ギフテッド教育 ギフテッド教育の概要

ギフテッド教育

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/07 22:30 UTC 版)

概要

ギフテッド教育は、ギフテッドに対応する学習計画である。世界中の様々な学校で行われているが、英語圏では通常 GATE (Gifted and Talented Education) や TAG (Talented and Gifted) という略称が用いられる。クラスは通常より難易度を増したもの、より掘り下げてあるいは進んだ内容を学ぶもの、課外教材を用いた定期的に行われるセミナー形式のものなどがある。ギフテッド教育は生徒自身の興味、保護者の要望、教師の推薦などが考慮される点において、トラッキング(能力・才能・達成度別クラス編成による進路コース設定)やゲート・キーピング学力試験などで選抜する入学審査)といった機械的、自動的な選抜方式と区別される。しかし集団の中から一定の基準で生徒を選び出すという点ではトラッキングやゲート・キーピングと変わらない。

ギフテッド教育に賛成する者は、ギフテッドやタレンテッドの若者が意欲、認識、知識において標準のカリキュラム以上のレベルにあるため、成績優秀 (Honors)、大学レベル (AP)、国際バカロレア資格といったコースや、エンリッチメント(個別教育)や促進クラスなどに入れて通常より学習進度を速めるのが最適だと考えている。また、教育機関は平均的な一般人の教育改革により力を入れるためギフテッドのニーズに十分応えていないという意見もある。ギフテッド教育も特別支援教育の範疇にあるにもかかわらず、ギフテッドに注がれるべき人材や財源などが反対側の端にいる子供達、つまり障害児特別支援教育につぎこまれていると主張する者もいる。盛んな障害者権利訴訟の影響で、障害者が享受している様々なサービスは意図しなくとも結果的にギフテッド教育の犠牲の上に立っているのではないかという意見もある。しかし多くの人間は、特殊教育もギフテッド教育も現状以上の人材や財源を必要としており、どの子供も自身の状況と学習意欲に合ったレベルの教育を受けるべきだという点で同意している。障害児もギフテッドも、大多数の標準的な生徒を中心にした現在の教育システムに合わず不満を持っている。

予算が少ない時にしばしばギフテッド教育は廃止されてしまう。理由の一つとして、ギフテッド教育が贅沢だとみなされるためで、多くのコミュニティーでギフテッドの政治的支援が低いままであることを端的に表している。しかしアメリカ合衆国におけるギフテッド教育の歴史を見ると、20世紀半ばより国家政策においてはギフテッドが支援され続けている。

歴史

ギフテッド・タレンテッド教育の歴史は千年以上遡ることができる。少なくとも中国の618年 - 907年)の時代には、神童宮廷に召集され特別な教育を受けていた。[1][2] 西洋で広く知られているのは、ギフテッドの人間に特別教育を与えることを主張したプラトン紀元前427年 - 紀元前347年)である。[1][2] ルネサンスの時期には芸術、建築や文学において独創的な才能を見せたものは政府と個人的なパトロン両方から支援をうけていた。[1][2][3]

アメリカ合衆国

アメリカ合衆国は、貧富に関係なく必要とする者すべてに特別な教育サービスを与えるべきであるという考えに徐々に近づいている。[1][2][4] 19世紀にアメリカ合衆国におけるギフテッド・タレンテッド教育の新しい規定が設けられた。最も初期の段階の一つは、1868年セントルイス公立学区で設けられた柔軟な進級制度で、1884年マサチューセッツ州ウバーンで、1886年ニュージャージー州エリザベスElizabeth, New Jersey)で、1891年にマサチューセッツ州のケンブリッジでも導入された。[1][5] セントルイスの制度は6年のカリキュラムを4年で修了しても良いというものであった。[5] 1920年までに全米主要都市の3分の2でギフテッドのための何らかの教育プログラムができた。[1]

20世紀の間に、ギフテッド・タレンテッド教育は国家の問題となった。1946年メンサが、1947年にアメリカ・ギフテッド協会が、1959年にナショナル・ギフテッド協会が、そして1959年には非凡な子供のための評議会 (The Council for Exceptional Children) の傘下にギフテッド協会が設立された。1957年スプートニク・ショックが引き金となって、アメリカ国民は数学科学分野における優秀な生徒の教育に緊急に取り組むべきだと考えた。翌年1958年に、ソ連との宇宙開発競争に勝つのが主たる理由で、国家防衛のための教育法 (w:en:National Defense Education Act)がアメリカ合衆国議会で可決された。[5]しかし1972年の報告書(マーランド文書) [6]において、議会はギフテッド・タレンテッド教育が未だに不十分であるという懸念を示した。[5] そして1993年にはアメリカ教育省が『国家としての優秀さ:アメリカの才能を育てる』 [7]という報告書を出版した。

