ガレージキット ガレージキットの概要

ガレージキット

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/09 23:21 UTC 版)

概要

模型メーカーによって射出成形大量生産されるプラモデルに対し、レジンキャストやバキュームフォームのような少数生産向きの方法で作られる組み立て模型を「ガレージキット」と呼ぶ。個人やグループ、小規模なメーカーなどで作られる場合が多い。大量生産を前提としないため、プラモデルでは採算性や成型技術上の制約で作ることが難しいマイナーなアイテムもモデル化することが出来るが、価格は一般のプラモデルに比べれば高くなる。また組み立てにはある程度の模型製作技術を必要とする場合がある。

モデル化される対象はプラモデル以上に様々であるが、大きくキャラクターモデル系とスケールモデル系に分けられる。キャラクターモデル系の主な対象はアニメに登場する少女を中心とした各種フィギュア怪獣怪人特撮映画やTVに登場する兵器や宇宙船などのメカアニメに登場するロボット恐竜や現生の動物などであるが、その他にも原型製作者の個性に基づく多くのオリジナルの造形物が存在する。スケールモデル系の対象はプラモデルとほぼ同じで、航空機軍用車両艦船自動車、ミリタリーフィギュア、鉄道車両などであるが、既存のプラモデルや模型のないマイナーなアイテムが選ばれる場合が多い。

通常、元となる模型(原型)を製作後、分割してシリコーンゴムなどで型取りし複製を作るため、製品は原型の忠実なコピーとなる場合が多い。また少量生産のため製作者の個性を生かした造形が可能なので、原型を製作した人を「原型製作者」・「原型師」・「マスターモデラー」などと呼び、キットのパッケージなどに明示することが多い。

ガレージキットには、それのみで模型が完成する「フルキット」以外に、既存キットの形状を修正したり、別のタイプに改造するための「改造パーツ(コンバージョンキット)」や、より詳細なディーテールを加えるため「ディテールアップパーツ」などが存在する。キャラクター系のプラモデルでは、組み立てや製作時の安全面、金型の制約などからパーツ割りや造型で省略する部分が存在したり、設定に基づいて作られたプラモデルでは実際の作画と大きくイメージが異なる場合などがあり、それらを改善するための部品セットもある。また、近年のガンプラでは内部フレームが独立して作りこまれていることが多いため、内部フレームのみを流用して新たな外装パーツを組み込み、別のタイプを作成するためのキットも作られている。また、スケールモデル系でも、材質上成形するのが困難な部品については、既存のプラモデルなどからの流用を前提としている製品もある。

名称について

名称の由来について、欧米において自宅の裏庭などで専門業者顔負けの技術を用いて色々な物を作るバックヤードビルダーの作業場所が主に車庫(ガレージ)であった事、1960年代末にアメリカで流行したガレージロックであるという説が有るが、“ガレージキット”の語自体は日本で使われ始めた言葉であり、和製英語の一種である(ただし、英語としても通じる)。

特撮リボルテックを販売するケンエレファントは、初期のガレージキットの普及に大きな寄与をした雑誌『宇宙船』の編集者、聖咲奇が名付け親だとしている[1]ストリームベース小田雅弘は大阪ホビーランドの店主川端泰三が名付け親だとしている[2]

狭義のガレージキット

日本におけるガレージキットは、趣味で作成した模型を自ら複製したものが原点であったため、個人や模型サークルなどの団体、きわめて小規模なメーカーによって、個人的に、または同じ趣味を有する人へ頒布・販売する目的で少量生産する模型キット、即ち同人誌の模型版とでも言うべきものを「狭義のガレージキット」とし、大規模なメーカーが生産・販売するものは生産手法を問わず含めない、とする考え方がある。

メーカー製のキットについては、生産手法に基づいて「レジンキャストキット」、「バキュームフォームキット」などと呼び分ける場合がある。一般向けの販売を目的としていない非商業的なものも、ガレージキットの範疇に含まれる。ただし、この分類では実質的に同じものでも生産者によって区別することになり、さらに近年では製作技法の進展と造形素材の入手し易さなどから個人においても生産数が増えてきており、企業さながらに工場に量産を依頼する個人も現れるなど、定義は曖昧なものとなっている。

また、日本の初期のガレージキットの殆どはキャラクターモデル系だったため、キャラクターモデル系の少数生産キットのみを「狭義のガレージキット」とする考えもある。特に欧米では、ガレージキットの名称で日本製のキャラクターモデル系キットが輸入される以前から、スケールモデル系の少数生産キットは作られていたため、こちらの定義の方が一般的である。

3Dプリンタが一般にも普及されていくにつれて、3DCADで設計して3Dプリンタで出力するラピッドプロトタイピングを導入する事例も増えつつある。

歴史・沿革

1960年代から1970年代にかけて、欧米においては大量生産では採算の取れないマイナーな物をバキュームフォームキットとして生産・販売するメーカーが存在した。高額な金型が必要となる射出成型と比較し、家庭用の掃除機でも製作が可能なバキュームフォームは少数生産に向いた製法であった。また、ペーパークラフトをプラスチック板に転写したものも一般的であった。模型市場が拡大してくると、大手模型メーカーによって生産・販売される製品に対して不満を感じはじめた愛好者により、個人で製作したガレージキットが生産されるようになってきた。

