オタネニンジン 名称

オタネニンジン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/30 15:55 UTC 版)

名称

1997年に発見された推定樹齢500年の高麗人蔘(由志園にて)

本種は元来「人蔘」と呼ばれ、中国、朝鮮半島、および日本では、昔からよく知られた薬草の1つだった。枝分かれした根の形が人の姿を思わせた事が、その名称の由来と言われている。

10世紀前半成立の『和名類聚抄』巻20「草類」の人参に関する記述では、和名が「加乃仁介 久佐」(カノニケ草)と表記されていた[10]

朝鮮語では漢字語の「인삼」がよく用いられ、特に貴重な野生物は「山蔘朝鮮語版」(산삼)と呼ばれる[11][12]。別の固有語名の「シム」()もあるが、現代の朝鮮語では「シンマニ朝鮮語版」(심마니、職業としての「山蔘採取者」の意)や感嘆詞の「シンバッタ」(심봤다!、「良いものを見つけた」の意)ぐらいにだけ残っている[11][12]。また、中国東北部では「棒槌」(bàngchuí、「木槌」「洗濯棒」の意)とも呼ばれる[13]

御種の由来

「御種人蔘」の名に冠される「御種」の部分の由来には、幾つかの説が存在する。

1つには、江戸時代の3代将軍徳川家光の時代に、関東地方の日光で栽培に成功し、江戸幕府が各藩に「種子」を与えたので「御種人参」と称されたとも言われる[14]

また1つには、江戸幕府の8代将軍徳川吉宗対馬藩に命じて朝鮮半島で種子と苗を入手させ、試植と栽培・結実の後で各地の大名に種子を分け与えて栽培を奨励し、これを敬って「御種人参」と呼ぶようになったと言われる[15]

日本では栽培成功以前の「人蔘」は、朝鮮半島からの輸入に依存していた。

人蔘とニンジン

このように「人蔘」の語は元来本種を指していたが、日本においては、江戸時代以降、セリ科の根菜“胡蘿蔔”[注 1](こらふ、現在のニンジンのこと)が舶来の野菜として知られるようになると、本種と同様に肥大化した根の部分を用いるため、これを類似視して「せりにんじん」などと呼んだ[16]

時代が下るにつれて“せりにんじん”は基本野菜として広く普及し、名称も単に「にんじん」と呼ばれる事例が多くなった。一方で、本種は医学の西洋化につれて、次第に使われなくなっていったため、いつしか日本語で「人蔘」と言えば“せりにんじん”を指すのが普通となった。

その後、区別の必要から、本種に対しては、明示的に拡張した「朝鮮人蔘」の名が使われるようになった(レトロニム)。

第2次世界大戦後以降、日本の人蔘取扱業者は、輸入元の大韓民国で嫌がられる「朝鮮」の語を避けて「薬用人蔘」と呼称してきた。しかし、後に「薬用」の名称が薬事法に抵触すると行政指導を受け、呼称を「高麗人蔘」へ切り替えた。

以上2種類の植物について、各国語の呼び名の対照は、以下の通り。

日本語 中国語 繁体字/簡体字 朝鮮語 英語
本種 御種人参(御種人蔘)
高麗人参(高麗人蔘)
朝鮮人参(朝鮮人蔘)
人蔘/人参
[rénshēn、レンシェン]
인삼人蔘
[insam、インサム]
[sim、シム][11]
ginseng
[ジンセン]
(中国語の音を真似た)
ニンジン にんじん (人参) 胡蘿蔔/胡萝卜
[húluóbo]
紅蘿蔔/红萝卜
[hóngluóbo]
など
당근唐根
[danggeun、タンクン]
carrot
オタネニンジン 根 生[17]
100 gあたりの栄養価
g
食物繊維 g
g
飽和脂肪酸 g
一価不飽和 g
多価不飽和 g
g
他の成分
水分 g
水溶性食物繊維 g
不溶性食物繊維 g
ビオチン(B7 μg

[18]。廃棄部位: 茎、りん皮及び根盤部
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。

注釈

  1. ^ 「蘿蔔」は「大根」を意味し、「胡蘿蔔」はいわば「南蛮大根」、また「紅蘿蔔」は「赤大根」といった意味になる。
  2. ^ いわゆる西洋薬と異なり、生薬の多くの場合は、様々な成分が含有されており、その全てを列挙する事は現実的でない。