2002年の時点では全米で37州のみにギフテッドに何らかの支援を与えるという法律がある。そのうち28州だけがギフテッドの子供一人一人の教育ニーズに合う支援内容でなくてはならないとしている。連邦法にはギフテッド教育に関するものが一つある。1988年にジェイコブ・K・ジャビッツ・ギフテッド・タレンテッド学生教育法 (Jacob K. Javits Gifted & Talented Student Education Act)が制定され、部分的に改定されて1994年の初等・中等教育法 (Elementary and Secondary Education Act)となり、2001年の落ちこぼれ防止法 (No Child Left Behind Act)に加えられている。

方式

通常ギフテッド教育は以下のカテゴリーのどれかに当てはまる。

別クラス方式
ギフテッドは他の子供達とは別のクラスや別の学校に集められて学ぶ。このような学級を「ギフテッド集合学級」ともいう。
モンテッソーリ教育方式
モンテッソーリ形式のクラスは3つの年齢グループが混ざっており、自分と同い年の子供達に混じったままで学習進度を上げる機会が与えられる。モンテッソーリは非常に自由な学習環境を与えるため、早ければ平均の倍のスピードで学ぶギフテッドの子供に適している。
促進方式
生徒達は自分の能力に合った高いレベルのクラスに進める。いくつかの大学飛び入学を認めており、ギフテッドの子供が弱年で大学で学ぶ機会が与えられている。この方式は、ギフテッドの子供が学力に釣り合った内容を学習できる一方、社会的に疎外される恐れがある。
取り出し指導方式
生徒は一定の時間をギフテッドの学級で学び、残りの時間は同級生と同じクラスで学ぶ。
エンリッチメント方式
生徒は全学習時間を同級生とすごすが、知的挑戦になるような特別の課題を与えられる。
ホームスクール方式
数多くの教育オプションが含まれる。パート・タイムで学校に通ったり、常時家庭で学習する方式。そのクラス内容・グループ構成・学習指導者や家庭教師には様々なオプションがある。また学校に通わず、家庭の学習にも教育指導ガイドラインを一切用いず、子供自身の興味・必要・目標に応じて自分で学ばせるアンスクーリングも含まれる。アメリカ合衆国では、ホームスクール方式を受けるギフテッドの子供が急増している。これは予算削減と標準化を念頭に置いた教育方針という二つの理由から学区の多くがギフテッド教育を削る傾向にあり、ギフテッド個人個人に対応できる個別学習法を模索する家族が増えたためと見られる。
サマー・スクール方式
夏休みの間にギフテッドの子供を対象にした集中講義やキャンプが行われる。1979年ジョンズ・ホプキンス大学で設立され、2007年現在ではイギリスアイルランドバミューダスペインタイ中国メキシコに支部があるCTY(Center for Talented Youth、タレンテッド児童のためのセンター)のサマー・スクールが有名である。[8]
課外活動
放課後の課外活動や趣味としてチェスのような知的ゲームが好まれる。

  1. ^ a b c d e f Colangelo, N., & Davis, G. (1997). Handbook of gifted education (2nd ed.). New York: Allyn and Bacon. 英語版の出典
  2. ^ a b c d Davis, G., & Rimm, S. (1989). Education of the gifted and talented (2nd ed.). Englewood Cliffs, NJ: Prentice Hall.英語版の出典
  3. ^ Hansen, J., & Hoover, S. (1994). Talent development: Theories and practice. Dubuque, IA: Kendall Hunt.英語版の出典
  4. ^ Newland, T. (1976). The gifted in historical perspective. Englewood Cliffs, NJ: Prentice Hall.英語版の出典
  5. ^ a b c d Piirto, J. (1999). Talented adults and children: Their development and education (2nd ed.). Englewood Cliffs, NJ: Prentice Hall.
  6. ^ Marland, S. P., Jr. (1972). Education of the gifted and talented: Report to the Congress of the United States by the U.S. Commissioner of Education and background papers submitted to the U.S. Office of Education, 2 vols. Washington, DC: U.S. Government Printing Office. (Government Documents Y4.L 11/2: G36)英語版の出典
  7. ^ a b National Excellence: A Case for Developing America's Talent
  8. ^ w:en:Center for Talented Youth 2007年2月23日17:13版
  9. ^ National Association for Gifted Children
  10. ^ Sapon-Shevin, M. (1994). Playing Favorites: Gifted Education and the Disruption of Community. Albany: State University of New York.英語版の出典
  11. ^ Purdue University Study: Gifted children especially vulnerable to effects of bullying
  12. ^ アメリカにおける能力別グループ指導
  13. ^ Identifying Gifted Children: A Practical Guide(ISBN-13: 978-1593630034)


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