999). Earth Divination, Earth Magic. St. Paul: Llewellyn Publications. ISBN 1-56718-312-3. pp. 195-214.
  18. ^ Cattan, Christopher (1591). The Geomancy of Master Christopher Cattan, Gentleman.
  19. ^ Greer, John Michael (1999). Earth Divination, Earth Magic. St. Paul: Llewellyn Publications. ISBN 1-56718-312-3. pp. 195-214.
  20. ^ Cattan, Christopher (1591). The Geomancy of Master Christopher Cattan, Gentleman.
  21. ^ Marcia Ascher, Malagasy Sikidy: A Case in Ethnomathematics, New York: Academic Press, 1997.
  22. ^ Transcript of Mathematician Ron Eglash's talk on fractals and their manifestations in various African cultures
  23. ^ 志賀市子 『中国のこっくりさん 扶鸞信仰と華人社会』 大修館書店〈あじあブックス〉、2003年。
  24. ^ Kumalak Geomancy Tolga Savas - Ancient Shamanic Divination Methods Shamanic Divination Methods
  25. ^ Peter H. Lee and Wm. Theodore de Bary eds, Sources of Korean Tradition Volume 1, New York: Columbia University Press, 1997.





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