出典

  1. ^ a b 大場秀章(編著)『植物分類表』(第2刷)アボック社、2010年。ISBN 978-4-900358-61-4 
  2. ^ a b c 米倉浩司『高等植物分類表』(重版)北隆館、2010年。ISBN 978-4-8326-0838-2 
  3. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Panax ginseng C.A.Mey.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2012年8月13日閲覧。
  4. ^ "'Panax ginseng C.A. Mey.". Tropicos. Missouri Botanical Garden. 2200621. 2012年8月13日閲覧
  5. ^ "Panax ginseng C.A. Mey" (英語). Integrated Taxonomic Information System. 2012年8月13日閲覧
  6. ^ a b "Panax ginseng" - Encyclopedia of Life
  7. ^ a b "Panax ginseng". National Center for Biotechnology Information(NCBI) (英語).
  8. ^ a b c d e 薬草園だより Vol.2015.春夏号(第6刊)” (PDF). 神戸学院大学薬学部附属薬用植物園 (2015年). 2019年2月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年3月8日閲覧。
  9. ^ a b c d e 貝津好孝 1995.
  10. ^ 中田祝夫(編)『和名類聚抄 元和三年古活字版二十巻本 附 関係資料集』勉誠社文庫23、第3刷、1987年、229頁。国立国会図書館蔵。
  11. ^ a b c 인삼(人蔘)” (朝鮮語). 韓国民族文化大百科事典. 2023年10月2日閲覧。
  12. ^ a b 木口政樹 (2018年4月12日). “<コラム>「崇拝」する日本人もいる、韓国のチョーセンニンジンとは”. Record China. 2023年10月2日閲覧。
  13. ^ 昆明植物研究所. “人蔘”. 《中国高等植物数据库全库》. 中国科学院微生物研究所. 2009年2月24日閲覧。
  14. ^ a b 日本薬学会(編集)『薬学生・薬剤師のための知っておきたい生薬100 ―含 漢方処方―』 東京化学同人、2004年3月10日発行、93頁、ISBN 4-8079-0590-2、ISBN-13:978-4-8079-0590-4。
  15. ^ a b c d e f g h 田中孝治 1995.
  16. ^ 貝原益軒『菜譜』に「胡蘿蔔」の項目あり、「せりにんじん」と訓じている。明治時代の刊本が国会図書館近代デジタルライブラリー[1] で閲覧できる。
  17. ^ 文部科学省日本食品標準成分表2020年版(八訂)
  18. ^ 厚生労働省日本人の食事摂取基準(2020年版)
  19. ^ 大場秀章 編「小石川植物園前史「吉宗と小石川薬園」」『日本植物研究の歴史 小石川植物園300年の歩み』東京大学http://umdb.um.u-tokyo.ac.jp/DKankoub/Publish_db/1996Koishikawa300/01/0102.html2023年4月4日閲覧 
  20. ^ 日本薬学会(編集)『薬学生・薬剤師のための知っておきたい生薬100 ―含 漢方処方―』 東京化学同人、2004年3月10日発行、92頁、ISBN 4-8079-0590-2、ISBN-13:978-4-8079-0590-4。
  21. ^ 松本真悟「島根県の土壌と農業」『ペドロジスト』第58巻第2号、日本ペドロジー学会、2014年、88-92頁、doi:10.18920/pedologist.58.2_88ISSN 0031-4064 
  22. ^ ジンセンベリー
  23. ^ 日本食品標準成分表2020年版(八訂)494頁” (PDF). 文部科学省 (2022年5月30日). 2023年1月31日閲覧。
  24. ^ Hitoshi Kaneko and Kozo Nakanishi (2004). “Proof of the Mysterious Efficacy of Ginseng: Basic and Clinical Trials: Clinical Effects of Medical Ginseng, Korean Red Ginseng: Specifically, Its Anti-stress Action for Prevention of Disease”. Journal of Pharmacological Sciences 95 (2): 158-162. doi:10.1254/jphs.FMJ04001X5. https://doi.org/10.1254/jphs.FMJ04001X5. 
  25. ^ CHOI, Kwang-tae (2008). “Botanical characteristics, pharmacological effects and medicinal components of Korean Panax ginseng CA Meyer”. Acta Pharmacologica Sinica (Wiley Online Library) 29 (9): 1109-1118. doi:10.1111/j.1745-7254.2008.00869.x. https://doi.org/10.1111/j.1745-7254.2008.00869.x. 
  26. ^ Lee, Jayeul and Lee, Euiju and Kim, Donghyun and Lee, Junhee and Yoo, Junghee and Koh, Byunghee (2009). “Studies on absorption, distribution and metabolism of ginseng in humans after oral administration”. Journal of ethnopharmacology (Elsevier) 122 (1): 143-148. doi:10.1016/j.jep.2008.12.012. https://doi.org/10.1016/j.jep.2008.12.012. 
  27. ^ Asian Ginseng”. National Center for Complementary and Integrative Health (2016年11月29日). 2019年11月10日閲覧。
  28. ^ Geng J, Dong J, Ni H, Lee MS, Wu T, Jiang K, Wang G, Zhou AL, Malouf R (2010年12月8日). “朝鮮人参の認知機能向上効果の確証的なエビデンスはない”. Cochrane. 2019年11月10日閲覧。
  29. ^ 医療関係者の方へ ホーム > 海外の情報 > 朝鮮ニンジン”. 厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』 (2021年3月12日). 2022年8月20日閲覧。
  30. ^ 広辞苑第5版






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