日本においては、射出成型技術がある程度普及・成熟してからプラモデルが登場したため、中小の模型メーカー製品であっても射出成型キットが一般的であった。日本におけるガレージキットは「キャラクターモデル」に端を発している。1970年代以前では、玩具メーカーによって子供向けに作られる「おもちゃ」しかキャラクター造形物が無かった。後年になり当時の映像作品を見て成長した世代の一部の愛好者・モデラーが、劇中のイメージを忠実に再現したいわゆる鑑賞に耐える模型を欲するようになったものの、市販品がない、という理想と現実の乖離を埋めようとして自主製作を始めた。当初は素材や製作ノウハウもなく、製作方法もバキュームフォームなど一部の方法に限られていたため、製品も大まかな形だけを成型したものが多く、精密さや再現度は組み立てるモデラーの技術に大きく依存していた。また細かな部品は「メタルキャスト」といった技術が使われており、異なる素材の接着など完成させるにはかなりの技術を要した。

1971年頃には、塩ビ板を加工してスロットカー用のクリヤーボディを個人レベルで自作し、専門店を介して委託販売するケースが見られた[3][4]

「ホビージャパン」誌1979年8月号において歯科用レジンを用いて製作された、FFG製1/35スケールの「ロビー・ザ・ロボット」が発表されたのが、日本における個人製作ガレージキットの走りとされる[5]

1970年代末、土筆レジンクラフト研究所の「レジン」やニッシリの「プラキャスト」などの、二液混合型の無発泡ウレタン樹脂が一般向けに発売され、これらを用いて油粘土やシリコーンゴムを使って型取りした既成の部品や絶版の模型キットなどを複製する事が一部のモデラーにより行われるようになった。その方法や技術が徐々に模型誌上で紹介され始め、この技術の延長として、既成の模型キットや満足の行く造形物が存在しないアイテム、特にSF作品などに登場するキャラクターやメカニックのアイテムを全自作 (スクラッチビルド) した者達が、同じような立体物を欲している人たちのために、自分たちの作ったモデルを複製して頒布するようになった。日本SF大会などのイベントにおいて、ディーラーズルームの片隅で同人誌などと並んで売られはじめた。

無発泡ウレタン樹脂は接着が難しいなどの難点はあったものの、表面のディテールや細かなモールドも再現可能であったため、完全な自作の原型を無発泡ウレタン樹脂で複製したガレージキットが登場するにいたった。

こうした動きの中で1980年代初頭には大阪の海洋堂やボークスなどの模型店が、怪獣や特撮メカニックの無発泡ウレタン樹脂製キットを自社商品として販売しはじめた。時期を同じくして大阪でゼネラルプロダクツ (現ガイナックス) が創業し、独自に製作したTシャツやマグカップなどのSF関連商品とともにレジンキャストやバキュームフォーム、ホワイトメタル製のガレージキットを数多く販売しはじめた。

こうして、限られた同好の士のためだけに分け与えるアマチュアの行為という形で誕生したガレージキットは次第に本来の意味を飛び出し、模型店や中小模型メーカーによって、大手模型メーカーの出さない市場性が低いとされるアイテムを自社商品として流通させる商業量産品としての性格も併せ持つようになって行く。さらにその流れと歩調を合わせるように、かつては扱いにくく、満足な複製品を作るのが難しかった素材もメーカーの努力により技術開発が急速に進化して行き、成型技術の発達とあいまってキット製作者は原型のままに近い質の高い成型品が提供できるようになって行った。

1985年には、ゼネラルプロダクツによってガレージキットの頒布会として「ワンダーフェスティバル」 (ワンフェス) が開催されるようになり、愛好者の間で自作ガレージキットの取引が盛んに行われるようになった。 その後は市場も拡大し、少量多品種のガレージキットを専門に製造するメーカーも登場した。また、大手模型メーカーが大量生産・大量販売をするほどの市場性がないと判断した場合に、ガレージキットと同様の生産手法で生産される事も始まった。従って、なにをもってガレージキットと呼ぶのかという定義はかなり曖昧なものとなりつつある。


  1. ^ YouTube - 特撮リボルテック:聖 咲奇氏 コメント その1 ワンダーフェスティバル2010[冬]の特撮リボルテックブースに、「ガレージキットの名付け親」こと聖 咲奇氏にご来場いただきました!
  2. ^ MFLOG創刊号 小田雅弘「ガレージキット誕生物語」
  3. ^ 「永遠なれ!巣鴨サーキット」 - くるま村の少年たち(くるま村工房)、2023年11月21日閲覧。
  4. ^ THE ORIGINAL MODELS PART2 modeling by hirofumi makino - くるま村の少年たち(くるま村工房)、2023年11月21日閲覧。
  5. ^ 『日本プラモデル50年史』 P254
  6. ^ オリジナルエッチングパーツ製作法『F式』
  7. ^ エッチングの基礎
  8. ^ 3D出力サービス


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